こんにちは、ちゃむです。
「夫の言うとおりに愛人を作った」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

78話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 自身の過去
壁に寄りかかって座っていたエドワードが、ゆっくりと自身の髪を撫で上げた。
うっすらと浮かび上がっていた影の中から、鮮やかな真紅の瞳が彼を覗き込むようにして現れた。
それは霧のようにたなびきながら、じっと彼を見つめている存在だった。
その中に見えたのは、二十歳ほどの青年であり、彼の父である先代皇帝が亡くなった直後、どこかで消息を絶ったリンデマンの姿。
その影は、手を動かして唇を触れるような仕草をしながら、静かに問いかけてきた。
「見えるか?どうやら俺の中に何かが封じ込められているようだ。それが記憶というものなのか?」
意識を失っていた間、何か夢を見ていたようにも思えたが、それを思い出すことはなかった。
彼は、十日前にこの場所へ足を踏み入れた瞬間のことを思い返していた。
内部は迷路のように鏡が配置されていた。
エドワードは隊員たちの位置を把握しようとし、すぐに彼らに魔力を供給しながら答えを探そうとしていた。
どこが道で、どこが鏡なのかわからないまま、鏡に映った自分自身の姿が何か不気味であることに気づいたときには、既に迷路の中心部に入り込んでいた。
鏡に映る時間が長くなるにつれて、その姿は次第に変化していく。
いくつもの鏡には、同じ姿勢を取った異なる自分が映し出されていた。
その中には、かつて皇城で過ごした時代の彼の姿や、セルベニアの辺境で滞在していた時の姿も映っていた。
鏡に映る彼は偽物というよりも、過去の一場面そのもののように見えることもあり、時折、それが現実なのか錯覚なのか区別がつかないこともあった。
希望していた未来の姿のように映ることもあった。
「これがエイブンが言っていた偽物か。」
『この数多くの鏡の中から本物を見つけ出さなければならないのか。』
そう考えた瞬間、どこからか小さな足音が聞こえてきた。
エドワードがその音がする方向へと歩を進めると、足音はそれに応じて遠ざかっていった。
繰り返される追跡の末、ついに彼は足音の主と対面した。
その子供は見知らぬようでいて、どこか馴染みのある姿でエドワードの前に立ち、彼を見上げた。
子供は好奇心に満ちた幼い目で彼に問いかけた。
「君は誰?」
「・・・これは本物ではないようだ。」
エドワードは、自分の前に立つ幼い頃の自分を見つめる。
確かに過去の自分とそっくりな姿だった。
だが、あれが果たして本物だと言えるだろうか。
どうせそれも、この場所が作り出した幻想なのだろう。
彼が近づくと、幼いエドワードは後ずさりをしながら素早く遠ざかった。
「ははは、迷っているのか?」
「『私』は思ったよりも無能だな。」
鏡の中の彼がエドワードに向かって話しかけてきた。
そうして幾ばくかの時が過ぎた。
ついに彼は、完全な姿をした本物にたどり着いた。
エドワードは魔法を解くために本物に手を伸ばしたまま答えを告げた。
すると、徐々に彼の息が浅くなり、体内のマナが激しく揺れ動き、極度の痛みが押し寄せてきた。
彼は「ぐっ」とうめき声を上げた。
壁に寄りかかりながら血を吐く彼は、わずかな隙間を見つめていた。
彼の中で黒魔法ともう一つの魔法がぶつかり合い、彼の内側を傷つけているようだった。
何かがおかしかった。
「『本物』を見つければいいだけじゃなかったのか?」
エドワードは荒い息をつきながら手のひらをぎゅっと握りしめる。
まずは意識があるうちに、中にいる仲間たちをすべて外へ送り出さなければならない。
数人がまだ残っていたが、位置を把握できる手がかりはわずかで、魔法以外の方法は思いつかなかった。
彼の体はしだいに力を失い、重くなり、視界が霞むようにぼやけていった。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
再び目を開けたとき、部屋は暗闇に包まれていた。
「・・・かなり痛むだろうな。」
彼と全く同じ姿の誰かが、彼の前に立っていた。
エドワードはその場で立ち上がり、自分と同じ姿の男に応じた。
「これは、迷路を作り出す別の魔法のようだな。」
「外で発動した黒魔法とは違うものか。それをお前が直接仕掛けた魔法なのか?」
「俺が?」
「そうだ。皇帝に奪われなかったと俺を封じ込めたじゃないか。まあ、役に立たないいくつかの記憶と一緒にな。」
向かいに立っていたもう一人の彼が、冷笑を浮かべた。
エドワードは自分の手を見下ろしながら、ゆっくりと唇を噛んだ。
「魔法が解けず、内傷を負ったのは、本来の私ではなかったからだ。一部の記憶が封じ込められているせいで、存在している私も完全な本物とは言えない。」
「まあ、そうだな。この規模の黒魔法でも『私の』魔法は簡単には解けない。それが問題を複雑にしている。『私』が受けた軽い損傷が影響を与え、この魔法も徐々に解けていくだろう。」
「回復までにどれくらい時間がかかる?」
「ここで起き上がって歩けるようになるまでに数日。魔法を完全に使いこなすには最低でも一週間が必要だろう。『私』が施した魔法が解ければ、それより早く解除できる可能性もあるが、いつになるかはわからない。」
「魔法を解除する条件が仕掛けられているはずだ。」
「そうだ。『皇室に戻るためのすべての準備』が整ったときだ。」
「・・・」
「やはり混乱するね?」
エドワードがため息をつきながら、向かいに立っていた彼の指を鳴らした。
二つの椅子が彼らの前に現れた。
「座れ。この暗闇の中で一緒に過ごすのも悪くないだろう。」
エドワードは果てしない闇を見つめながら言葉を続けた。
「ここは気が狂いそうになる環境だな。」
「いずれ夢から目覚めれば、すべて忘れてしまうのだろうか。『私』であれば、記憶の断片がここに封印されていることぐらいは気付くかもしれないが。」
封じ込められた彼の答えに、エドワードは無表情で微笑んだ。
「答えを知っていても魔法を解くことはできない。私を閉じ込めるにはこれ以上の完璧な監獄はないから。」
「あはは!」
別の彼が楽しげに笑った。
「要するに、今の『私』は内部を蝕まれたまま意識を失い、闇の魔法の中で消化され始めているようなものだ。この建物が『私』を殺すことはできなくても、後遺症くらいは残るだろう。」
「・・・とんでもないな。」
エドワードは無表情のまま椅子にもたれ、果てしない闇をじっと見つめて応じた。
意識を失ったのがいつか定かではないが、約四日目の頃、鏡に寄りかかった状態で目を覚ましたエドワードが静かに立ち上がった。
「私が完全な状態でないなら、この魔法を解くことはできない。ならば、ここに入る他の誰かに答えを教えるしかないということか。」
問題は、答えを認識して口にする瞬間、再び二つの魔法が衝突し、自分の内側を蝕むことになるという事実だった。
つまり、他の誰かと対峙しても彼は直接答えを伝えることができないという、なんとも苦しい状況にあった。
「誰かが入ってきて答えを見つけてくれるのを待つしかない。」
彼が足を踏み出そうとしたとき、聞き覚えのある足音が建物の中へ入ってきた。
「マクシオンがまた別の隊員を送り込んだのか。」
足音の主を確認したエドワードの表情が固まった。
「・・・君が、なぜここに。」
彼は奇跡の主人に向かってゆっくりと足を運んだ。
明らかに馬に乗って中へ入ってきたのに、先に立っていたのはルイーゼ一人だった。
一瞬目を閉じてから、彼女はそのまま座り込んだ姿勢で地面に座り込んでいた。
立ち上がった彼女が鏡の中に映った自分を発見し、目を大きく見開いた。
彼女と全く同じ姿の別の存在が、鏡の中で自分と同じ表情を浮かべながら彼女を見つめていた。
「気付いたわね。」
「愚かなルイーゼ、愚か者のルイーゼ。」
どこからともなく彼女の声が響いてきた。
迷路が深まるにつれて、鏡に映る姿が具体化されていく。
最初は服装や外見が少し違う程度だったが、次第に彼女が記憶している場所の背景や共にいた人々まで反映され始めた。
鏡の中の彼女はルイーゼの動きをそのまま模倣したり、記憶の中の場面をそのまま再現することもあった。
「ちょっと、これって・・・!」
ルイーゼの顔が真っ赤に染まった。
目の前の鏡には、エドワードに抱きしめられている彼女自身の姿が映っているようだった。
第三者の視点から見ると、さらに居たたまれない場面だった。
彼女は赤くなった顔を背け、後ずさりしながら反対側の鏡に背中を預けた。
「・・・レイアード、来たの?」
後ろの鏡から聞こえた声に、彼女は振り返った。
そこには明るい笑顔を浮かべ、レイアードの前に立つ彼女自身がいた。
ルイーゼの顔に動揺の色が浮かんだ。
彼女はそっと手のひらを伸ばし、鏡の中の自分に触れた。
「私を見守っていた人たちは、こんな気持ちだったのかしら。」
どこか胸の奥がむずがゆいような感覚が彼女を包み込んだ。
「この無数の鏡の中から、本当の自分を見つけなきゃいけないんだ。」
外から見ても広々とした空間だが、中では果たして一週間以内に本物を見つけ出せるのか、不安が胸をよぎった。
エドワードがまだ戻ってこないのは、多くの鏡を調べるのに時間がかかり、遅れているのかもしれないとルイーゼは考える。
「もう少しエドワードを待つべきだったのだろうか。」
ルイーゼェはつぶやいた。
「いや、もしそうしていたら、マクシオンが私をここから連れ出そうとしていただろう。そして記憶を失ったまま、どこかへ放り出されていたに違いない。」
周囲を見回しながら鏡を調べていたルイーゼは、しばらくして疲れた顔で椅子に腰を下ろした。
中に入って以来、どれくらいの時間が経ったのか、感覚が薄れてきていた。
空腹感はあるが、それほどひどくはない。
「少し休んでからまた動き出そう。」
ルイーゼは首にかけている魔法石をそっと手に取る。
彼女は転がるようにして向かいの鏡を見つめた。
鏡に映った彼女の姿は、幼い頃の記憶を鮮やかに再現していた。
生き生きとした草の香りが漂う普通の森のそばに、わずかに境界線があるかのような、はっきりと違う雰囲気を醸し出す枯れゆく森。
その間に見える小さな丘と、その前に座って二つの森を見比べている裸足の子ども。
ルイーゼ・ディ・セレベニアは、フェリスで生まれたのだった。







