家族ごっこはもうやめます【１４９話】ネタバレ

エダはナビアが到着したことを告げた。

「お入りください。」

応接室に入ると、モニカとサラが見えた。

「ナビア。」

サラの顔は少し緊張した様子だった。

それはナビアの心に鋭く突き刺す。

誰かと関係を築くというのは、予想もしない事態や一瞬の不快感を引き起こしうるもので、そうした予測不能な変数を含むものだった。

ナビアは、これまで多くの経験を積んできたものの、心からの絆を築いたことがなかったため、こうした場面でどのように慰めの言葉をかければいいのか分からなかった。

それでも、彼女が知っている最善の慰め方を選んだ。

ナビアはサラに近づき、彼女をしっかりと抱きしめる。

「・・・何よ、簡単に。」

サラは少し照れた表情を見せたが、その後すぐに唇をぎゅっと噛み締めた。

平気だと思っていた心がナビアの抱擁に触れた瞬間に崩れ、涙が込み上げてきた。

「家族になると決心したけど、こんなにも不意に感情が溢れるなんて・・」

ポタポタと涙が落ちた。

ナビアは彼女の背中を軽く叩きながら優しく称えた。

しかし、その後すぐにぎこちなく手を引っ込め、モニカの方へ視線を向ける。

モニカは少し気まずそうな表情を浮かべながら彼女たちに近づいた。

ナビアはそのぎこちなさの中に、かつての幼い自分を見るようで、思わず微笑んだ。

そして、三人はしばらくお互いを見つめ合いながら静かな時間を共有した。

サラは、自分をしっかりと支えてくれるような抱擁にしばらく揺れていたが、次第に落ち着きを取り戻した。

「ありがとう・・・。もう大丈夫。」

その言葉は、ただ慰めのためだけではないようで、実際にサラの表情はかなり和らいでいた。

サラは、自分が立つ場所が孤立したものではなく、仲間たちが一緒に手をつなぎ、広がる大地の上に立つような安心感を覚えた。

そして、確信を持った目つきで言葉を紡いだ。

「王宮の判断を教えて。」

モニカが答えた。

「ルチア公爵と公爵夫人の罪状は否定できない。そして、ルチアが式典に関与していた証拠も明白だから、軽い罰では済まないと思う。」

サラは少し寂しげな顔をしたが、この程度の結論で十分だと納得したようだった。

ナビアは決心したように言った。

「そうね。私も両親の罪をかばうつもりはないわ。でも、私が心配しているのは、この一件で一族全体がもっと失われてしまうことなの。」

ルチア家の没落を望む者たちが存在するだろう。

今回の事件を機に名を上げようとする者たちがいるのも確実だ。

ナビアはその事態に対する対応策をすでに考えていた。

「ルチア家からまずアイルツに魔力列車事業を移せばいいわ。」

魔力列車事業は本来アイルチで進められていた事業だった。

それを皇后の策略で無理に取り上げられ、ルチア家の管轄となったものだったが、元の場所に戻さなければならなかった。

皇后がその間の経緯を公開する際、アイルツ家と結びついた秘密事項も最初に発表される予定だった。

その結果、ルチア家が利益を得るどころか、却って責任を取らされることになるのが目に見えていた。

「アイルツ大公には適切に譲歩して構わない。ただし、他の貴族たちが何かと騒ぎ立てるだろうから、君の側から先に動く方がいい。」

サラがまず立ち上がり、ルチア家の罪を公にし、その間に魔力列車で得た利益と事業をすべてアイルツに返還すると人々に告げれば、彼らはこう評価するだろう。

「ルチア公女だけがその家門で唯一誠実な人物だった」と。

「君が新しいルチア公爵として、先代とは異なる立派さを示したいのなら、これが最善で、最高の方法だ。どう思う？」

サラはその提案を十分に理解しており、少しも不服に思うことなく受け入れていた。

それが、家門の罪を償う方法だ。

「当然のことよ。最初からこれは私たち家門の事業ではなかったのだから。」

今回の件を整理することで、アイルツ家門は過去の汚名をそそぎ、王室から奪われた財産や宝物をすべて取り戻す予定だった。

現在、彼らはクリードの失われた遺物を探しに王宮の報告室に入っていた。

彼らは今後すべきことを迅速に整理し、一息つくためにお茶を飲む。

モニカが茶杯を置きながら、ナビアに尋ねた。

「ここに来る前に一度大騒ぎがあったって？」

それはアグニスと繋がりのある者たちを一気に摘発した出来事のことを言っていた。

ナビアは微笑みながら答えた。

「大騒ぎなんて、まだ始まってもいないわ。」

モニカはその言葉からナビアがさらに何かを計画しているのだと察した。

しかし、ナビアは何も教える気はないかのように穏やかな表情でお茶を飲むだけだった。

その無関心な反応に、モニカは少し苛立ちながらも微笑みを浮かべて茶碗をそっと持ち上げ、こう言った。

「多くのことが変わり、新しい時代を私たちが築くことになるでしょう。」

その声は、どこか穏やかさを装いながらも、真剣さが滲み出ているようだった。

一体、彼女は何を計画しているのだろう？

ナビアとサラは、それが当然であるかのように茶碗を取り上げ、モニカに応じた。

そして、モニカは笑みを浮かべながらさらりとした乾杯の挨拶を終えた。

「成功を目指しましょう、友人たち。」

ぱちんと軽い音を立て、彼女たちは茶碗を掲げて飲み干した後、丁寧に残りを口に運んだ。

ナビアは笑みを浮かべるでもなく、空の茶碗をそっと置き、申し訳なさそうな表情で彼らに言った。

「先に失礼します。」

「何だって？もう少しゆっくりしていきなさいよ。まだ果物も食べてないし、ケーキくらい食べていきなよ。」

モニカが慌てて言うが、ナビアは落ち着いた態度で礼を示した。

「申し訳ありませんが、陛下。忠実な友人としてやるべき仕事が山積みです。」

「ふん。」

モニカは仕方がないというように手を下ろした。

「それでも、食事くらいは取ってね。あ、私じゃなくても、クリードならきっとちゃんと持たせてくれるわよ。」

その言葉に、サラは思わず口の中で小さく笑いを噛み殺した。

サラはクッキーを頬張って飲み込んだ。

「何だって？それってどういう意味？私が知らない何かがあるの？婚約？」

ナビアはモニカが無邪気に祝賀ムードを演出しようとする中、クリードとの結婚の件について正式に話そうとしていた。

しかし、思いがけずクリードとの関係をからかわれる形になり、少し戸惑っていた。

『いずれにしても言うつもりだったから・・・。』

「そういうこと。」

ナビアの恋愛の話に、サラはまるで自分がドキドキしているかのように口を抑えた。

一方でモニカは予想通りの展開だという表情で、微笑みながら様子を見ていた。

「どっちが先に告白したの？」

「まあ・・・なんとなくお互いに・・・。」

「キスは？キスもしたの？」

ナビアは急に懐中時計を取り出し、時間を確認した。

「わあ、もうこんな時間・・・。また今度話そう。」

「おい！逃げるのか？早く言いなさいよ！」

ナビアはサラの追及を聞こえないふりをして応接室を出る。

キスはお互いの気持ちを確かめる前にすでにしていた。

それをどうやって説明しろというのか？

ナビアは自然と熱くなる頬を手で覆い隠しながらため息をついた

。彼女はサラが後を追ってこないか気にしつつ、少し速足で歩き始めた。

次に向かう先は整理されている行き先だった。

王宮の宝物庫にいるクリードを探しに行くつもりだった。

『エステル皇妃の遺品が混ざっているなら、クリードにどんなメッセージを残されたのだろうか。』

いや、間違いなくそうだろう。

未来を見たカミラがナビアとラルクにそう伝えたように。

だからこそ、クリードが一人で母の痕跡を十分に見つけ、それを見ながら感情を思い切り味わう時間を与えたかった。

『私も母の手紙と映像を見て随分と泣いたから。』

もしそのようなものがあれば、クリードもきっと悲しくて寂しいだろう。

そして感謝の気持ちと申し訳なさも感じるのではないだろうか？

ナビアにはクリードの気持ちが容易に想像できた。

だからこそ、彼の慰めとなり支えになりたかった。

私たちは悲劇を乗り越え、結局生き延びたのだから、永遠に幸せになろうと決めた。

そしてお互いの慰めとなりたかった。

王室の部屋に向かうナビアの足取りが次第に早くなった。

『クリードに会いたい。』

彼の顔を見て、少しでも元気な姿を確認したかった。

元気でなくても構わない。

倒れていたとしても構わない。

自分が手を差し伸べれば何度でも立ち上がるだろう。

絶対に諦めない彼だから。

「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・」

ナビアが王室の部屋に辿り着いたとき、息を切らして大きく深呼吸をした。

彼女は一旦息を整え、冷静な目で扉を見上げた。

大きく堂々とした扉はクリードのために立てられているかのように見えた。

その前に立つ騎士たちは、誰も侵入を許さないよう鋭い目で周囲を警戒している。

ただ、彼らも同じ王室の中にいたため、ナビアは進むべき道を決めた。