公爵邸の囚われ王女様【５３話】ネタバレ

「余計なことを言った、本当に申し訳ない」

ノアの謝罪にクラリスは顔をうずめたまま首を横に振った。

「ノアのせいじゃない」

「つらい記憶を起こしたのは私です。あなたが戦争を・・・経験したことを知っていたのに」

「それはノアが作った記憶でもないよ」

「・・・」

「そうか、戦争・・・」

クラリスはその恐ろしい言葉が自分の運命に長い影を落としたことを少し怖かった。

「あのね、ノア。やっばり公爵様には申し上げたほうがいいんじゃないかな？」

「少女！」

ノアはクラリスの肩をつかんで押しのけてきた。

「私の存在がシェリデンの平和を脅かすこともあるということを、公爵様は知っておかないと」

「必ずしもそうだというわけではない。私と少女がちゃんと秘密を守ってくれれば・・・」

「しかし、戦争が一度始まると、手の施しようもなくなる。あっという間にすべてがめちゃくちゃになるよ」

クラリスはマクシミリアンがシェリデンをどれほど愛情を持って育てているかを知っていた。

彼の真心が暖かく溶けたこの冬、都市に赤い血が流れることは望まなかった。

それも自分の手によって。

（・・・どうしよう）

クラリスは自分の命を最初に主張したことを後悔した。

ノアは少し前にクラリスが立派なゴーレムマスターだと言ったが、実は彼女の力は大したものではなかった。

ただ手のひらほどの友逹を作って寂しくないように生きることができる程度であるだけ。

あまり役に立たない力のため、多くの人を不幸に巻き込みたくなかった。

「私の意見はあくまでも最悪を想定しただけだ」

「しかし、可能性は十分よ」

ノアが話した通り、魔法使いの城でクラリスを所有することを望むなら、マクシミリアンは彼らと戦うしかなかった。

彼は何があっても、元気に18歳になったクラリスを死刑場に連れて行かなければならないから。

だから結局、クラリスを望む魔法使いの城とマクシミリアンは互いに対立することになるだろう。

（そうなると・・・）

クラリスは唇をかみしめた。

彼女はいつも生きたかった。

毎日の小さな喜びを感じながら。

だが、恩恵を与えてくれた人に被害を与えてまで生きたいかというと、そうではない。

（この人生がシェリデンに迷惑になるなら、いっそ死んだ方がましだ）

彼女の考えが次第に悪い方向に手の施しようもなく流れると、ノアは両肩を強くつかんだ。

「私は少女に悪く思ってほしかったのではない」

「でも・・・事が大きくなる日には他に方法がないじゃない」

クラリスの正体が広く知られるようになれば、戦争を防ぐために彼女にできることはただ一つだけ。

戦争の種になった自分をなくすこと。

この仕事は自分でやり遂げなければならなかった。

王との約束を重要視する公爵は１８にならないクラリスを決して処刑できないから。

「・・・」

しばらく沈黙を守りながらクラリスを眺めていたノアが久しぶりに口を開いた。

「・・・私が」

彼の声は少し割れていた。

「ノア・・・が？」

私を殺してくれるって？

クラリスはなぜか期待に胸がドキドキした。

それはなかなかいい考えのようだ。

ノアは優しいから、きっと苦痛が短くて確実な方法を一緒に考えてくれるだろう。

クラリスは彼を期待の目で見つめる。

「実に不穏な目で私を見ているね」

ギクッ。

ノアはクラリスの額を指で軽くたたいた。

痛くはなかったが、突然のせいで少し驚いてクラリスはさっと私の額を両手で包み込んだ。

「う」

「私は少女を殺しません。絶対に」

「・・・しない？」

「シェリデンの子は友達にそんなことをさせるの？」

「そりゃそうじゃないけど・・・」

なぜかノアが「・・・私が」と真剣に話を始めると、少し期待をかけてしまったのだ。

「私が少女に言おうとしたことは、だから・・・」

「・・・？」

「・・・一緒に逃げるという意味だった」

「逃げる？」

「大陸は広く、この世には魔法使い団とサパス王室の影響力が及はない場所もあるものだ。そして、ちょうど私は空間と時間の制約を脱した魔法使いだし」

クラリスはロックハートと歴史を勉強する時に見た広い地図を思い出した。

言われてみれば、本当にどこかにはそんな場所があるかもしれないという気がした。

クラリスがいなくなれば、魔法使いはシェリデンをこれ以上苦しめないだろう。

そしてクラリスは18歳になる日に静かに帰ってきて約束された運命を迎えれは良いだろうし。

「だから」

彼はクラリスのピンクの髪を軽くたたいた。

「まず、少女は望み通りに生きて行きなさい。万一の事態には私がどこへでも連れて行きます」

「何で・・・」

私にそこまでしてくれるの？

クラリスは質問に答えることができずにもじもじした。

しかし、ノアは十分に理解したようで軽い声で答える。

「ただ真似をしているだけだ、私の師を」

「師匠・・・様？」

「ヨナ・アスト、私には逃げ場になってくださると言っていた方だ」

だから今回はノアがクラリスの逃避先になってくれるという意味のようだ。

本当に最悪の状況で眺められる唯一の光。

「だから気にすることはない。これは私のためのことだ。あの方がどんな気持ちで私の逃避先になってくれたのか知りたかっただけで、そのためには直接やってみるしかないのではないでしょうか？」

「ねえ、、ノアがそう言ってくれたから、なんだか怖くなくなった。少し前は恐怖だけだったのに」

「私もそうでした」

「お師匠様がどこへでも逹れて行ってくれるとおっしゃった時ね？」

ノアは小さくうなずいた。

「おかしいな。いつでも逃げられると思ったら、なんだか目の前のことをもっと大事にすることができました」

「目の前の・・・仕事」

クラリスは自然に恩を返すことと公務告示を思い出す。

その難しい試験は16から受ける資格があった。

（少なくとも2度は挑戦できる）

その間にクラリスが素晴らしい結果を出すことができたらどんなにいいだろうか？

そうなれば、すぐに人生が終わる瞬間にも、おそらく彼女はにっこり笑うことができるようだった。

（いや、たとえそうでないとしても）

本当に頑張った記憶は、クラリスを悲しませることは決してないだろう。

グレゼカイアではそのような機会さえなかったという点を考えればなおさらだ。

クラリスが満足している間、ノアが変だというように頭を傾けた。

「どうしてチャンスが２回だけなの？」

「え！？」

「公務員試験は何度でも挑戦できる。ほとんどの場合、若者が受験するが、年配の方が高い点数を取った例も新聞でよく見られる」

「あ、うん！そ、そうだね」

「だから、少女には二度ではなく、十度でも、いや、何度でもチャンスがあるでしょう」

「それはそうだけど！わ、私は・・・！」

クラリスは今こそ、ノアに自分の事情を話す機会だと思った。

自分は18歳で死刑になるだろうと。

しかし、なぜか・・・今回もなかなか口が開かなかった。

彼が大切に守ろうとするクラリスの人生がたったニ度の機会だけを迎えて消えることを知ったら・・・もしかして失望して去ってしまうのではないか。

「少女？」

「そ、そうだね。何度でも・・・うん。たくさんできるよ！」

クラリスはとてもぎこちない口調でそう言って、席からばっと立ち上がった。

「もう帰って寝なきゃ。もっと遅く寝ると、明日病気の鶏のように居眠りしてノアを見送ることができないじゃないか」

「・・・少女、大丈夫？」

「もちろん大丈夫！早く行こう、うん？」

クラリスはノアに手を差し出す。

彼はなんだか変な顔をして見たが、彼女の手を握って立ち上がった。

彼らは眠っているベンソン卿を注意深く揺すって、一緒に庭に出る。

庭には二人の帰り道を照らす小さなランプが一定の間隔で置かれていた。

大人たちが作っておいた安全な道に出てくる時、ノアが何かを思い出したように「ああ」という声を出した。

「そういえば、2度も挑戦する必要があるのだろうか」

「う、うん？」

彼が再び「機会」に対する話をしようとするようで、クラリスはぎくりとしてそばに立ったノアを振り返った。

「試験問題はそれほど難しくはないですからね」

「え！？」

それは公務告示を行う予定だったり、すでに経験した人々を一度に敵に回す発言だ。

今すぐその試験に関する新聞記事だけ見ても、多くの若者が膨大な試験範囲に苦しんでいるという内容が主になるほどだから。

「昔、少女の話を聞いて、歴代の既出問題を解いたことがある。分野別の入門書を中心に徹底的に暗記すれば簡単に解ける水準だったよ」

クラリスはノアをじっと見た。

近い友逹で逃避先になってくれる存在にもかかわらず、今はなぜだろうか・・・すごく見慣れないように見えた。

そっと握っていた手を離すようになるほど。

「応用問題も予想の範囲内で出題される方なので、特に気難しくないような気がした」

もちろんクラリスも「応用問題類型整理」という書籍を見たことがある。

厚さ1尺の本が計5冊セットになっていた。

「基礎をしっかりと立てて、問題解決を繰り返せば簡単に全部合うことができるでしょう」

「・・・」

そんな言葉は公務考試首席のインタビューで出る嘘だと思ったが・・・。

・・・本当にこんな風に考える人がいるとは！

クラリスはなぜかノアが憎らしくなる一方、ノアと似た人々と競争して最高の地位を得ることができるか少しは心配だった。

「少女はうまくいくでしょう」

ノアはクラリスを絶望させたことも知らないまま、心からのエールを送る。