こんにちは、ちゃむです。
「夫の言うとおりに愛人を作った」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

91話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 別人⑦
「エドワード。」
「今の私は、君の知っている“彼”ではない。」
「あなたも結局はエドワードでしょう。」
「………」
「そんなふうに自分を拡大しないで。他人をどれだけ残酷に殺しても、去った人は戻ってこない。ただあなた自身がもっと苦しむだけ。」
「じゃあ、どうすればいいんですか。」
いつの間にか荒かった彼の呼吸が元に戻っていた。
赤い瞳が重く伏せられる。
「どうすれば、この記憶から逃れられるんですか。」
「逃げられません。」
「………」
「ただ歩き続けるんです。その上に別の記憶を積み重ねながら生きるしかないでしょう。あなたがこの7年間そうしてきたように。」
エドワードは視線を落とした。
ぱたん。
彼はルイーゼの頬から手を離し、指を弾いて周囲に散らばる死体と自身の体に付着した血の痕跡をすべて消し去った。
そして、上体を傾けルイーゼの肩にもたれかかった。
「頭が重い。しばらくここで休ませてくれ。」
「雨が降るのかな。肩が濡れた気がする。」
ぽつり。
彼が再び親指と中指を弾くと、広場の上空だけに光の糸が降り注いだ。
「……本当に降ってるな。しかも、温かい。」
「そうですね。」
「晴れた空に光の雨とは。不思議だな。あんなに星が輝いているのに。」
「嫌ですか?」
「いいえ。」
ルイーゼは額の上に右手をかざし、光の筋を遮って空を見上げた。
温かい雨が降る夜空は雲一つなく澄み渡り、無数の星々が輝いていた。
彼女の左手はすっかり濡れてしまい、しっとりとした感触の彼の後頭部を優しく包み込んだ。
しばらくの間、彼の肩にもたれかかっていたエドワードは、ゆっくりと顔を上げた。
彼が光の中で身体を起こし、星を見つめていた彼女と視線を交わした。
彼の瞳には赤みが差していた。
もしそれが涙であったなら、すぐに流れ落ちたであろう。
だが、それは彼の頬にきらめく雨粒となり、静かに伝い落ちていった。
そのため、ルイーゼの目には彼がまだ泣いているように見えた。
エドワードが低い声で口を開いた。
「帰りましょう。」
「私一人で?」
「一緒に。」
雨が止んだ。
夜になると冬のように冷え込む季節だった。
動きやすいように薄着で出てきたせいで、温かい雨が止むと冷気が押し寄せた。
ルイーゼは無意識のうちに寒さに身を縮めたが、大きな胸板と二本の腕が彼女の体を包み込んだ。
濡れた衣服が肌に張り付いたまま、二人の体温が重なり合った。
「寒そうですね。」
「エドワードがくれたマフラーに、体温維持の魔法がかかっているので、凍え死ぬことはありませんよ。」
「私は凍え死にそうだけど。」
「それなら早く戻らないと。ここにいたら帰れなくなりますよ。」
「帰れますよ。」
パチン。
指を鳴らす音が響くと、周囲の景色が一変した。
ルイーゼは瞬きをすると、突然変わった背景に驚いた。
二人はまばたきする間に、宿舎へと戻っていた。
「……信じられない。あなた、一体どれほどの大魔法使いなんですか? それに、さっきの暗殺者たちを倒しただけでなく、雨まで降らせるなんて。こんなに偉大な魔法使いは初めて見ましたよ。」
エドワードは低く笑った。
服がすっかり濡れていたせいか、彼の体温と動き、そして笑いによる体の震えが、ルイーゼの体へと伝わってきた。
部屋の構造は彼女の部屋と似ていたが、少し広く、窓が開いたままの簡素な室内だった。
ここはエドワードの部屋のようだ。
こんな夜遅くに、彼の部屋で濡れた服のまま抱きしめられている状況に、ルイーゼは妙に顔が熱くなるのを感じた。
ルイーゼはそっと両手を上げ、彼の肩を押した。
「服がびしょ濡れなので、早く着替えに行かないと。」
「僕の服を貸しましょうか?」
「いいえ。すぐ隣の部屋なので、自分の服を着替えに行きます。」
「……行かせたくないな。」
彼の腕がルイーゼの背中をしっかりと抱きしめ、力が込められた。
「……」
「じゃあ、服を乾かしてあげます。」
彼が指を鳴らすと、彼とルイーゼの服は一瞬でふんわりと乾いた。
ルイーゼが驚いた表情で自分の体を確認している間に、エドワードは抱擁を解き、浴室からタオルを取り出した。
「でも、髪は手で乾かさないといけないみたいですね。」
ルイーゼはゆっくりと目を細め、エドワードを睨んだ。
彼の髪もまた、服と同じように柔らかく乾いていた。
「本当に不器用なんですか?」
「当然そんなことはありません。」
「正直ですね。」
「髪が美しかったので直接触れてみたかったんです。それで口実を作りましたが、もし私の手が触れるのが嫌なら仕方ありませんね。ルイーゼの両側の髪を乾かしていると気持ちが落ち着くかと思ったのですが……いや、私は遠慮します。すみませんでした。」
彼は言葉を濁しながら、そっと視線を落とした。
その視線を追うように、黒髪が静かに垂れ下がった。
赤い瞳は再びしっとりと濡れていくように見えた。
「違います!私があなたの髪を乾かします!」
「私、とても面倒くさがりなんです。誰かに代わりに乾かしてもらえたらってずっと思っていました。早く来て、乾かしてください。」
ルイーゼはふらふらと椅子にもたれかかった。
彼女は弱い者に対して無条件に甘かった。
エドワードもそれを分かっていて、彼女のそういう性格をうまく利用することができた。
半分は演技かもしれないが、彼女がこの部屋から離れたくないと思っているのは本心のようだった。
エドワードの手がタオルを手に取り、慎重に彼女の髪を乾かし始めた。
傷つけてしまわないか心配しているのか、繊細な手の動きに緊張がにじみ出ていた。
その動きにルイーゼの唇がわずかに震える。
部屋には特別な装置もなく、魔法がかかっている様子もないのに、なぜか適度に暖かく心地よかった。
彼女の髪を誰かが丁寧に乾かしてくれたのは、本当に久しぶりのことだった。
アレンが生きていた頃以来だから、10年以上前のことになるだろう。
開いた窓の隙間から、そっと入り込む微かな風に、ルイーゼ瞼がゆっくりと閉じ始めた。
緊張が解けたせいか、広場での出来事が夢のように遠く感じられ、眠気が押し寄せた。
彼女はエドワードの肩にもたれたまま、こくりこくりと眠りに落ちていった。
髪を拭いていたエドワードの手が止まった。
「少し寝ろ。」
彼がそう言った途端、彼女は完全に眠りに落ちたかのように深く頭を埋めた。
エドワードは彼女をそっと抱き上げ、自分の寝台に優しく横たえた。
「うーん……あ、ごめんなさい。部屋に戻らなきゃ。」
ルイーゼは眠気に包まれたまま、ぼんやりとした目でエドワードを見つめた。
「ただ、ここにいてください。」
「……」
「一人になりたくないんです。」
赤い瞳は、どこか切なげに彼を見つめていた。
7年後の、あの時よりもずっと素直なその言葉が、なぜか彼の心の奥深くに響いた。
「だから今夜だけは、私のそばにいてください。必要なら、私があなたを慰めます。」
少し前に彼が彼女に言った言葉と、まるで重なっていた。
「さっき襲撃を受けたんですよね。」
「ええ。」
「今夜、何が起こるかわかりません。」
「また襲撃があるかもしれないと考えているんですね。」
「それなら護衛が必要ですね。」
「ごもっともです。」
「あなたの寝台はこんなに広いし、普段は同じ天幕を使う間柄なのだから、一緒に寝るのは特に変じゃないですよね?」
「……ええ。」
「では、今夜はあなたの部屋で過ごします。」
エドワードはゆっくりと目を瞬かせた。
彼の長い黒いまつげがわずかに持ち上がり、その奥に隠れていた赤い瞳が露わになった。
やがて、彼の顔には魅惑的とも言える美しい微笑が浮かんだ。
「いい考えですね。」
そう言うと、彼はゆっくりと寝台の上に上がった。






