こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
今回は73話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
73話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 皇女との交流
外に出たエスダーは、皇女がいるという庭園へと案内された。
ちょうど庭先に出て風に当たっているところだったらしい。
遠くの庭園の端に、女性のシルエットが見えた。
「あちらがレイナ皇女様です。」
「ありがとうございます。」
案内してくれた騎士はそれ以上近づかず、エスダーだけを残してその場を去っていく。
エスダーは庭園の中をゆっくりと歩きながら、レイナ皇女の姿を確認した。
遠目に見ても美しい女性だ。
しかし、どこか憂いを帯びた眼差しが玉座に座る彼女を際立たせている。
ある程度距離が近づくと、レイナ皇女が振り返った。
正面から見ると、優雅さと共に、距離を置かざるを得ない威厳を持つ人物であることを感じさせた。
エスダーはまず深くお辞儀をした。
「こんにちは、皇女様。エスダー・ド・テレシアと申します。」
「少し前にお話を聞いていました。お会いできて嬉しいです。私はレイナです。」
レイナはさっきまで泣いていたのか、鼻をすするようにして手を伸ばした。
軽く握手を交わした後、再びレイナの視線は遠くへと戻っていく。
エスダーは、皇女が自分に全く関心を示さない様子を見て、何か一言でも話しかけようとそばに寄った。
「何かご心配なことでもありますか?」
「ええ、とても多いです。」
皇女の口から長いため息が漏れた。
隣にいるだけでも心が沈むような憂いを感じる。
何を話すべきか迷っていたエスダーの頭に、以前ドロレスとの会話が浮かんできた。
(そう、憂鬱になるのは病気にかかった弟のせいだと言ってたわ)
それがきっとノアのことだろう。
エスダーは、少しでも皇女の心を和らげられたらと思い、静かに話しかける準備をした。
「もしかして、第7皇子様のことですか?」
「第7皇子」という言葉に、レイナの目が一瞬輝いた。
しかしすぐにその輝きが消え、ぎこちなくお辞儀をした。
「どこで聞いたのかわかりませんが、あまり慰めるつもりで話さないでください。」
このように話しかけてくる人がこれまで何人もいたため、レイナ皇女の警戒心は非常に高まっていた。
今日も誰とも会いたくなかったのに、大公の娘だという言葉に断り切れず、仕方なく会っていたのだ。
「そうではなく・・・私、第7皇子様のことを知っているんです。」
エスダーは柔らかく微笑みながら、レイナに一歩近づいた。
そして、第7皇子ノアのことを話し始めると、遠くを見つめていたレイナが突然立ち上がった。
「それは本当ですか?どういうことですか?」
レイナの表情が一瞬で変わり、エスダーを見つめた。
エスダーの腕を掴むようにしっかりと握り、目を見開いた。
「城下で偶然会いました。」
エスダーは詳しい説明は控え、ノアと初めて会った話を簡単に伝えた。
病が治ったことはもちろん、テレシア領で過ごしていることについてはノア自身が話すのを望んでいないかもしれないと思い、秘密にしておいた。
「どんな様子でしたか?」
レイナは心配と不安を含んだ目で、慎重に尋ねる。
接触禁止命令が下された後、レイナはノアに会えず、ほとんど彼の消息を聞くこともできなかった。
最近ではその消息すら途絶え、不安に苛まれていた。
「思ったより元気にしていましたよ。」
「本当に?最後に聞いた時は、心の準備をしておけと言われたのに・・・」
「一時は良くなかったですが、今はかなり回復しています。心配しすぎないでください。」
「本当ですか?」
「はい。私がどうしてこんなことで嘘をつくでしょう。」
エスダーはレイナの疑念を解くため、静かに目を合わせる。
自分の真心が伝わることを祈りながら。
それに、大公の娘がこんな嘘をつく理由などないはずだった。
「うぅ・・・。」
ついにレイナは堪えきれず涙を流した。
「ノアの消息を聞けるなんて思いませんでした。本当に今、とても嬉しいです。」
消息が途絶えた弟を心配して皇宮を抜け出そうとしたが、レイナは何度も引き止められて叶わなかった。
会いたくて泣き、もがいても全て無駄だった。
皆がノアをいない人のようにして忘れろと言ったのだ。
そのため次第に憂鬱になっていたレイナにとって、ノアの存在を知ることは大きな救いだった。
ノアの消息を伝えたエスダーに、レイナは感謝の意を込めるように話し続けた。
「もしまたノアに会うことがあったら・・・私が彼をとても心配していること、見捨てたわけではないということを、ぜひ伝えてくれませんか?」
レイナは涙を流しながら、エスダーの腕をぎゅっと掴んだ。
ノアの話題を出しただけでこんなにも涙を見せるとは思っていなかったエスダーは、驚きつつレイナをなだめた。
「会えたら必ず伝えます。でも、私もまたノアに会えるかどうかわからないので……。」
とりあえず伝えると約束しながらも、ノアが困難な状況にあることを気にかけて一度言葉を止めた。
「ノアが家族に捨てられたと思っているかもしれないけど、そうじゃないって伝えたいです。・・・ぜひお願いします。」
レイナのノアに対する思いは複雑で、心の奥底には深い感情が混ざり合っていた。
ノアに会いたいという気持ちが強い一方で、それ以上に申し訳ないという気持ちも感じているようだった。
彼女の心にある罪悪感はさらに大きくなり、レイナを押しつぶしそうになっていた。
レイナの切ない感情が痛いほど伝わり、エスダーも涙をこらえる。
「お約束はできませんが、会えたら必ず伝えます。ですから、泣かないでください。」
「ありがとう。」
エスダーがなだめても、レイナの涙は簡単には止まらなかった。
年上のレイナが泣き続ける姿に、エスダーはどうしてよいか分からず、ただ立ち尽くしていた。
その時、ビクターがエスダーにそっとハンカチを渡して立ち去る。
エスダーはお礼を言い、涙ぐみながらレイナにそのハンカチを差し出した。
「はぁ、私、本当にみっともない姿を見せてしまいましたね。」
レイナはハンカチを見て気を落ち着けたのか、涙を拭き取りながらも、どうにかして冷静さを取り戻した。
「いいえ、大丈夫です。十分に理解しています。」
いつの間にかエスダーを見つめるレイナの目は、先ほどよりも柔らかくなっていた。
単に目の輝きだけでなく、態度そのものも明るさを取り戻していた。
「こんなところではなく、中に入ってお茶でもどうですか?」
「無理して外に出てこられたんですか?」
「おかげさまで少し気持ちが楽になりました。ノアが元気に過ごしているという話を聞いて、胸のつかえが取れました。」
レイナはエスダーの手を引き、皇女宮殿の中へと連れて行った。
陰鬱に見えていたレイナは、思っていたよりもずっと明るい性格の持ち主だ。
どうやら家族のために無理をしていたようだった。
人との交流が得意なレイナのおかげで、エスダーもぎこちなくならずに会話を楽しむことができた。
「ドロレスですか? あら、そうだったんですね。私の頼んだものもほとんどがドロレスの作品ですよ。不思議なご縁ですね。」
「本当ですね。」
同じデザイナーに服を注文したかのような話題も会話のきっかけとなり、エスダーとレイナはすぐに親しくなった。
これまで友達がいなかったエスダーにとって、レイナとの時間はとても楽しいものだった。
おしゃべりに夢中になっているうちに時間があっという間に過ぎてしまい、ドフィンが探していることにも気付かないほどだった。
エスダーが先に立ち上がった。
「今日は本当にお会いできてうれしかったです、皇女様。」
「私もです。ずっと泣いてばかりでしたが、今日は久しぶりに笑うことができました。これからも親しくお付き合いください。」
「もちろんです。」
二人はまた会う約束をして、笑顔で別れの挨拶を交わした。
皇女宮を後にしたエスダーは、とても気分が良かった。
足取りも軽やかだった。
今日の皇宮訪問の目的は十分に果たされたように感じた。
特に皇女と親しくなれたことは大きな収穫だった。
「ノアに伝えなきゃいけない。」
もともとは「会った」という話だけをするつもりだったが、レイナがとても申し訳なく感じていることを知り、それを伝えなければならないと感じた。
エスダーはテレシアに戻ったらすぐにノアに会おうと決心した。
しかし、接見室の近くに行くと、皇帝とドフィンの会話がまだ続いているという話を聞いた。
「もう少し時間がかかりそうです。」
「そうなんですか?」
(こうなるなら、レイナともう少し一緒にいればよかった)
エスダーは残念に思いながら戻ることにした。
前で待っている必要もなく、皇宮をもっと見て回る気にもなれなかった。
皇宮に付き添ってきた騎士たちは何人かいたが、エスダーはその中で自分の護衛であるヴィクターだけを連れて外に出た。
「ヴィクターも皇宮は初めてなの?」
「はい。今、すごく緊張しています。」
そう言いながら皇宮の騎士たちを見つめるヴィクターの目には、憧れの光が溢れていた。
「ヴィクターも皇宮の騎士団に入りたい?」
「いいえ。今のままで満足です。」
そう言いながらも、ヴィクターは皇宮の騎士たちから目を離せなかった。
エスダーはそんなヴィクターをからかいながら、一緒に足元の道を歩いた。
「ここはまるで迷路みたいね、本当に。」
「はい。間違って入ったら、抜け出せなくなりそうです。」
入るか迷いながらも、誘惑に勝てず、庭園に足を踏み入れた。
皇宮の中には庭園が非常に広いためか、他に誰も歩いている人がいなかった。
ちょうど一休みするにはぴったりだと思い、もう少し奥に進むことに。
「木がみんなすごく大きいですね。」
庭園というより森と呼んでもいいくらい、密集した木々が多かった。
その木々をかき分けて進んでいると、突然ぽっかりと空いた空間が現れた。
「・・・ぐー、すー・・・。」
誰かがここで熟睡しているような寝息が聞こえた。
しかし、その顔があまりにも見覚えのあるもので、一瞬目を疑った。
「・・・ノア?」
エスダーは驚いて目をこすった。
ノアが皇宮にいるはずがなく、確かに似てはいたが、体格からしても完全に別人だった。
(びっくりした・・・)
何より黒い髪とその雰囲気からそう思い込んでしまったのだろう。
エスダーはその男性に近づこうとせず、その場で立ち止まった。
ヴィクターにも静かにするよう指示し、視線を交わした。
『戻ろう。』
『はい、分かりました。』
二人は口をつぐみ、そっと後退していった。
そのままうまく去りたかったのだが・・・踏み枝の音がしてしまった。
バサッ——
とても小さな音だったが、なぜか不吉な予感がする。
恐る恐る振り返ってみると、やはり。
地面に横たわり、いびきをかいていた男が目を覚まし、こちらをじっと見ていた。
「おい、お前たち。」
どうしたものか、エスダーがあたふたしている間に、男は彼女とヴィクターを呼び止めた。
「お前たちは誰だ?ここで何をしている?」
目の前の相手が誰なのか分からない状況でも、堂々とした態度で話しかけてくる男。
他人を自分の下に見るその雰囲気と鋭い目つきから、高貴な身分の者であることが窺えた。
「道に迷ってしまって・・・。」
「ここへ来てみろ。」
男と関わりたくないと思っていたエスダーだが、拒否する間もなく引き寄せられてしまった。
エスダーは深呼吸し、ゆっくりと歩み寄る。
「どうしてそんなことを?」
近づくにつれて、なぜノアと混同したのかが理解できた。
年齢はビクターと似ているようだが、赤い瞳という点を除けば、ノアと非常によく似ている。
「俺はデイモンだ。」
その名前を聞いた途端、ビクターがエスダーにだけ聞こえるように静かに言った。
「第三皇子様です。」
エスダーは慌てて動き、手をぎこちなく揺らして礼を示した。
「失礼しました。初めまして、エスダー・ド・テレシアと申します。」
礼儀正しくも完璧な形式ばった挨拶だった。彼女が貴族の礼儀作法で学んだものが何一つ欠けることなく発揮された。
「テレシア?あの養子の?」
聞き手は全く感情を動かさず、冷淡な言い方をした。
エスダーの眉間に微かな緊張が走る。
「ドフイン大公と一緒に来たのか?」
「はい。父は陛下と話をしています。」
「じゃあ、俺も一つだけ聞きたいことがある。」
デイモンは椅子に寄りかかりながら、冷たい視線を投げかけて質問した。
「お前、どうしてその家に養子になったんだ?」
後ろにいたビクターでさえ息を呑むほど無遠慮で突拍子もない質問だった。
しかし、エスダーは表情を一切変えず冷静に答えた。
「必ず答えなければいけないものではないですよね?」
「その通り。でも大胆だな。俺の質問を無視するなんて。」
デイモンは面白そうに笑いながら椅子の肘掛けを軽く叩いた。
彼の笑いは、面白いことを見つけたときに出る特有のものだ。
「無視しているわけではなく、私自身その答えを知らないからです。」
無視したい気持ちは山々だったが、皇室と良好な関係を保つためにはそれができなかった。
エスダーは代わりににっこりと笑い、うまくデイモンの質問をかわした。
「いつか答えを知ったときにお伝えしますね。」
「・・・まあ、それでいい。行け。」
少し挑発するように投げかけた質問だったが、エスダーがあっさりとやり過ごしたため、デイモンは興味を失ったようだった。
「失礼します。」
そう言って、エスダーはすぐに庭園から姿を消した。
再び一人になったデイモンは床に体を預けたまま呟いた。
「エスダーか・・・。」
ドフインがなぜ子供を養子に迎えたのか興味深かったが、直接会ってみてその理由が少しわかった気がした。
「面白いやつだ。」