こんにちは、ちゃむです。
「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
125話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 救援
「坊ちゃまが……村に薬を届けに行かれるのですか?」
「はい」
ティータイムが終わったあと、クロードはイサヤに村の話を切り出した。
「え……それ、ちょっとマズいんじゃないですか?」
「僕もそう思った。でも、子どもに“友達に会いに行くな”ときっぱり言い切るのも難しくてね……」
クロードは黙って少年の話を聞いていた。
幼い友人――ミンディ。
その存在がどこか引っかかる。
(ロレッタも、似たような年頃の少年と関わっていたな……)
そんな記憶が、ふと頭をよぎる。
「まあ、そうだな。」
クロードは静かに頷いた。
「念のため、その子について少し調べてみよう。ちょうどベルホールの神殿にも薬を届けに行くし、そのついでにな。」
「でも……殿下が直接行かれたら目立ちすぎます!」
イサヤがすぐに口を挟んだ。
彼は、クロードが普通の村人の目にどれほど異質に映るかをよく知っていた。
「乞食の服を借りて着ても、上流の品位までは隠せませんよ。」
「それは確かに。」
クロードは苦笑した。
だがイサヤが言い終える前に、オーガストが小さく手を挙げて言った。
「それなら――ぼくにいい考えがあります。」
クロードは少し目を細め、少年のいたずらっぽい笑みに思わず微笑んだ。
「……面白そうだな。聞かせてくれ。」
クロードは数種類の薬を大きめの鞄に詰め込み、馬にまたがった。
ミンディという少女を確認してから神殿に薬を届け、帰ってくるだけの単純な用事だ。
日暮れまでには屋敷へ戻れるだろうと踏んでいた。
黄野原を抜ける頃には、今日は珍しく風が強く吹きつけていた。
やがてベルホルドの入口が見えてくる。
以前通ったときと比べると、村は少しひっそりとしているように感じられた。
もっとも店は普通に営業しており、ときおり路地では子どもたちが集まって遊んでいる姿も目に入った。
『そうは言っても……』
活気がないと言うべきか。
彼はひとまず、村の中心にある宿屋を一軒ずつ見回した。
「旅人さんですか?」
突然の声に振り返ると、黄色いスカーフで鼻と口をぐるぐる巻いた少女が、じっと彼を見上げていた。
クロードは思わず笑みを浮かべそうになった。
スカーフの端に「ミンディ」と刺繍されていたのだ。
宿屋の娘かもしれない。
もしかすると旅人に自分の家を紹介しようとして声をかけてきたのだろうか?
「そうだよ。どうかしたのかい?」
「本当は、メイ先生に知らない人にはあんまり話しかけちゃダメって言われてるんですけど……」
少女はまず名乗る前に、普段はこんなこと絶対しないのだとはっきり伝えようとしているようだった。
「でも、僕にだけ特別に話しかけてくれたってことですよね?」
「はい。旅人さんは病気になっちゃダメですから。だから大事なことを伝えようと思って!」
「大事なこと?」
「ここに長くいちゃダメなんです。今、とても強い熱風邪が流行ってるんですよ!」
「ああ……」
クロードはゆっくりと眉間を押さえた。
まるで今になって初めて現実を突きつけられたような気分だった。
「だから、わかりましたよね?できれば早めに村を出られた方がいいですよ」
「でも……」
クロードは少し困ったように眉をひそめた。
「僕、もう二日間ろくに休んでないんだ。せめて食事くらいしてからじゃダメかな?」
「えっ、ふ、二日間も……?!」
素朴な少年は見るからに困惑し、眉をひそめて逡巡したあと、どうしようもないというように大きくため息をついた。
「それじゃあ、うちの宿屋でお食事をしていってください。あっちの黄色い花がたくさん咲いているところが、うちのお店なんです。きれいでしょ?」
「そうだね。」
ミンディはくるりと振り返り、先に立って歩き出した。
その小さな背中には、小ぶりな革のかばんがひとつぶら下がっている。
クロードはそっとその中に、オーガストの手紙を滑り込ませた。
幸い、ミンディはそれに気づかなかった。
クロードは宿に到着し、簡単な食事を注文した。
普段なら、「ひとりで宿に来て、物寂しそうに食事をしている男」という姿はいやでも目を引くものだろう。
しかし今は村の空気そのものが沈んでおり、誰も彼に注意を払う者はいなかった。
おかげで彼は、ミンディとその両親の様子まで静かに観察することができた。
クロードはひとまず気持ちを落ち着け、周囲の様子を観察することにした。
王都に戻ってもう少し詳しく調べる必要があるとは思ったが、今のところ決定的に怪しい点は見当たらない。
おそらく――人懐っこいミンディが、荒野でオーガストを見つけて駆け寄り、自然と話しかけたのだろう。
まるで今日、クロードを見つけて親しげに近づいてきたように。
『できれば、この件があの宿に悪い影響を及ぼさなければいいんだが……』
クロードは、屋敷で孤独に過ごしてきたオーガストに普通の友人ができたことを、少し嬉しく思っていた。
だが一方で、もし彼の存在が皇帝の逆鱗に触れれば、無力な宿屋がその怒りを受けることになるかもしれない――その懸念が胸をよぎる。
『……僕が、守れるようにならないといけないな』
不安が深まっていくそのとき、宿屋の扉がそっと開いた。
一人の男がよろめくような足取りで入ってきて、近くの椅子に崩れ落ちるように身体を預けた――。
宿ではよくあることなのか、宿の主人は、彼が注文していない温かいスープを一杯置いていき、肩を軽く叩いた。
「……このまま死んだら、天国に行けるでしょうか。」
男の弱々しい言葉に、ミンディは彼の肩をぽんぽん叩きながら、今にも泣きそうな声で言った。
「先生が死んじゃったらどうするんですか!メイ先生は?」
「メイさんは今、患者用の寝具を煮沸しているよ。その前は神殿の掃除をしていたんだ。人の手が触れた場所は、片っ端からきれいにしてね。」
「それなのに、メイ先生をひとり置いて来たんですか?!」
「はぁ……でも、どうしてもお腹がすいてしまって……」
男はゆっくり体を起こし、前に置かれた熱いスープをほとんど一息に飲み干した。
その様子に、ミンディは何も言えず、ただ静かに彼を見守るしかなかった。
「……僕も先生たちを手伝えたらいいのに」
「その気持ちだけで十分嬉しいよ、ミンディ」
「それで、薬は?一体いつ届くんですか?」
「それが……」
男は頭をかきながら、少し困ったように笑って言葉を濁した。
その意味を察したミンディは、むっとした表情で眉をひそめる。
「ひどいですよ!首都の貴族たちは部屋ごとに薬を山ほど備蓄してるっていうのに!」
「首都の貴族といっても、今はどこも熱病が流行っていて、薬が足りないんです。むしろ、うちの村のほうがまだ恵まれてる方なんですよ」
男は肩をすくめ、言い訳するように話し終えると、よろよろと立ち上がった。
彼が代金を支払おうとすると、宿の主人は「常連だから」と笑って、手を振って彼を見送った。
「神殿の先生たちが子どもたちのために頑張ってるのを知ってるのに、まさかお金なんて取れるわけないじゃないか?」
“ニール先生”と呼ばれた男は、一度は遠慮したものの、結局は主人の好意をありがたく受け取って宿を後にした。
クロードも食事代を支払い、その男の後を追った。
「失礼します。」
静かに声をかけると、男は疲れた目で振り返った。
それでも、どうにか微笑もうとする様子が見えた。
「神殿の司祭様ですか?」
「まさか。ただ司祭様のお手伝いをしています。ワイリーと申します。旅の方ですか?」
「ええ、クライドと申します。」
クロードはいつも使っている偽名を自然に口にし、そしてさりげなく持ってきていた鞄を彼に差し出した。
「……?」
ワイリーは訝しげに鞄とクロードを交互に見比べた。
クロードは再び鞄を押し出した。
男は恐る恐るそれを受け取ると、中身を確認して目を見開いた。
「こ、これは!」
「村の規模を考えると、十分な量とは言えませんが……急を要するところには使えるはずです」
「……こんなことが……!」
「神殿まで直接お持ちできず申し訳ありません。どうかよろしくお願いします」
クロードはミンディの家も確認し、薬も渡し終えたことで、そろそろオーガストの暮らす屋敷へ戻ろうと考えていた。
「い、いけません!神殿へお越しください、せめて神官様の祝福だけでも受けていってください!こんなふうに帰っていただくなんて絶対できません!」
だが男は、クロードを帰す気などまるでない様子だった。
両腕をしっかり掴み、神殿へ同行してほしいと懇願し、目をキラキラと輝かせながら訴え始めた。
「大丈夫です、私は……」
「お願いします! このまま先生を帰してしまったら、きっと司祭様は、私のことを“恩知らずなやつ”って言うでしょうし、メイさんは、私の尻をカタログで叩きながら追いかけてくるに違いありません!」







