こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

108話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 日常②
ノアはクラリスと外で話せることに少し安心した。
部屋に行くという選択を拒んだのは、彼がクラリスに抱く感情がまだ整理できていなかったからだ。
彼はそんなもどかしい気持ちを抱えたまま、クラリスとともに歩き出した。
クラリスを一人きりで部屋に置いておくのは嫌だった。
そもそも、その男が自分だと言ったところで、それが治療の助けになるとは思えなかった。
彼は苦しみを抱える怪物であり、彼女は普通の人間だった。
他者という存在に魅了されることが果たして正常な感情といえるのか?
決してそうではなかった。
だからノアは自分の感情を「病気」の一つと分類し、早く治療すべきものだと割り切った。
彼らは静かに首都院の門を通り抜けた。
「わあ。」
近くの石板は霧で覆われ、遠くの山々は夜通し降り積もった雪で白く染まっていた。
「きれい。ああ……驚くほどだわ。」
クラリスは感嘆の声を上げながら、その美しい景色を楽しんでいた。
彼が何かを悟ったのか、片方の肩を軽くすくめて微笑んだ。
「雪が積もらないことを願ったんだ。」
「少女らしからぬ願い事ね。雪が積もらないと雪だるまを作れないってセリデン卿が残念がるんじゃない?」
「まあ、そうかもしれない。でも、バレンタイン王子がそうおっしゃるのは……。」
彼女が再び口にした「バレンタイン王子」という名前を聞くと、ノアはまたもや理由の分からない不快感が胸に押し寄せてきた。
それでも彼は耐え、彼女がバレンタイン王子との間で起こった話を全て聞き届けた。
ただし、特にコメントを返すことはしなかった。
「それで、少女の秘密の話って何なんですか?」
「うーん……。」
彼らは今朝ランニングで走った道に沿って、静かに歩を進めていた。
「ほら、これからどんな話をするにしてもさ……ノアが少し不快に感じるかもしれないけど。」
「それほど深刻な顔をするのか?」
「それが。」
クラリスは両手を軽く握りしめたまま少し躊躇い、話し始めた。
クノー侯爵夫人が持っていた特別な宝石に関する話だった。
ノアは、なぜクラリスが自分の感情を気遣いながらこんな話をしようとしたのか、すぐに察した。
「この話が……僕にとって不快になるかもしれないこと?」
ノアは足を止め、クラリスを見つめた。
「うん。」
クラリスもまた彼をしっかりと見つめ返しながら言葉を続けた。
「血統検査では、適合する血液がないという結果が返ってきたの、先週末にね。」
クラリスは魔法士団の結論を疑い始めていた。
ノアはその事実について特に不快感を抱いていなかった。
最初から彼は他の魔法使いに対して特に親近感を覚えることがなかったからだ。
「もちろん、宝石が持つ力の話が間違っている可能性もあるとは思ってた。でも、夫人以外の人物を正確に特定しようとしている様子を見ると……。」
「ただ見過ごすことはできなかった、ってことだね。」
「うん、そうだね。」
「でも、血統検査は現在存在する手法の中で最も正確な検査だし……。」
ノアは一旦話を止めた。
彼が少し前に言ったように、血統検査自体は信頼度が高い魔法だ。
だが問題は、その魔法を行い、結果を伝える役目を負った人物が、最終的には「人間」である点。
さらにノアは、検査結果が伝えられたあの日の週末に妙な光景を目撃したことを思い出した。
魔法使いたちがめったに姿を見せない第二城壁の中に、灰色のローブをまとった魔法使いがいた。
それは礼儀としてローブの階級章を身に着けていない者だ。
ノアはその手に手紙を持っていたことを思い出した。
もちろん、それがその魔法使いの個人的な事情で身元を隠していた可能性も否定できない。
だが……もし万が一。
本当にただの仮説にすぎないが、それが侯爵夫人の検査結果と関係があるとしたら?
「うーん……。」
これはただの取り越し苦労というよりも、明確な疑念だった。
魔法使い団が貴族たちの血統検査に特別関心を寄せる理由は見当たらないのだから。
「場所を……手配していただけますか、クラリス。私が直接確認いたします。」
ノアがはっきりとそう答えたことに驚いた様子だ。
クラリスはその意図を探るように慎重な表情を浮かべていた。
「大丈夫?」
「最初からそれを望んだわけじゃないんだよね?」
「そんな気持ちがなかったわけではないけど……この遠慮のない頼みだもの。」
「それでもないさ。私も罪深いことがあって、そこから抜け出そうとしているだけさ。」
「罪深いこと?」
ノアは黙って扇を揺らした。
どう考えてもまだ外部の人間に詳しく話せることではなかった。
「うん、わかった。もう何も聞かないよ。それにしても、本当に幸運だった。」
かなり緊張していたのか、クラリスは胸のあたりで深い息を吐き出した。
「気をつけてね。私に頼むということは、私が心配するのは当然じゃない?」
ノアは笑いながら先に歩き出し、クラリスもその後を追った。
「ノアだから心配するんだよ。もし私の言葉で傷つくようなことがあったら、どうしたらいいのか考えたら怖くなったんだ。」
「私が魔法師団をそれほど好きじゃないって知りながらも言うの?」
「でもこれは魔法そのものに対する疑問を提起することだよ。ノアは魔法師団が嫌いでも、魔法そのものは好きだよね?」
「もちろんそうだけど、あんまり言い過ぎないで。それでも私は少女の一番近しい友達なんだから。」
ノアは「友達」という大切な言葉を口にした瞬間、胸が熱くなった。
本当に、恩恵も分からない病のような気持ちだ。
初めて友達になってくれた少女に感謝しきれないというのに、それ以上を望むなんて。
「もちろん、ノアは私の一番近しい友達だよ。」
ノアはもうクラリスをまともに見ることができず、視線をそらし下を向いた。
「……!」
その瞬間、震えるように赤くなったクラリスの手先が目に入った。
どうして今になって気づいたのだろう。
クラリスは急いで首都園での急ぎの用事を思い出したかのように立ち上がった。
凍えるほど寒かった。
こんな風が吹く日に……!
『なんで、わざわざ外に行こうなんて言ったんだろう!』
彼ははだけたローブを脱ぎ、クラリスの頭の上にふわっと被せた。
魔法師の城の外では必ずローブを着用し、身元を明らかにしなければならないという重要な規則を完全に忘れたかのようだった。
「寒いなら寒いって言ってください!」
「思ったより大丈夫だったから。」
「大丈夫なわけないでしょ!」
彼は冷え切ったクラリスの手を握った。
凍えそうなほど冷たくなったその手に魔法で温もりを与え、彼自身もようやく安堵の息をついた。
「次からは必ず言ってください。私は……気づけないかもしれないので。」
この怪物のような体は温度調節がまともにできず、好きな女性を寒さの中に置き去りにしても、そのことにすら気づけなかった。
ノアは自分自身に対して本当に……呆れた気持ちだった。
「どうにかして、そろそろ戻った方が良さそうですね。」
そう言いながら、来た道を引き返そうとしたその時。
「ノア、分かってるよ。」
クラリスが彼の手首を掴みながら言った。
「今だってすぐに気づいてくれたじゃない。そうでしょ?」
それほど強く掴んだわけでもなかったが、ノアは全身が硬直したかのように、その場に立ち止まり突っ立ってしまった。
近くで見ると、彼のローブをぎゅっと握りしめ、裏返して被ったクラリスが微笑んでいた。
『あ……。』
ノアは一瞬、脚に力が入らなくなるのを感じた。
自分のローブを裏返して被ったクラリスがあまりにも可愛らしかったのだ。
「早く戻るのが良いでしょうね!」
彼は慌てて身体を反転させ、首都園の方向へ向かった。
そして戻れば……あの忌々しいローブの規律が待っているだろう。
ローブを引っぺがして、叩いて汚れを落とさなければならない気がした。
そうしなければ、クラリスが残した香りに苛まれ、とてもまともに生活ができないだろうから。







