こんにちは、ちゃむです。
「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

97話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 最後のデートの日
ロニ・ボルドウィンは暗い2階の廊下で、メロディの話をふと思い出した。
「ヒギンズの名誉のために出て行って殴られたって?そんなわけないじゃないか。」
自分でも知らずうちに口ごもった話に、想像の中のメロディが少し前と同じような質問を投げかけてきた。
『どうして?』
どうしてかって?
メロディは彼と幼い頃を共に過ごした親しい友人だった。
彼女のために彼が怒るのは、極めて自然なことだった。
『それだけですか?』
淡々としたメロディが、また改めて質問を投げかけてきた。
ロニーは答えられなかった。
突然、心臓が狂ったように激しく鼓動を打ち始めた気がした。
まるで、彼女の問いかけに対して答えがあると主張しているかのように。
「……おかしいのか?」
ロニーはそう言いながらも、ここ最近熱心に読んでいた本のいくつかを思い出した。
心臓が痛むほどに鼓動し、顔が熱くなって精神が混乱する――そのような症状は、その中でも何度か出てきていた。
そして小説の中では、それをとても特別な「気持ち」として尊く描いていたのだった。
『そんなわけない』
彼は自身の気持ちを抑えようとした。
『とにかく。ヒギンスのためにああしたわけじゃないって、はっきり言わなきゃ。』
それ以外のことは、話したあとにゆっくり考えても遅くない。
ちょうどそのとき、彼はロゼッタの部屋の前にたどり着いた。
応接室で別れて以来、ロゼッタと再会するのは今夜が初めてだった。
数時間を過ごしていたという話を聞いていたので、もしかしたら今もここにいるのではという考えに至った。
ロニは閉じられた扉に耳を当てて、音に神経を集中させた。
だが、特に聞こえてくる音はなかった。
『……寝たのかな?』
彼はしばらく悩んだ末、小さくノックした。
意外にもすぐ扉が開いた。
「ご主人様。」
扉を開けたのはロレンタ家の侍女の一人だった。
「お嬢様はすでにお休みになりました。」
「……そうか。」
ロニは首を伸ばしてロレンタのベッドの方へ視線を向けた。
しかし暗くて、メロディが一緒にいるかはわからなかった。
「お嬢様のお部屋で探している物があるのでしょうか?私がお持ちしましょうか?」
「いや、大丈夫。寝ているなら構わない。」
彼は一歩後ずさりながら、落ち着いた声で質問を投げかけた。
「ふむ、メロディも部屋に戻ったのか。」
ただ、なぜか気まずい気分になって少し顔が赤くなったのは抑えきれなかった。
その変化を察した彼女は、笑いをこらえながら答えた。
「はい、お嬢さまはお部屋に戻られましたよ。もしかしたらもう眠っているかもしれません。だいぶ時間が経ってますから。」
「わかった、ありがとう。」
ロニーは静かに扉を閉め、1階へと続く階段まで足早に歩いた。
するとふと、執務室の開いた扉の隙間から明るい光が漏れているのに気づいた。
『兄さんか?この時間まで執務室にいるなんて、よほど急ぎの用でもあるのか……?』
ロニーは彼を手伝いに行くべきかどうか迷った。
『でも、そうするとメロディに会えなくなっちゃうかもしれない……』
結局ロニーは階段の中ほどで立ち止まった。
やはりこの時間にエス兄さんに会いたくはなかった。
『はぁ、ほんとに。なんで僕ってこんなに立派な人格を持ってるんだ?』
彼はぶつぶつ言いながら階段をまた上がった。
執務室のドアが少し開いていたため、その隙間からクロードが座っているのが見えた。
『……あれ?』
ロニはいくつか奇妙な点に気づいた。
まず、机の上に書類が一つもなかった。
そして………
「いえ、やってみます。後でロレッタ様に説明しないといけないかもしれませんし。」
メロディがいた。
ロニはその場に立ち止まり、ドアの隙間から見える光景をじっと見つめた。
座っているクロードに向かって、メロディが深く腰をかがめていた。
まるで顔が膝につきそうなほどで、どこか妙に艶っぽくも見えた。
「……」
顔を近づけた二人が何かをささやいているようだった。
その内容は聞こえなかったが、二人の間に張り詰めた緊張感が最高潮に達しているのは明らかだった。
ロニーはなぜか拳を強く握りしめ、痛みを感じるほど力を込めた。
「それと、燃料ももう少し持ってこなきゃ。ちょっと行ってくるね。」
メロディが部屋から出てくるような気がして、ロニーは慌てて周囲を見回した。
だが、ちょうど隠れる場所が見つからず、再び執務室の方を確認するように振り返ったそのとき——
「あっ。」
思わず声が漏れてしまった。
もちろん、すぐに両手で口をふさいだが——
「……」
ピタリと寄り添っていた二人の姿を見たロニーは、もうこの場にはいられないと思った。
しかし、どうしても脚が動かなかった。
その無言の視線のせいなのか、ランプの光がすっかり消えていた。
「……」
ロニは見えない暗闇の中でじっと耳を澄ませた。
まるで今日に限って彼を困らせるように、“霧の中の淡いメロディ”が遠慮もなくまた質問を投げかけてきた。
少し前と同じ質問だった。
『なぜ?』
それは一体、何に対して「なぜ」と問うているのだろう。
ヒギンスという名前とは関係なく、ただメロディのためにスチュワート・ミドルトンを殴った理由?
結婚相手が現れたという知らせに彼の気分がやたらと悪かった理由?
それとも、ここから動けなかった理由?
実のところ、彼が理由を口にしなければならないことは、これ以外にも山ほどあった。
メロディとロニがこの屋敷で共に過ごした時間の分だけ──。
しかし、どれほど多くのことに手を焼いてきたかは、もはや関係ないと彼は思った。
これまで起きたすべての出来事に一つひとつ理由をつけていたが、結局はすべて、たった一つの理由からだった。
『君を――』
その後に続いた告白の言葉は、誰の耳にも届かない声となって、目の前に広がる暗闇へと静かに消えていった。
それは、明らかに甘く響く言葉だった。
もしここが、どこかの小説の中の世界だったなら、その言葉は世界を救うほどの力を持っていたかもしれない。
だが彼のいる場所は現実であり、そっと囁かれたその告白には、何の力もなかった。
虚空へと消えていくだけで、言わなかったことと何ら変わりはしなかった。
「……馬鹿みたいだ。」
彼は再び顎を引き、視線を落とした。
数日が過ぎ、ミドルトン家でメロディと過ごす最後のデートの日がやってきた。
今日の出会いを最後に、ヒギンス家はミドルトン家に丁重な断りの手紙を送ることになる。
しかしロニ・ボルドウィンは、メロディの最後のデートの日の朝、書庫でとても奇妙な光景を目撃した。
「メロディ!」
デートの準備をすべきメロディが、書庫の仕事をしているではないか。
彼女は長い髪をきちんと結い上げ、埃にまみれた地味なシャツとズボンを身につけていた。
ロニは、礼儀にうるさい彼女であることを知ってはいたが、それでもメロディのために驚かざるを得なかった。
どう見ても求婚者を迎える姿とは言えなかったからだ。
まあ、その求婚者に礼儀を欠くほうがむしろよかったが。
「こんにちは、ロニ。」
メロディは本を抱えたままそう挨拶し、ロニはぎこちなく片腕を上げて応えた。
「えっと……やあ。」
実はあの夜以来、ロニは何度かメロディと顔を合わせていた。
しかし、こんなふうに周囲に誰もいない状況で会うのは初めてだったため、少しばかり落ち着かない気持ちがこみ上げてきた。
「……うん、あの。」
ロニは気まずそうに両手をもぞもぞさせながら、ようやく一つの質問を絞り出した。
「な、何を……してるの?」
「ここに整理すべき本がたくさん見えたので、お手伝いに来ました。」
ロニの口から「デートってこと?」という言葉が喉まで出かかったが、なぜかメロディと会話を続けるのが難しく感じて、それ以上は口にしなかった。
いずれ時間が経てば分かることだと、そう思ったからだ。
「じゃあ、頑張ってね。」
彼はぶっきらぼうに答えようとして、急いで書庫を出ようとした。
メロディの手に持たれた本が『北部公爵と熱き婚約』であることに気づくまでは――
「そ、それは……!」
ロニは驚いて、彼女が持っていた本を思わず手で覆った。
「この本のことですか?」
メロディが彼の目の前に本をぐいと差し出した。
「もしかして読まれました?」
「ば、馬鹿なっ?!」
彼はぎょっとして一歩後ずさった。
「……ああ、読んでなかったんですね。とっても面白いんですよ。すごくロマンチックなんです」
メロディが名残惜しそうに語った話に、ロニは心が揺れた。
だからこそ、あの冷淡で機械のようだったクロード兄さんに心を開いたのかと。
それがどれだけ無茶なことか分かっていながらも、メロディはその本をブックカートに戻すと、別の本を手に取った。
「じゃあ、これ読んだことありますか?」
今回メロディが手に取ったのは『バラムトン皇太子との偽りの婚約』だった。
ロニはもう二度も嘘はつけなかったので、今回は素直にうなずいた。
「うん、だいたいは。」
「面白かったですか?」
「まあ、悪くなかったよ。」
ロニはメロディの横に置かれたブックカートを何気なく覗き込んだ。
そこには、ロニがここ数日読んでいた様々なタイプの婚約もの小説がぎっしり詰まっていた。
彼はその中から数冊を手に取った。
これらの本をどこに戻すかは、あまり難しいことではなかった。
最初に自分が取り出したものだったため、おおよそどの棚から取ったかを覚えていたのだ。
「手伝ってくださるんですか? ありがとうございます。」
「ふん。」
ロニはメロディの感謝の言葉にもただ鼻で笑っただけで、『北部公爵と熱き婚約』の本を本来の位置に戻してやった。
ただ、どうしても気になっていた本には、復讐心を込めて逆さに差し込んでおいた。
ささやかな復讐ではあったが、なぜか気持ちはすっきりした。
その後は『風のような皇太子との偽りの婚約』を整理した。
皇太子に対しては特に感情はなく、淡々と整理した。
次は『婚約者は幼なじみ』だった。
「……。」
ロニは整理を止め、本の表紙をじっと見下ろした。
この本にはさまざまな感情がこもっていた。あの夜に読んだ本であったため、なおさら――。
「あっ。」
ちょうど近くで本を整理していたメロディがそっと本を置き、彼の隣へと歩み寄った。
「その本、私が戻しましょうか?」
どうやらメロディは、ロニが本の戻し場所を知らずに困っていると思ったようだ。
「大丈夫、自分でできるから。」
ロニは手にした本を胸に抱えたまま、こくりと頷いた。
「わかりました。」
幸いメロディはそれ以上押し付けず、ブックカートを押して反対側の本棚の方へと歩いていった。
「ロニ、その本まだ読んだことなかったら……」
また彼女の声が聞こえてきた。
ちょうど本を置こうとしていたロニは、手を止めて棚と棚の隙間からメロディの背中を見つめた。
「読んでみてください。」
「これ?」
彼が尋ねると、メロディは別の本を手に取りながら、くるりと体を回して振り向いた。
狭い隙間を通して視線が交わった。
「はい、ロニが持ってるその本です。私の好きな本なんですよ。」
「好きだって?」
少し疑念を含んだ声に、メロディは明るく笑いながら答えた。
「はい、大好きです。本当に。」
「……」
「だから、よかったらロニも読んでみてください。」
「僕、もう読んだんだ。」
彼が沈んだ声で答えると、メロディは本棚の前にさらに一歩近づいた。
隙間からロニの顔をのぞき込みながら、
「もしかして、ロニはあまり……だったんですか?」
その問いにロニは一瞬だけ目をそらした。
その瞬間、メロディは自分の質問が彼の繊細な部分に触れてしまったのだと気づいた。
しかし、それが何なのかを確かめることはできなかった。
彼をもっと傷つけてしまうかもしれないという慎重な思いからだった。
「……好き。」
その時、ふいに棚の向こうからかすかな返事が聞こえてきた。
けれども、あまりにも小さな声だったため、近くにいたはずのメロディの耳にも届かなかった。
「ご、ごめんなさい。今なんて言いましたか?」
メロディが尋ねると、ロニは強い決意を顔に浮かべ、身を翻して別の棚へと足早に向かった。
「……好きなんだ。」
けれども、それからほんの数歩しか離れていないうちに、彼のつぶやきがはっきりとメロディの耳に届いた。
「えっ……?」
メロディが驚きながら聞き返すと、ロニは思わず振り返って、叫んでしまった。
「この本、好きなんだってば!」
「…あ。」
メロディのわずかな笑い声が聞こえた。
彼の言葉を何か誤解したのか、少し気まずそうに照れているようだった。
彼は本を棚に戻し、その背表紙にしばらく視線を置いた。
『はい、好きですよ。とても。』
そのときのメロディの声が思い出されて、彼はふっと微笑んだ。
「まったく、ほんとにしょうがないな、メロディ・ヒギンズ。」
彼はぶつぶつ言いながら、再びブックカートがあった場所に戻って別の本を手に取った。
「ところで、なんでここでそんなことしてるの?」
「え?」
メロディが振り返ると、彼は整理していた本の表紙を無意識にいじりながら答えた。
「今日って、デート…の日じゃなかった?」
「あ、それ。そうみたいです。」
メロディはいつの間にかすっかり空になったブックカートを見つめた。
ロニはしばらく黙って彼の体重をカートに預けていた。
「手紙が届いたんです。」
「手紙?まさかスチュアート・ミドルトンから?」
「ええ……そうなんだけど、ロニ、お願いだからそんな顔しないで。失礼な手紙じゃなかったから。」
「手紙の内容がどうであれ、あの名前を聞くだけでイライラするんだ。」
ロニは手に持っていた本をすべて棚に戻し、メロディの代わりに空になったブックカートを押し始めた。
メロディはロニの隣に並んで歩きながら、スチュアートの手紙について話した。
「昨日、使いの者を通じて内密に手紙が届いたんだけど、今夜は屋敷には戻らないって書いてあったの。」
「そんなの、昨夜のうちに知らせておくべきじゃないか?」
「もちろん、正式にはデート中ってことになるんだよ。」
「……?」
ちょうどその時、彼らは入口付近に到着して、カートを元の場所に戻した。
司書が手伝ってくれたことに感謝の言葉をかけ、彼らは軽く会釈してから図書室の外へと静かに出ていった。
「だからさ。」
ロニは廊下に立ち、メロディの話を整理してみた。
「ミドルトン家では君とあの子が付き合っていると認識してるけど、実際はそうじゃないってこと?」
「はい。」
「なんて子だい?ヒギンズ夫人にはお話ししたの?」
「もちろんです。」
ちょうど彼らは階段の前を通りかかった。
誰が言い出したわけでもないのに、自然とその踊り場に腰を下ろして話し始めた。
「お母さまの方は、むしろそれでよかったと思っているようです。考えてみれば、最初から反対されていましたから。私が一度でもデートに出かければ、嬉しいと思うでしょうね。」
「……確かに、そうかもね。」
ロニは上体を少し引いてメロディの顔を見下ろした。
膝に頭を預け、静かに息をつく様子に、なぜか寂しさを感じた。
『寂しさ……?』
ロニはそんなはずはないと頭を振った。
そもそも、メロディはスチュアート・ミドルトンのことを特に好んでいなかったのだから。
最後のデートが、こんなふうにドタバタで終わったことを、むしろ喜ぶべきだと自分に言い聞かせた。
「だろ?」
ロニはメロディの体を少し起こして、顔を見つめながら言った。
「じゃあ、今からあの説教に関して、君がすべきことは問題ないんだ?」
彼はメロディの両目をじっと見つめながら質問した。
「はい。」









