こんにちは、ちゃむです。
「オオカミ屋敷の愛され花嫁」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

49話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 克服
「お嬢様、出ましょうか?」
「うん、出てきて。」
私とアルセンはベッドの上に座って、変身したベティが出てくるのを静かに待っていた。
ベティがカーテンの向こうから言った。
「本当に……見たいとおっしゃるならやってみますけど……。怖かったらすぐに言ってくださいね?本当にいいんですか?」
「わかってるって。心配しないで、ベティ。」
「……飛んでいくのもダメですか?」
「わかったってば、何度言わせるの。」
「うん、飛んでいくのはダメ。本当に見つけるのが大変だったんだから。」
私たちの会話を静かに聞いていたアルセンがぽつりと口を開いた。
「ふう……、じゃあちょっとだけ待っててください。」
ベティの言葉が終わるや否や、カーテンの向こうから「ポン!」という音がした。
そして、茶色の煙がもくもくと立ち上った。
ベティはすぐには出てこず、ためらっているようだった。
私はアルセンの手をしっかり握り、膝をそろえてベティを待っていた。
それほど時間が経たないうちに、かすかに揺れて巨大なオオカミが現れた。
ふさふさした茶色の毛並みをしたオオカミが、じっと私を見つめた。
そして、ひとつ息を吐いた。
私はアルセンの手を強く握った。
『思ったより……、怖くないかも?』
私はベティの姿をしばらく見つめながら、そっと唾を飲み込んだ。
そのとき。
「お嬢様〜!ちょっとお待ちください!」
クロイが巨大な茶色のオオカミをカーテンの中へとさっと引き入れた。
ドシーン!
そして、
何かがガシャーンと砕ける音がしてから、ベティが再び姿を現した。
ベティの頭の上には大きな花冠がのっていた。
そして首には可愛いリボンと花がびっしり飾られていた。
カーテンの奥からクロイと他の女の子たちが「じゃんっ」と登場した。
「どうですか、お嬢様?少しは怖さが和らぎましたか?」
「まだ怖ければ、もっと花をつけましょうか!」
巨大なオオカミは、自分の体に花を飾っている侍女たちを見つめたあと、やがて私に視線を向けた。
そして、クスッと、口元を引き上げて笑って見せた。
「うーん……大丈夫みたい。ベティだから、そうなのかも?」
私は自分の胸にそっと手を当ててみた。
もちろんまだ心臓はドキドキしていたけれど、
イヴェリンと対峙したときのように、魂が飛びそうなほどの恐怖ではなかった。
『よし、こんなふうに適応してみよう。』
オオカミ一族の中には、私を快く思わない人たちがものすごく多かった。
昨日の宴会で見ただけでもわかるほどだった。
つまり、私を嫌っている人がものすごく多いということ。
だからもしかすると、昨日のようなことがまた起きるかもしれないのに、
そのたびにパニックになって逃げ回るわけにはいかない。
私は唾をゴクリと飲み込んだ。
「よし、大丈夫そう。ベティ、お願いしてごめんね。ありがとう。」
私の言葉が終わるや否や、巨大なオオカミがゆっくりと体を起こした。
そして。
ポン!
茶色の煙がもくもくと立ち上り、その中から頭に花をぶら下げたベティが現れた。
「ご心配なく、お嬢様。私は大丈夫ですから幸いです。」
「うん。私ね、オオカミたちを怖がらない練習をしてみたいの。」
私の言葉に、アルセンが首をくるっと回して私を見た。
「なんでそんな練習するの?」
「昨日みたいなことがあっては困るから。私がまた驚いて気絶でもしたらどうするの。」
「そっか……じゃあ、君の前では変身できないね。」
アルセンは大して気にしないように言った。
『危ない……発言じゃない?』
私はまばたきをしながら、じっとアルセンを見つめた。
アルセンに少しでも暴君の気配が見えたとすれば、きっと気のせいだったのだろう。
私はアルセンの腕をコツンと叩いた。
「変身を止められないようにすることはできないでしょ……もちろん昨日のように意図的にそんなことはしないだろうけど、人間のことなんてどうなるか分からないんだから。」
「なんで?俺が止めるよ。」
アルセンがバッと体を起こした。
「もういいよ、バカ。私が適応してみるから。」
私はアルセンに視線をそらしながら話しかけた。
「うーん……じゃあ、私が1日1回ずつ変身してあげましょうか?」
ベティが自分のキャンディスプーンをきちんと整えながら尋ねた。
「怖くないようでしたら、私が変身してお見せしますね。」
「本当?ありがとう、ベティ!」
「大したことじゃありませんよ。でも一つだけ約束してください。怖くなったら必ず言ってくださいね?」
「うん、そうする!」
私が「えへへ」と笑うと、ベティもつられて笑った。
そのとき、誰かが部屋のドアをノックした。
「どうぞ~」
私の言葉が終わるやいなや、ベティがドアを開けた。
ドアの外には侍女の一人が立っていた。
「お嬢様、お客様がいらっしゃいました。」
「お客様?」
「はい、エイデン卿からいらっしゃいました。」
エイデン卿?
「エイデン?」
私はぎこちなく頭を下げて立っているエイデンを見て、慎重に声をかけた。
「お嬢様!」
エイデンは私を見ると嬉しそうに笑いながら、頭を丁寧に下げて礼儀正しく挨拶した。
「お元気でしたか?」
「うん? うん……元気だったよ。」
あれこれいろんなことがあったけれど、それをわざわざ話す必要はないから。
私は「元気だったよ」という言葉で挨拶を終えた。
「でも、どうしてここに立ってるの? 中に入ろう。」
私はエイデンの手をそっと取って、彼を応接室へ連れていった。
「いや、それは……その、お嬢様が先にお会いしたいと……見ていただきたいものがあります。」
エイデンは何も言わずに私について来ていたが、ゆっくりと口を開いた。
私は首をくるりと回してエイデンを見つめた。
「私が見なきゃいけないものがあるって?」
「はい、ヘクター……のことなんですが。」
「ヘクター?」
ヘクターって誰だっけ?
私はエイデンの言葉を聞いて目をぱちぱちさせながら考え込んだ。
私が会った人の中に、ヘクターという人がいたかな?
そのとき、エイデンが首を傾けながら言った。
「はい、前に治療していただいた私の馬のことです。あの子の名前はヘクターです。」
「おお、ああ!」
私は手をぱちんと叩いて、思い出したようにエイデンを見上げた。
『あの子の名前がヘクターだったんだ。』
前にグレネとぶつかって足を大きく骨折していた馬。
私は心配そうな目でエイデンを見ながら尋ねた。
「でも、ヘクターはどうして?あのとき治療がうまくいかなかったの?」
「いえ!治療はうまくいきました。ただ……あの子の様子が少しよくなくて。」
エイデンはため息をついた。
「本当?どこか具合が悪いの?」
私が口にした言葉に、状態が悪いということが心配になった。
「それは言葉で説明するより、直接ご覧になったほうがよいかと思います。」
いったい何が起こっているの?
「ヘクターがここに来てるの?」
「はい、お連れしました。」
「そうなんだ、じゃあ見に行こうか!」
私があっさり答えると、エイデンの目がぱっと輝いた。
「魔獣の間にいるの?」
「はい、馬車に入れてあります。外からお見せするには……危険ですから。」
「わかった、今すぐ見に行こう。」
私はエイデンよりも先に立って急いで歩いた。
私たちはそれほど時間をかけずに厩舎に到着した。
ところが——
「おいおい!おい、このやろう! 厩舎が全部壊れちまうだろ!」
厩舎の中からギルバートの怒鳴り声が聞こえてきた。
私は急いで厩舎の中へ飛び込み、ギルバートを呼んだ。
「ギルバート?どうしたの?」
「お嬢様……、この子が厩舎の中をめちゃくちゃに壊してしまってます。」
ギルバートが指で馬を一頭指し示しながら言った。
彼が指し示した先には――
ドン!
暴れながら魔獣用の囲いの壁を後ろ足で蹴っている一頭の馬がいた。
私はその馬をすぐに見分けた。
「ヘクター!」
エイデンが急いでヘクターのもとへ駆け寄った。彼はヘクターの鼻筋をそっと撫でてあげた。
「ヘクター、暴れるのはもうやめて。」
「ヘクター?」
そのとき、ギルバートが慌てた声で私を止めた。
「お嬢様、ダメです。あいつはどれだけ凶暴かというと……、あれ?」
ヘクターはまだ興奮が冷めきらないようで鼻息を荒くしていたが、やがて私の元へ頭をすり寄せてきた。
私は慎重に手を伸ばし、ヘクターの鼻筋をやさしく撫でてやった。
ヘクターは軽く息を吐きながら、私の手に頭を預けた。
「ヘクター、どうしたの?ねぇ?エイデン、ヘクターに何か問題でもあるの?」
「それがまさに問題なんです、お嬢様……。この子……やはりそうでしたか。」
エイデンはため息をつきながら、馬の額に手を当てた。
「それがですね、家に連れて行ったら、この子ったら水も食べ物も口にせず、魔獣用の囲いの器を全部壊してしまったんです。あげくには囲いを飛び出そうとして……どれだけ大変だったか……」
「囲いを飛び出そうとしたって?」
「はい、お嬢様がヘクターを治療してくださった、その日の夜ですよ!最初は他に問題があるかと思って医者を呼んだんですが……」
エイデンは深いため息をついた。
「医者も蹴り飛ばしてしまって、治療費だけが無駄になりました……」
「……嘘ついてるんじゃないの?こんなにおとなしいのに?」
私は小さな手でやさしくたてがみを撫でるヘクターを見ながら尋ねた。
ヘクターは「ヒヒーン!」と、嬉しそうにいななきながら、首をすり寄せてきて、私の手のひらに顔を預けた。
ヘクターの後ろ、こそこそと動く彼のせいで馬房の壁にできたひび割れが目に入った。
「うーん……、嘘じゃなかったのね……」
「はい、本当です。だから何が問題なのか考えてみたんですが……お嬢様に会ってから、この子が言うことを聞かなくなったんです。」
エイデンはため息をついた。
「ヘクターはちょっと変わった馬なんですよ。自分が認めた人以外は絶対に背中に乗せないんですけど、」
「うん、それで?」
「この子、お嬢様のことが気に入ったみたいですね。」
「私が?何の話、それ?」
「水も飲まず、人の手も受けつけず、ただ死にたい一心でお嬢様のところに連れてきたんです……」
ヘクターはエイデンの言葉を理解したのか、ためらうように水をすするように飲み始めた。
「……あれ、あれを見てください。お嬢様の前だと飲もうとしてます。」
「ヘクター、いい子ね。どうして水を飲まなかったの?」
ヘクターは穏やかな目をぱちぱちさせながら私を見上げた。
吐息のように温かい鼻息が私の首にかかった。
「お嬢様に会いたかったようです。この特別なやつ……治療してもらったことを感謝していたようです。」
エイデンはヘクターのたてがみを撫でながらそう言った。
ヘクターは頭を振って、毛を揺らしながら、再び真っ直ぐな視線で私を見つめてきた。
「もっと早く連れて来たかったのですが、公演中だったので連れて来ることができませんでした。」
「そ、そんな……。じゃあ、これからどうすればいいの?私、これからは毎日ヘクターにご飯をあげなきゃいけないの?」
私の戸惑いに、エイデンがくすっと笑った。
「いえいえ、そんなことではなくて。あの……ヘクターを育ててみる気はありませんか?」
「……え?」
エイデンはヘクターの首元に手を添えた。
するとヘクターは勢いよく首を振って、エイデンの手を振り払った。
私は彼をじっと見つめた。
「長い間悩んでみたのですが、やはりこれが合っているような気がして……。」
エイデンが続けて言った。
「ヘクターは自分から私の背に乗ることを選びました。だから最初に出会った時は本当に大変でした。野良馬のように育って、誰も背に乗せようとしなかったんですよ……。それが私と出会って、私には背を預けてくれました。私がこの子を選んだのではなく、この子が私を選んだんです。」
はは、とエイデンの笑い声にヘクターの尻尾が嬉しそうに揺れた。
「ですが……どうやらこの子はもうお嬢様を主と決めたようです。お嬢様が主になってくだされば、この子たちもご飯を食べるようになるでしょう。」
エイデンはもう一度ヘクターの首を撫でようとしたが、ヘクターはきっぱりとエイデンの手を拒んだ。
「こいつ、神経質なやつみたいで……。ともかく、お嬢様に預けようと、こんなに無理をしてまで来たんです。」
「え?私、馬なんて飼ったことないけど……。それに、ケンドリック様が許してくださるかも分からないし……」
私はヘクターのたてがみを優しく撫でながら言葉を続けた。
「それはご心配なく、お嬢様。ご主人様が戻られるまで、このギルバートがきちんと……きちんと……」
ギルバートはヘクターをじっと見つめながら、ため息をついた。
「しっかりお世話します……」
「でもヘクターはエイデンの馬でしょ?ヘクターを私にくれたら、エイデンは……?」
「他にも馬はいますよ。ヘクターだけに乗っていたわけではありません。もちろん、ヘクターが私の乗ってきた馬の中で一番優秀な名馬であるのは確かですが。」
今回ヘクターは、今にもエイデンに噛みつこうとするように、エイデンに向かって鼻をぶんと鳴らした。
「うーん、名馬なのは間違いないけど、ずっとこんな感じならどうやって乗り続けるっていうんですか。この子、私のこと嫌いみたいで……。」
「私は……別に構わないけど。どうしてこの子、私のことが好きなのかな?」
自分がヘクターにしてあげたことが思い当たらず、私は戸惑った。
…脚を治してやっただけだった。
その日彼は忙しかったのに、脚を治してすぐに馬小屋まで来たというのに。
ヘクターの大きな潤んだ目が私を見つめていた。
「この子の気持ちなんて、私に分かるはずがありません。」
ふうっと、エイデンがため息をついた。
私は手を高く伸ばして、ヘクターの頭をそっと撫でてやった。
「ケンドリック様が今日はお出かけ中だから、戻られたら聞いてみるわ。」
「では、それまでの間だけでも、エクハルトの馬小屋に置かせてください。我が家では何度か死にかけましたので。」
「うん、そうして。ギルバート、大丈夫?」
「はい……。今のようにおとなしくしてくれるなら問題ありません。……できるよね。」
「そうだね、ヘクター。ケンドリック様が来られたら、私がうまくお願いしてみるから、おとなしくしていてね?」
ヘクターがヒヒーン!と長く鳴いた。
私はクスッと笑いながら、ヘクターのたてがみを撫でてあげた。
「……消えたと?」
ケンドリックが、乾いた笑いを漏らした。
「そんなことがありえるのか、デコン?朝にエステルとあの少女、二人ともいなくなったって。」
ケンドリックは眉間にしわを寄せた。
昨夜、「エステル様の後ろから……黒っぽい霧のようなものがふわっと出てきたんです。私を見るなりこちらへ向かってきました。」
リンシーはそう言いながら、エステルが「禁制」を使用したと話した。
それで調査の必要があると判断し、エステルを連れてくるよう命じたのだが、彼女の家を訪ねた者たちは手ぶらで戻ってきた。
不吉な予感を覚えたケンドリックは、直接エステルの邸宅へ向かった。
「空っぽだな。」
ケンドリックは、空っぽのエステルの部屋をしばらく見つめながら言った。
エステレには家族もいなかったため、彼女の行方を誰に尋ねることもできなかった。
いや、正確に言うならば——
「ひとりいたけど、亡くなった。」
エステレは事故で息子を亡くしてから、しばらくの間、引きこもっていた。
「はあ……」
ケンドリックがため息をついた。
屋敷の使用人たちは「エステレが“悪霊に取り憑かれた”と言って出ていき、まだ戻っていない」と話していた。
それがもう3日目だという。
「とにかくエステレの行方を調べろ。俺はフェルナンドに行ってくる。」
ケンドリックの命令を受け、デコンが黙ってうなずいた。









