こんにちは、ちゃむです。
「捨てたゴミは二度と拾いません」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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4話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロローグ④
湯船に体を浸すと、こわばっていた心が少しずつ解けていく。
お風呂を済ませて部屋を出ると、私を待っていたのは長年ウィリオット公爵家に仕えている執事の一人、テイル・ウィザードという男性だった。
彼は私が着替えて出てくるのを待っていたようで、手渡してきたのは一束の書類だった。
「これは何ですか?」
「急ぎで処理しなければならない書類です。」
急ぎだと言われて書類を受け取り、確認しようとしたが、私は一瞬考え込んでしまった。
本来、公爵が処理すべき内容で、なぜ私がやらなければならないのか?
公爵が不在でもないし、他の仕事で忙しいわけでもないのに。
今、フィレンはあの女性と笑いながら食事をしているだろうに、私は仕事をしなければならないなんて。
そう思うだけで胸の内がむかむかして、イライラが募る一方だった。
私は手を差し出しながら書類を突き返した。
「ウィザード卿、これをフィレンに持っていってください。」
「えっ?」
ウィザード卿は何を言っているのかわからないといった様子で私を見つめた。
しかし、10年近くも私が代わりに処理してきたものを、突然フィレンに持って行けと言われ、戸惑うのも無理はなかった。
「これまで公爵が不在だったので私が代わりにしていましたが、もうそうではありませんよ。」
私は微笑みながら、親切に説明してあげた。
「ですから、今後公爵の仕事はフィレンが直接処理するように、彼に持っていってください。」
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ウィザード家門は長い間、ウィリオット公爵家のために仕えてきた忠実な家臣だった。
テイル・ウィザードもその例外ではなく、彼はアカデミーを卒業するとすぐにウィリオット公爵家の秘書官として働き始めた。
そして、その後30年間にわたり忠誠を尽くしてきたが、今日のように困惑する日を迎えたのは初めてだった。
『公爵に直接この書類を持って行けと言われたが…。』
果たしてフィレンがこの書類を正確に理解できるのだろうか?
テイルは断じて無理だと確信していた。
分からないことがあれば自分に尋ねてくるだろうが、その度に面倒だと感じる彼の顔が思い浮かび、ため息をつかずにはいられなかった。
ただ、レイラが処理してくれればよいのにと思いつつも、彼女はそんな気持ちには見えなかった。
『無理もない。』
フィレンがあんなことをしたのだから、それを代わりにやりたいと思うわけがない。
レイラの気持ちは十分に理解できるが、それでもため息が出るのを抑えることはできなかった。
「とりあえず……行ってみるか。」
結局受け入れるしかない。
テイルは深いため息をつき、フィレンがいる公爵の部屋へと向かった。
「書類?」
予想通り、フィレンは嫌そうな態度をはっきりと示し、振り返るとテイルは心の中で深いため息をついた。
ただ、表面上は一切その素振りを見せずフィレンに丁寧に書類を渡した。
「今日中に処理しなければならない案件ですが、遅い時間にも関わらずお持ちしました。」
「それはわかるけど、どうして私のところに持ってきたんだ?」
「それは公爵閣下から決裁をお願いする書類だからです。」
この言葉にもフィレンは書類の方を一瞥することなく壁にもたれかかった。
すっきりしない表情が不満そうに浮かんだ。
「これまではこういうことはレイラがやっていたはずだけど?」
「今まではレイラお嬢様が公爵閣下の業務を代行されていたのは、公爵閣下がご不在だったからです。」
「私が席を外していなかったときも、レイラが担当していた仕事だと知っているけど、どうして急に私のところに来たんだ?」
その時、彼が怒りに囚われて仕事を全くしないで、訓練場にばかり入り浸っていたからだ!
テイルは言葉を詰まらせ、どう答えるべきか迷った。
「もしかしてレイラが私に送るように言ったのか?」
テイルはフィレンが核心を突く質問をすると、気まずそうに笑い、視線をそらした。
フィレンは小さくため息をつきながら視線をテーブルに移した。
「さっき怒っているように見えたけど、それが理由か?」
「お嬢様が怒っていたことをご存じでしたか?」
「その顔をじっくり見たのに、知らないはずがない。何が理由かはまだ分からないけど。」
そうか、それは分からないのか。
期待を込めていたテイルが深いため息をついた。
「フィル。」
中から若い女性が現れ、フィレンの腕を軽く掴んだ。
その女性だった。
テイルは一瞬驚き、その女性の丸いお腹に目を向けた。
遠目には分かりにくかったが、近くで見ると確実に妊娠しているようだ。
妊娠して4か月ほど経ったのだろうか?
いや、それより少し早いようにも見えた。
テイルは、自分の妻が妊娠していた頃を思い出しながら、女性の妊娠期間を推測した。
「どうしたの、シスリー?」
フィレンが穏やかにシスリーの肩を包むように尋ねた。
「大したことないです。ただ退屈なだけです。まだ話がたくさん残っているんですか?」
「もう終わったよ。無理しないで、ここに座っていて。」
フィレンの言葉に従い、シスリーは素直に頭を下げてまた中へ戻っていった。
フィレンは壁にもたれていた身体を起こし、テイルに向かって言った。
「その書類はもう一度レイラに持っていってくれ。」
「お嬢様から公爵閣下に届けるようにと……。」
「レイラは幼い頃からどんな細かな仕事でもうまくこなしていた。怒りを発散しても、翌日になればいつの間にか解消されているようだった。だから、明日もう一度持って行けばサインしてくれるだろう。」
「しかし、これは今日中に処理しなければならない仕事です。ですから、早く決済を……。」
テイルの言葉が終わらないうちに、フィレンはバタンと扉を閉めて戻ってきた。
「公爵閣下、公爵閣下!」
テイルが外で必死に彼を呼び止めようとしたが、無視され、シスリーが座っているソファへ戻った。
シスリーはテイルの声がメアリーチェの扉を叩く音に似ているのを聞きながら、扉が揺れる様子を眺め、フィレンの胸に静かに身を寄せた。
「彼、放っておいても大丈夫なの?」
「察することができるなら、気づいてレイラに持って行くだろう」
「レイラ……あのお嬢様の名前ですよね?フィルの婚約者。」
フィレンが顎を触ると、シスリーは小さく感嘆の声を上げた。
「名前を呼ぶのもそうですし、お互いタメ口で話しているのを見ると、そのお嬢様とフィルはかなり親しいようですね。」
「親しいよ。幼い頃からずっと顔を合わせてきた仲だからね。」
「ふむ、それでもタメ口は違うのではありませんか?」
シスリーが顎に手を添えながら微笑む様子を見て、フィレンは疑わしそうな目で彼女を見つめた。
「何が違うっていうの?」
「そのお嬢様は一介の伯爵令嬢で、フィルは公爵です。いくら幼い頃から見てきた婚約者だとしても、フィルに対してタメ口を使うのは少しおかしい気がします。他の貴族たちが見たら、きっと奇妙に思うことでしょう?」
「そうか。」
シスリーはフィルが考え込むのを見て、彼の耳元に顔を寄せながら話を続けた。
「だから、そのお嬢様にはフィルに敬語を使わせるべきだと思いませんか?さもなければ、フィルも、そのお嬢様も他の人々に大きな誤解を招いてしまうかもしれません。全部、あなたとその女性のためを思って言っているんですよ。」
シスリーは甘い声でささやきながら締めくくった。
彼女は優しい指先でフィレンの顎を軽く撫でた。
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急いでフィレンのもとへ行けと言ったが、どうせまた戻ってくるのだろうと分かっていた。
公爵の印章が私の執務室にあるのだから。
フィレンがどんなに仕事をしようとしても、印章がなければどうにもならないのは明らかだったので、私は動かずにウィザード男爵を待った。
残っている仕事を片付けるうちに、少しも休む暇がなかった。
案の定、ウィザード男爵はそれほど時間もかからず戻ってきた。
「書類をお渡しします。」
「お嬢様……」
私の言葉に、ウィザード男爵は救い主に出会ったかのような目で涙を浮かべながら私を見つめた。
その彼の行動から、私はフィレンの反応を予測することができた。
フィレンは何もしないだろう。
10年間任されてきた仕事を、今さら自分から進んでやるはずがなかった。
それでもやらねばならない。
公爵としての責務をいつまでも放棄するわけにはいかない。
私がその仕事を肩代わりするのも限界がある。
この問題については、フィレンと真剣に話し合う必要がある。
……ついでに、あの女性についても話してみようか。
その女性のことを考えると頭が痛む。
私は印章を押しながら頭を揉むと、ウィザード男爵が心配そうに尋ねた。
「大丈夫ですか、お嬢様?」
「ええ、大丈夫です。」
私は微笑みながら、書類を確認した。
まだ頭が痛み、書類がうまく目に入ってこなかったが、なんとか集中しようとした。
間違っている部分を修正し、印章を押そうとしたその時、外で雷鳴が轟いた。
「……!」
驚いて窓の方を振り返った。
カーテンのせいで外の様子は見えなかったが、窓が光っているのは見えた。
雨の降り始める音が耳に入った。
ウィザード男爵が窓の外を見ながら言った。
「午後ずっと曇っていましたが、ついに雨が降り出しましたね。」
「……そうですね。」
私は急いで印鑑を押し終えると、ウィザード男爵にそれを渡した。
「問題の部分は修正しました。それ以外は、このまま進めてください。」
「はい、お嬢様。」
ウィザード男爵は書類を大事そうに胸に抱き、深くお辞儀をした。
「遅い時間にご足労いただき、誠に申し訳ありません。」
「いえ、私が……」
……やるべきことなんです。
そう言おうとしたが、言葉を飲み込み、気まずそうに笑った。
普段ならもっと自然に言えたはずなのに、何かが喉に引っかかって言葉にならなかった。
私が何かを言おうとしたことに気づいたのか、ウィザード男爵も一瞬驚いた表情を浮かべた。
「では、これで。」
ウィザード男爵が部屋を出て、一人残された私は散らかった書類を整理し、寝る準備のために席を立った。
ドカン、バリバリッ!
「ひっ……!」
再び耳をつんざくような雷鳴が轟き、私は耳を塞ぎながら座り込んだ。
その雷鳴が鳴りやんだかと思うと、またもや雷光が夜空を裂いた。
目の前が一瞬明るくなり、祖父母が帰ってきたあの日が自然と脳裏によぎった。
その日は、私の幸福が一度に奪われた忘れられない日でもあった。
冷たい記憶となって戻ってきた二人の姿が、鮮明に思い浮かんで胸を締め付けた。
息をすることさえ苦しかった。
「はぁっ……。」
私は胸を押さえながら体を丸めた。
握った拳に力が入った。
「大丈夫……落ち着いて、レイラ。」
ただの雷鳴だ。怖がる必要は全くない。
恐怖で震える心をどうにか落ち着かせようと必死になったが、それは虚しい努力だった。
雷鳴は続けざまに響いた。
耳を塞いでも何の意味もなく、雨粒が頬を伝って涙と混じり合った。
「ミサ、ミサ……。」
彼女がそばにいれば、睡眠薬を飲んで楽に眠ることができただろう。
ミサをあの女性のもとに送ったことを後悔した。
この夜を乗り越えるために、他の侍女に睡眠薬を持ってきてもらうよう頼むべきだったのだろうかと考えたが、こんな愚かな姿を他の誰にも見せたくないと思い、最後まで誰にも助けを求めなかった。
夜がいつもよりもかなり長くなりそうな、不吉な予感がした。
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