こんにちは、ちゃむです。
「あなたの主治医はもう辞めます!」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

145話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- エピローグ③
ジケルは騎士団の現状をエルアンに報告していた。
エルアンは軍の兵力を綿密に確認した後、満足げに顎を撫でた。
「そうだな、兵力は高い水準で維持することが重要だ。しっかりしていなければ、独立公国を作ることなど考えられない。」
その「しっかり」がリチェにかかっていることを知っているジケルは、居心地悪そうに顎を撫でた。
首都に流れる噂によると、皇太子は優柔不断で、何も決断できないらしいという話が広まっていた。
領地を守る力さえあれば、決して悪い話ではない。
エルアンは首都にあるフェレルマン公爵邸へ向かおうとしていた。
エルアンは屋敷の最上階にある、薄暗く古びた部屋を与えられた状態だった。
憎まれ口を叩きながらも、せめてここに居座る権利だけは手に入れたというイザベルの言葉通り、彼はアルガの追放ではなく、かろうじて屋敷に留まることができていた。
それでも彼がここまでしぶとく生き延びてこられたのは、やはりアルガの血を引いているからだろう。
さて、ようやく肖像画の品評会が終わったと思ったら、今度はどんな品評会に引きずり込まれるのだろうか……。
とりあえず、首都の公爵邸には有力な騎士がおらず、エルアンはセルイヤーズ公爵領から数人の騎士を連れてくることにした。
まったく知らない傭兵を雇うより、リチェと親しい関係にあるセルイヤーズ騎士団の方がよい、という意見もあり、アルガすらも納得して頷くしかなかった。
「こうしてじわじわと……染み込ませる戦略か。」
ジケルはエルアンの細い目つきを見ながら、密かにため息をついた。
「お疲れ。ああ。」
そう言いながら、エルアンはジケルが去ろうとするのを引き止め、彼と騎士団の一行を呼び止めた。
「これ、一つずつ食べてから行け。」
そう言って差し出したのはクッキーの箱。
「え?」
「さっき彼女が届けてくれたんだ。」
ジケルは、エルアンがようやく食べ物を分け与えるほどに性格が丸くなったのかと驚きつつも、内心リチェに感謝した。
他人に対して非常に無関心だった彼が、こんなに気遣いに満ちた言葉をかけるとは意外だった。
「ええ、ありがとうございます。」
彼はクッキーの箱を持ち、後ろにいた数人の騎士と一つずつ分け合って食べた。
一見すると普通に食べているようだったが、一口かじった瞬間、あまりにも甘すぎて、それ以上食べたいとは思わなかった。
もしかして味が気に入らずに自分たちに分けてくれたのではないか、という疑念が浮かび、改めて彼の性格について考えていたとき、エルアンが喉を潤しながら尋ねた。
「どうだ?俺は甘いものがあまり好きじゃなくて食べたことがないんだが。」
ちょうどその時、慎重にノックする音が聞こえ、リチェが部屋に入ってきた。
リチェを見たエルアンの顔が、一瞬で喜びに満ちた。
「リチェ!」
「お父さんは仕事に行かれたし、おばさんは散歩に出たわ。そして、おじいちゃんは昼寝中!」
家の中でこれが何の合図なのかは分からなかった。
とはいえ、エルアンがリチェを見ていつも戸惑っている様子を見ていると、いずれ二人の関係を正式に認める時が来るのではないかと感じていた。
それでも、ドキドキしながらも甘酸っぱい関係を続ける二人を見ていると、ジケルの心もなんだか温かくなり、思わず微笑みそうになるのをこらえた。
「あ、クッキーは受け取りましたか?」
「え?」
「ハナを通してこっそり送ったんですけど。」
リチェが恥ずかしそうに頬を赤らめながら言った。
「手作りしました。いつももらってばかりだったので。」
リチェの言葉に、ジケルをはじめとする騎士たちの表情が一瞬で固まった。
エルアンの表情も一気に冷たくなり、動揺していた。
「……ベロ、当選。」
「でも!」
リチェが慌てて言葉を続けた。
「こうして分け合って食べている姿を見るのは本当に嬉しいです。味はいかがですか?私の口には合っていましたけど。」
「……とりあえず食べてもいい。」
エルアンは歯を食いしばりながら、小さく言葉を絞り出した。
「美味しいです。公爵様、ぜひ頻繁に作ってください。できるだけたくさん。この程度の甘さがちょうどいいと思います。」
ジケルは代表して即座に答え、それとなく仕返しすることも忘れなかった。
「では、素敵な時間をお過ごしください!」
その言葉を最後に、ジケルと騎士たちは素早く姿を消した。
「実は、もう一つ渡したいものがあって来ました。」
リチェは軽やかにエルアンへ歩み寄り、手を差し出した。
エルアンが驚いた表情で受け取ったのは、リチェの小さな肖像画だ。
「お父さんが特別に注文したんです。そのうちの一枚を。それで、私が避けていたんです。お父さんのことは大好きだけど、お母さんとお父さんの恋愛話を聞くたびに、なんだか傷ついてしまうんです。」
「どうして?」
「恋人とは心のままに愛し合わなければいけないってことですよ。お母さんとお父さんも若い頃は真剣に愛し合っていましたよね。それなのに、大人になった途端に結婚しなくちゃいけないなんて。」
「その道を辿れないのが惜しい……。それにしても、この絵、本当に綺麗だね。」
彼は引き込まれるように、手のひらに収まる小さな肖像画を見つめた。
彼が選んだ画家の作品だからか、明るく愛らしい雰囲気が溢れるリチェの表情が、鮮やかに描かれていた。
「ずっと大切にしなければ。」
懐中時計の中に肖像画を大切に収めるエルアンを見て、リチェはくすくすと笑った。
「お父さんも懐中時計の中に入れてたのに!」
「今は逆効果かもしれないけど、時間が経ったら慎重に話してみるといいよ。感傷が募って言葉にならないかもしれないけど。」
エルアンはリチェをじっと見つめた後、膝の上に座らせ、彼女の首元に指を這わせながら尋ねた。
「最上階まで上がるのは不便だけど、景色は悪くないね。」
リチェは彼にもたれながら、窓の外を見つめて言った。
「首都はごちゃごちゃしてると思ってたけど、意外と楽しいかも。ティータイムの招待状も山ほど届いたし。」
「そうなの?」
「裁判のとき、かなり印象的でしたよ。」
「もしかして、何も知らない食えない連中から来たものはなかった?」
「あるかもしれないです。」
エルアンの細められた目を見て、リチェは目をぱちくりさせた。
「だって、男性から届いたものは全部お父さんが処分したんです。そもそも、私も食えない連中と親しくなるつもりはなかったので、特に気にしてませんでした。」
「それも後で慎重にお礼を伝えないとね。感傷的になりすぎるのも良くないし。」
「でも、ティータイムは少しずつ行こうと思ってます。後々、医療研究所に勤務することになったら忙しくなるでしょうし。」
「そこに休みはないの?」
「もちろんありますよ。でも、休みの日はエルアンと一緒に過ごさなきゃいけないんじゃないですか?」
「……それ、知ってるの?リチェ?」
エルアンはため息をついて言った。
「君は覚悟を決めたら恋愛もうまいな。人の心をすごくときめかせる。」
「大したことない言葉だったのに。」
「じゃあ、僕は簡単な男ってこと?」
「公爵としては手強かったけど、男としては簡単でしたね。認めます。」
「不思議だな。」
エルアンは微笑んだ。
「僕にとって君は、主治医としてはとても楽だったよ。無条件に。でも、女性としてはすごく難しかったんだ。」
「バランスが取れてるってことは、運命の人ってことですね。」
「またドキドキしちゃう。どうしよう?」
リチェが楽しそうに笑うのを見て、エルアンは真剣な表情で彼女の手を自分の心臓の上にそっと置いた。
ただ見ているだけでもこんなに胸が高鳴るなら、言葉にするのはもっと簡単なのかもしれない。
彼女の人生において、自分が最も安心できる存在になって、少しの迷いもなくそばにいられたらどんなにいいだろうか。
「まあ、いいんじゃない?幸せなら。」
「うん、幸せ。」
24時間のうち20時間は一緒にいたいという願い。
まだ叶ってはいなかったが、それでも一緒にいられるという事実が、ただ嬉しかった。
何よりも良かったのは、リチェが今までで一番幸せそうに見えること。
家族と平和な時間を過ごしている姿も、将来本格的に医療チームとして働き始める前に、もっと勉強しておこうと、貴重な医学書を読み込む姿も、どれも幸せそうだった。
そして、自分と一緒にいるときも、彼女の輝くエメラルド色の瞳には喜びが溢れていた。
「リチェ。どれくらい幸せ?」
終わりの見えない質問に、リチェは苦笑しながら微笑んだ。
「突然どうしたの?」
「ただ。」
エルアンは彼女の腰を引き寄せ、目を合わせて言った。
「君が幸せなら、それでいい。」
まだ、進むべき道は長かった。
すでにある程度は受け入れられたように見えたが、フェレルマンの人々の心の扉は、もっと開かれなければならなかった。
そして、安心して一日中寄り添える恋愛も必要だったし、いずれは結婚もするべきだった。
だが、彼のそばにいる彼女が幸せであるならば、そのすべてが急ぐべきものではなかった。
「うーん、どれくらい幸せかって……」
リチェは深く考えることもなく、穏やかに答えた。
「いつか、突然誰かが過去へと振り返らせてくれた時のように、一緒に生きていくだけで十分幸せ。」
「どうして?もっと幸せになれるかもしれないのに。」
「もっと幸せになりたいと思って、少しでも未来を変えようとして、もし間違って今の幸せを失ったらどうしようって思うんです。これ以上の幸せなんて想像もつかないくらい、今が大切で、まるで夢のような日々だから……。いや、違う。」
「ん?」
エルアンの胸に顔を埋め、頬をこすりながら、リチェはくすくすと笑った。
「ううん、やっぱり、過去には戻らないって決めたほうがいいみたい。」







