こんにちは、ちゃむです。
「偽の聖女なのに神々が執着してきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
123話ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- カイルIF④
夜風が肌をかすめた。
人気のない訓練場で、カイルは何度も木製の人形を相手に剣を振った。
素早い剣さばきはすぐに鞘に収まり、カイルは夜空の星を見上げた。
サレリウムにも星はあるだろうか。
彼は時折、母のことを思い出した。
それは懐かしさというより、心に深く刻まれ、消えることのない残像のようなものだった。
皇帝はカイルを励ましながら言った。
「地上の皇宮で苦しい人生を気に病んだり全く心配するな。連れて行くなら、お前の母よりも幸せにできる覚悟を持って挑め。」
カイルの口元にかすかな笑みが浮かんだ。
彼女を幸せにしようとした決意は数十回、数百回と繰り返してきた。
それでも恐れがあった。
自由な魂を持つ彼女が、いつか母のような表情を浮かべてしまったらどうしよう。
『もし、だから彼女が自分のもとを去ると言ったら……。』
剣の柄を握るカイルの手に力がこもった。
アリエルが皇太子妃になれば、母のように活力を失ってしまうのではないかと怖かった。
だがそれ以上に恐ろしいのは、自分の執着と独占欲だった。
彼は一度手に入れたもの、いったん熱望したものを決して手放さない。
だからこそ、自分の心が不意に揺らぐたび、必死に自らを戒めていた。
あまりに近づきすぎて、うっかり彼女を抱き寄せてしまうのではないか。
そうなれば、アリエルが放してほしいと懇願しても、手を離さないかもしれない。
けれど彼女が他の場所を見たり、他の侍女と会話しているだけでも胸が締め付けられるほど苦しいのに……。
『私はどうすればいいのだ。』
暗闇を見つめながら、カイルは答えのない問いを繰り返した。
愛されずに育った。
だから愛し方を知らない。
だが──いずれにせよ、稚拙な言い訳にすぎないだろう。
「……だから、自分をそんな怪物のように卑しめないでください。」
狩猟祭で彼女が言った言葉を思い出した。
たわいもない一言だったが、彼にとってはまるで救いのように感じられた。
近づいてもいいという合図のように……。
しかし、彼は彼女のそばにいても結局は空虚だった。
自分が何かを望んでも、残るのはいつも虚しい空白や、むせ返るような血の匂いだけだったから。
『地方巡察に行くべきか。アレスがいいかもしれないな。』
王国もようやく安定してきたので、少しの間都を離れてみようかと考えた。
自分を突き放したか弱い手の感触が蘇ると胸が締め付けられた。
だがだからといって、その手首を力ずくで掴むことはできなかった。
『もしお前が俺を拒むなら、俺は……』
今もアリエルへと一歩一歩近づくたびに、必死に理性を保ち、本能が溢れ出さないように努めている。
彼女の答えが怖かった。
演武場を出て歩いていた時、背後から近づいてくる馴染み深い気配を感じた。
「……」
カイルは思わず眉をひそめ、振り返った。
神は今日もまた、彼を試していた。
「……殿下。」
震えるようなアリエルの声は、カイルに潜む狩人の本能を刺激した。
夜風に揺れる彼女の髪は彼の心臓を激しく打たせ、彼女が自分を突き放せるほど十分に強いという事実に感謝させた。
「どうした。」
カイルは低く柔らかな声で彼女に尋ねた。
数歩先にアリエルがいた。
何も考えずに歩み寄り彼女を抱きしめたなら、彼女は自分をどう見るだろうか。
彼の腕にぎゅっと力が入った。
じっと立っていたアリエルが、その時こちらに歩み寄り始めた。
今夜の月明かりはあまりにも危うかった。
そして、この状況もまた同じだった。
カイルの眉間がかすかに動いた。
炎と影のわずかな距離だけを残して、カイルが口を開いた。
「止まれ。」
近づいていたアリエルの足がぴたりと止まる。
二人の間には張り詰めた境界線があった。
アリエルは月明かりのように澄んだ青い瞳でカイルを見つめ、唇を開いた。
「殿下がご自身で近づきたいときはためらいなく来られるのに、私は行ってはいけないのですか?」
「駄目だ。」
「……」
カイルの口元が苦々しく歪んだ。
「俺が抑えられる時だけ、近づいてこい。」
けれど、今日はそれではなかった。
その言葉の後に含まれたものがあった。
アリエルは黙って立つカイルの姿を見ながら、セインが言っていた言葉を思い出した。
「十七歳の頃から殿下は皇后を引き止めませんでした。皇宮の外を望む皇后が去ってしまうのではと不安に思いながらも、もし無理に引き止めれば皇宮をもっと嫌いになってしまうのではないかと。私が幼い頃に見た殿下は、そういう方でした。」
彼の赤い瞳は、かつての先皇妃の細い首筋を思わせた。
「殿下が聖女様をどれほどお慕いしているかは存じ上げております。ですが同時に、その想いが聖女様を傷つけはしないかと心配でもあります。耐えきれず、聖女様の足首さえも掴んでしまうのではないか。殿下にとって大切なものを愛するというのは、そういう形なのです。少々乱暴ではありませんか。」
[すべての神々が注目しています。]
[破壊の神シエルは恥ずかしさに身をよじっています。]
私たちの間に涼やかな風が吹き抜けた。
張りつめた沈黙の果てに、私は再び一歩を踏み出した。
前へ、さらに前へ。
私の額のすぐ前に彼の胸が迫るほどに。
これから起こることを恐れないと言えば嘘になる。
だが──もし彼が正直になれないのなら、せめて私だけでも自分の気持ちに正直にならなければならないと思った。
「……」
カイルの赤い瞳が揺れていた。
まるでルビー色の目をした猫のようだと思った。
私は彼を見て口を開いた。
「殿下が私を好きだと感じるのは……私の勘違いでしょうか……」
私の声は震えていた。
「勘違いではないと、教えてください。」
[破壊の神シエルがうずくまり、腹を見せています。]
私の言葉に、彼の表情にひびが入るのが見えた。
「お前……」
カイルが手を引こうとしたのが見えた。
だが次の瞬間、私の背中に彼の掌が強く当たる。
「これ以上は、俺も抑えられない。」
耳に届いたのは低く押し殺した声。
赤い瞳に宿ったのは、怒りなのか、あるいは激しい独占欲なのか。
私は思い切って彼に告げた。
「抑えないでください。」
惑わせるというよりも、明確な答えだった。
そしてその言葉を終えた唇が、ためらいもなく私の唇に重なったのはまさに刹那のことだった。
息をつく余裕すらなかった。
私の手は行き場を失い、彼の体に押されて壁についてしまい、彼はさらに深く口づけてきた。
[慈愛の神オーマンが拳を握りしめて天に向かって叫びます。]
[愛の神オディセイが扇を仰ぎます。]
[破壊の神シエルは微動だにしていません。]
[知識の神ヘセドは、シエルに近づくこともできず息を呑み、狼狽しています。]
[芸術の神モンドは慌てて駆け寄り、シエルに感嘆のため息を漏らしています。]
彼の口づけはまるで強い酒のようで、私は深い酩酊に沈むように意識が揺らいだ。
[破壊の神シエルは、目を開けた途端、モンドの足を蹴り飛ばし、あなたとカイルの口づけを目撃して大喜びしています。]
やがて彼が唇を離したとき、低く荒い声が私の耳元を打った。
その声には、今も燃え盛るような情熱が宿っていた。
聞き逃すことのできない問いには、真実が込められていた。
「好きだ、アリエル。」
私は揺れる目でカイルを見つめ、口を開いた。
「殿下、私も……。」
しかし彼は剣指を上げて私の唇をふさいだ。
「重要じゃない。」
その瞬間、セインが言っていた最後の言葉が思い出された。
「……でも、心を無条件に受け入れてくれる言葉でさえ、実際には難しいことです。大切なものに一度執着し始めたら……。だから、世間では狂った執着と呼ぶべきなのかもしれません。まあ、その年齢でソードマスターであることを考えれば、おおよそ察しがつくではありませんか。」
彼の鮮やかな赤い瞳が、まるで烙印のように私の顔を射抜いた。
「もう、お前を捕らえてしまったのだから。」
思わず背筋が震えたのは、恐怖か、それとも別の感情か。
「だから、受け入れる覚悟をしておけ。……この先、後戻りはできないのだから。」
[慈愛の神オーマンは「捕まえるならしっかり捕まえろ」と言いながら、せっせと縄を探しています。]
「聖女様、昨夜のニュースを聞かれました?」
バルコニーに寄りかかり、ぼんやりと外の風景を眺めていた私に、デイジーが声をかけた。
「皇宮の『皇家の壁』が昨日崩れたそうです。その近くで、あるカップルがキスしているのを見たという侍従がいて、調査が入ったみたいですよ。いったいどれだけ激しいキスをしたんでしょうね!」
[破壊の神シエルが顔を赤らめて楽しんでいます。]
胸がどきどきと高鳴った。
我らのシエルはあまりにも惜しみなく祝福のバフを授けてくださり、私は壁を……。
「ところで、聖女様、お顔が赤いですよ。どうかなさいましたか?」
「ち、違うの。」
私は慌てて首を振った。
「冷や汗まで……。もしかしてどこかお加減が?」
「体調じゃないわ。デイジー、クッキーをもっと持ってきて。」
私はぶっきらぼうに答え、平静を装おうとした。
「承知しました、聖女様。本当に大丈夫ですか……?」
そう言ってデイジーが下がっていくのを見届け、私はようやく深いため息を吐いた。
容易だった。
昨夜の狂ったようなキス、唇がくっついて離れないほどだった。
「捕まえた」という言葉は嘘ではなかった。
『キスにこれほどの情熱があるなんて……』
赤と赤がこれほどまでにセクシーな色だと知ったのは、昨日が初めてだった。
月明かりの下で私を見つめていたその視線を思い出すたび、全身がしびれるようだった。
とんでもない考えが浮かび、私は熱い頬をパシッと叩いた。
どうしようもなく気まずくなり、思わず欄干に背を預けた瞬間、何かがコツンと肩に当たった。
「おい、ここは4階だぞ……」
何かとんでもない考えが浮かび、思わず首を横に振ったとき、赤い唇が再び私の唇を塞いだ。
かすかに笑みを浮かべた彼は唇を離し、鋭い目でじっと私を見つめた。
乱間の外にカイルが立っていた。
[慈愛の神オーマンは、カイルの赤い瞳を気に入っています。]
「ずいぶんな歓迎の挨拶だな。」
「びっくりしたじゃない!心臓が止まるかと思ったわ!」
驚いて慌てふためく私を、彼は腕を回してぐっと抱きしめた。
背中越しに伝わる、力強く固い胸板。
その感触に、心臓はさらに激しく鼓動した。
「会いたかった。眠れないほどに。」
その率直な想いが、遠慮なく私の耳元に落ちてきた。
「……私もです。」
うわ言のように、私は正直な自分の気持ちを小さな声で伝えた。
[愛の神オディセイが艶めいた眼差しで微笑んでいます。]
彼を恐ろしいと思ったこともあったし、ただ私を利用しようとする人に見えたこともあった。
だが彼の本心はそうではなく、私はその道の果てで一人の男として彼を知りたいと思った。
「……アリエル。」
私の答えに応じるように、彼は私の名を呼びながらさらに強く抱き締めてきた。
そしてその瞬間、何か大きくて力強いものが腰に回された。
その拍子に、心臓の鼓動はさらに激しくなった。
「……!」
私が身じろぎすると、その腕はますます強く私を抱きしめてくる。
ドクン、ドクン、ドクン。
頬が熱くなる。
確かに私たちはすでに口づけを交わした仲とはいえ、こんなにも早く求められるのはどうなのだろう。
なんとか冷静さを保とうと、私は声を絞り出した。
「殿下、いくら眠れなかったといっても……今は困ります。」
「声が震えているな。」
「こ、これは……早すぎて……。」
会う約束をしたのは確かだ。
けれど、今は真っ昼間で……。
「だから、それをそんなふうに置いて持ち出したら……」
私は思わず彼に身を預け、赤くなった顔で彼を見上げた。
私の腰に当たる感触へと自然に視線が移った。
カイルもまた私の視線を追い、そしてそこから不意に飛び出したものに目をとめた途端、その瞳が激しく揺れた。
『剣の柄……!』
一瞬、彼が剣を帯びているという事実を忘れていた。
そしてその瞬間、頬に熱がこみ上げた。
さっき自分が言った言葉が……
『やっぱり、あの話に聞こえただろうな。』
[破壊の神シエルはあなたの淫らな気配を理解します。]
私と自分の剣柄を見比べながら、彼の口元に淡い笑みが浮かんだ。
「確かに勘違いするな。大きさも似ているしな。」
その言葉に、狩猟祭で見た立派な鹿の角がふと脳裏をよぎる。
[芸術の神モンドは不承不承ながらも、カイルの言葉を認めました。]
「ただ、知らないふりをしてくださるわけには……?」
「駄目だ。」
カイルはそう言いながら、手を伸ばして私の腰を抱き寄せた。
「昨日そう言ったな。勘違いじゃないことを教えてほしいと。」
その言葉に、私は揺れる瞳で彼を見つめた。
「お前の目を見るたびに、俺がどんなことを考えていたか……これからはちゃんと教えてやるつもりだ。」
今にも私を押し倒して壊してしまいそうな、執拗な支配者のような眼差し。
その奥には深い所有欲が宿っていた。
[愛の神オディセイがごくりと唾を飲み込みます。]
「これほどまでに乱されるとは、計画を見直さねばならんな。お前がこんなにも奔放な女性だと知れたのは、むしろ歓迎すべきことだ。」
「……乱、ですって?奔放だなんて……誤解ですわ。」
「毎日でもするぞ。昼も夜も関係なく。」
[破壊の神シエルが鼻血を吹き出しました。]
……つまり、毎日こうして乱すつもりだということ?
彼は口元をつり上げ、鋭い眼差しで私を見つめていた。
「気が狂いそうだ。――よし、まずは新婚の夜からだな。」
私の方が気が狂いそうだ。
「でもさっき…… 新婚?きゃあああっ!」
次の瞬間、体が宙に浮いた感覚がした。
悲鳴を上げる間もなく、私は彼と一緒に下へと落ちていった。
[破壊の神シエルが「もう限界だ」と言いながら遺言状を書いています。]
彼の腕に抱かれていたので衝撃はなかったが、心臓は狂ったようにドキドキしていた。
私は思わずセインを疑った。
『あの男、まさか何か企んでたんじゃないの?』
大切なものには近づきもせず、いつも心配ばかりしていた殿下が、今こんな姿を見せるなんて――。
……執着心の強い性格だとは思っていたが、これは度を超えている。
「国婚の日取りはお前が決めてもいい。余裕を持たせても構わない。どうせ毎日こうして乱せばいいのだからな。」
未来を当然のように語る彼の言葉に、思わず問い返した。
「……もしかして暴君気質ですか?それともただの独占欲?」
カイルは答えなかった。けれど、その沈黙が肯定のように思えた。
「ところで……私たち、今どこへ行くんですか?」
握られた剣の柄が、またも私の腰を小突いてきた。






