こんにちは、ちゃむです。
「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

51話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 転送ゲート③
ロンはイサベルの頭の上に置いていた手を下ろした。
そっとセレナの視線を伺うと、セレナはにっこりと微笑んでいた。
二人は目で会話を交わした。
「うまくできたか?」
「よくできました。」
「お前が自分自身を信じていなくても、私はお前を信じている。」
ここまでは、実はロンの本心であり心の核心だった。
その後の言葉はただ理論で覆った説明に過ぎなかった。
イサベルを安心させるためには「論理」が必要だとロンは考えた。
ロンの目から見たイサベルは、極めて理性的で数学的、論理的な子だったからだ。
疲労感を十六回も語るときに数字を指定するような子だから。
だから感情よりも論理でイサベルを安心させてあげようとしたのだ。
後ろで見守っていたビアトンは満足げに微笑んだ。
「わあ、本当に素敵です。大きな力と権利には、それに応じた大きな義務が伴うなんて!これからもたくさん義務を果たしてください。私のダークサークルも責任取ってくれるんでしょう?」
移動ゲートの上に立ったローンがビアトンを見つめた。
「次はお前だ、副官。」
「……え?」
ビアトンは一瞬たじろいだ。
皇帝がまず自ら志願したのだから、次は副官が実験を行うのが順当だとは言える。
ロンがにっこりと笑い、その笑みを見たビアトンは再び妙な敗北感を覚えてしまった。
「狡猾だな。」
皇帝に剣で敗れた時でさえ、こんな敗北感は味わったことがなかった。
正確に言えば、このような敗北感はイサベルが生まれてから初めて味わうものだった。
『なぜまたたじろいでしまったんだ、俺は!』
とても素晴らしかったけれど。
それでも不満でふてくされた。
ロンは娘に無限の信頼を見せていたが、ビアトンはそうできなかった。
「私が陛下を信じられなかったのではなくて、陛下が私にばかりまた責任を任せようとしているようで、胸がいっぱいになってしまったんです。」
ロンの声が聞こえた。
「それが君と私のレベルの違いということだ。」
ビアトンの顔が真っ赤に変わり、その直後、移動ゲートが作動してロンが姿を消した。
そしてしばらくして、ロンが戻ってきて言った。
「以前の移動ゲートよりずっと快適だな。」
安定性が証明された。
次はビアトンが実験してみて、やはり問題なく戻ってきた。
「そうですね。はるかに安定していますね?刺激的で不安な感じもなくなりました。転送ゲートの魔力消耗も大幅に減っています。画期的な進歩ですね!」
実験自体は大成功。
そしてしばらくして、イサベルはロンが言った言葉の意味を少し理解できるようになった。
『私はただ自分の仕事をしようとしているだけだ。』
それは単にロンがイサベルを安心させるために言った言葉ではなかった。
イサベルとテイソロンが作り上げた新しい転送ゲートシステムは、あらゆるルメアに広まり始めた。
[10歳の皇女の検証されていないシステム]
ビロティアン帝国の皇女。
ビロティアン剣術を習得できない皇女は、ビロティアン帝国の恥であり、失望だった。
もちろんオリンピアードで優勝するなど活躍を見せてはいたし、それに伴って皇女を称賛する人々も多くなった。
それでも基本的に「それでも剣術帝国の皇族が剣術をできないなんてありえるか?」というのが、剣術帝国の人々の基本的な考えだった。
「劣った資質を隠すための煙幕作戦なんじゃないの?」
「そうだよ。剣術ができないから別のものでごまかしてるんだ。こうやってうまく飾り立ててるってわけさ。」
「10歳の子どもが作ったものをどうやって信じるの?テイソロン?あいつも魔法の研究所で落ちこぼれた変わり者だって?」
噂はさらに噂を呼び、その噂はまた新たな噂を生んだ。
扇動はたやすかった。
イサベルとテイソロンが作ったシステムは、二人の名前をとって「テイサベル移動ゲート」と名付けられたが、多くの者がそれに疑いの目を向ける。
「皇女の未熟さを補うための事前計画にすぎないだろう。」
「魔塔の魔導技師たちにも作れなかったものを、どうやって皇女と変わり者が作れるっていうんだ?」
「実際には帝国民を実験台に使おうとしてるんだよ。」
多くの帝国民が、テイサベル移動ゲートの設置に反対した。
「でもすでに陛下とビアトン副官が安定性を確認したって聞いたけど?」
「それは、陛下とビアトン副官の身体が特別だからじゃないの?普通の人間だったら絶対に無理だよ。」
ロンはすでにこのような事態を予測していた。
彼はイサベルとテイソロンを夕食に招いた。
「テイソロン。君はすでに一度経験したことがあるだろう。」
「そうです。」
この数多くの噂は、実際には魔法研究所・ミロテールで作られたものだ。
彼らは変化を望まない。
既得権を持つ一部の魔法使いたちは、自分たちの持っているものを手放したくないのだ。
だからテイソロンは魔法研究所から追い出され、エルベ山脈でひとり研究を続けていた。
夕食が終わったあと、イサベルが先に口を開いた。
「お父様が私のために努力してくださっていること、よくわかっています。お父様が“父の仕事”をしてくださっているとおっしゃっていました何かがようやく分かってきた気がします。」
ミロテルの沿岸側で噂を流しているのは明白で、ロンはその噂を止めようと最善を尽くしていた。
そして、イサベルに向けられた悪意ある憶測が広がるのを阻止し、イサベルの耳に悪い言葉が入らないように徹底して遮断していた。
これから起こる世論戦に備えた準備も着実に進んでいた。
「でも、私は本当に大丈夫です。」
イサベルは、この世界よりも遥かに世論が発達した世界で生きてきた。
数回のクリックで世界旅行もできるメディアの世界。
その世界の中心にも立ち、多くの人々の注目を浴びてきた。
慰めや支援などの良い関心も多かったが、理由も分からない悪質なコメントも数多く受けてきた。
本人にとってはこのような状況はとても慣れたものだ。
イサベルはむしろロンを安心させた。
「もともと良い言葉より悪い言葉のほうが耳に残りやすくて、良い側より悪い側に流されやすいじゃないですか。特にそれが安全や命を脅かす種類のことなら、なおさらそうなるでしょう。」
「………」
「私はそれを悪いことだとは思いません。ただ当然のこと、当たり前だと思っています。私はまったく傷ついていませんから、心配しないでください。」
イサベルはにっこり笑ってロンを見つめた。
もう分かった。
あの無表情な仮面の奥にぎっしり詰まった父の心配が。
「ただ、私を心から信じてくれる人が一人でもいるというだけで、私はとても嬉しいんです。それがパパだから、もっと嬉しいんです。」
「……。」
「こんなにしっかりしているとは思いませんでした。とても頼もしくて、幸せで、感謝しています。」
そこまで話したイサベルは、少し恥ずかしそうに目を伏せた。
そのせいで見えなかったが、ロンの顔には笑みがぱっと咲いて、すぐに消えた。
そして数日後、帝国民を驚かせるニュースが次々と発表され始めた。
大陸第一のニュースソースと呼ばれる「囁きの言葉」の記者ユルリンは、切ない気持ちと同時に大胆な提案を受けた。
『ビロティアン皇帝が私に手紙を送った……』
ビロティアン皇帝が自ら手紙をしたためたのだ。
今、大陸を熱くさせている「テイサベルゲート」に関する取材を依頼された内容だった。
『なんで私に?』
以前オリンピアードでメダルを取ったイサベルにインタビューの質問を数件したことはあった。
イサベルは少しも嫌がることなく落ち着いて答えてくれた。
それだけだった。
雑誌「クッソクマル」の編集長はユルリンに言った。
「とにかく上手くやらないとね。うちの第1スポンサーはミロテル魔法連邦、第2スポンサーは魔塔ってこと、忘れちゃだめよ。変に魔法士たちの気に障るようなことしないように、分かった?」
つまり、ビルロティアンに不利にならないように取材しろという話だ。
「……はい。」
剣術家と魔法士、どちらか一人だけ選ばなければならない。
もし魔法使いを選ぶとしたら、記者の間では論争の的だった。
「剣術家には恨まれても、魔法使いには恨まれてはならない。」
そうなると人生そのものが疲れてしまうのだ。
もちろん全員がそうというわけではないが、剣術家はたいてい義理や名誉を重んじる傾向が強く、
個人的な感情よりは、大義名分を優先することが多かった。
それに対して魔法使いたちは、感情や自己の利益を最優先とする場合が多かった。
そのため、剣術家と仲違いするより、魔法使いと仲違いする方がもっと怖がられていた。
剣術家は一度怒って終わるが、魔法使いはむしろ死にたくなるほどに執念深くなるのだから。
「君もよく知っているだろう、ユルリン。」
「はい。剣術家を相手にする時は剣さえ気をつければいいですが、魔法使いを相手にする時は剣を抜いても気をつけなきゃね。」
「無駄に記者魂とか、帝国民の知る権利だとか、死命感を燃やしてしまうと、私たちみんなが困ることになるわよ。分かった?」
「分かってますって、先輩も本当に心配性ですね。私だって自分のご飯の種くらい大事に思ってますよ。」
「そう、頼んだよ。」
ユルリンは一人でビルロティアン皇宮へ向かった。
取材を進めていくうちに、少し奇妙なことが起こっているのに気づいた。
最初はイサベル皇女の乳母、ルルカだった。
夜明け前。
ルルカと会った場所はエルベ山脈へ向かう「テイサベル移動ゲート」の前だった。
ルルカは言った。
「はい。直接支援しました。」
人々は皇帝が「ビルロティアンの肉体」を持つから安全だと言っているのだ。
一般の人々は彼らとは違うだろうと主張した。
だからルルカが志願した。
「記者さんもご存知かと思いますが、私は特別な肉体も持っていませんし、魔力も扱えない普通の人間です。私がテイサベル移動ゲートの安全性を証明してみせます。」
「皇宮の圧力とか、何か裏の働きかけがあったのですか?」
ユルリンは皇宮を悪く書くように記事を仕立てる必要があった。
それでずっとその方向に誘導しながら質問を続けた。
「全くありません。これは100パーセント私の意思です。皇女様はむしろ、私が先に志願したことをご存知ないかもしれません。」
「皇女様は、乳母が志願した事実をご存知ないと?」
「はい。皇女様には内緒で志願しました。」
「どうしてこんな選択をなさったのですか? 危険だとは思われませんでしたか?」
「テイサベル移動ゲートの安全性を証明するために、絶対に必要な過程じゃないですか。」
結局ルルカは自ら移動ゲートに身を任せ、エルベ山脈へ行って戻ってきた。
「エルベ山脈に積もっていた雪を持ってきました。」
それでルルカがテイサベル移動ゲートの安全性を証明する。
しかしルルカは最初から支援者ではなかった。
ユルリンは別の支援者と出会うことができた。
「あなたは第14回オリンピアードでメダルを獲得した……あのユリ?」
「私のことをご存知なんですね。」
「名前が私と似ていたので親しみを感じていました。」
簡単なあいさつを交わした後、ユリが言った。
「私は皇女様の侍女としてではなく、皇女様の友人として志願しようと思っています。」
「どういう意味ですか?」
「どんな圧力も命令もなかったということを確実に申し上げたいのです。私はただ皇女様の力になりたいんです。」
「それは皇女様に助けられたから、ということですよね?」
皇女から助けを受けた。
そして恩に報いるために立ち上がった。
その説明が最も個人性があり、ビロティアンには「不利な」説明になるだろう。
「それが理由じゃないとは言えません。でも私は皇女様を信じています。皇女様が夢見る世界は、本当に美しいんです。」
結局ユリも、自分自身でテイサベル移動ゲートの安全性を証明した。
しかし、それで終わりではなかった。
「皇后陛下ご自身が実演なさるとは思いませんでした。」
「上流が澄んでこそ下流も澄むのです。為政者たちが自らを示さなければ、帝国民たちはどうやって信じることができますか?」
ルルカ、ユリに続き、セレナまで参加した。
ユルリンは頭が痛くなってきた。
『みんなイサベル皇女にあまりにも好意的だわ。』
ビロティアンに不利な記事を書くのは簡単ではなかった。
それでも一つ、かろうじて引っかかりそうな点があった。
『みんなイサベル皇女と深い親交のある人たちだ。』
結局、彼らは皆イサベルの味方だった。
「『公正性が疑わしい』という表現程度は十分だ。」
彼女はそのまま取材を続けた。








