こんにちは、ちゃむです。
「継母だけど娘が可愛すぎる」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

372話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 龍との交渉④
「セイブリアンはそんなことはしません!」
リリーは思わず声を張り上げた。
交渉は重要だったが、これ以上耐えられなかった。
彼女はユンの手を振り払うように引き離し、飲みかけの茶杯が揺れて茶がこぼれた。
まだユンはテーブルの上に手を置いたままで、その姿は動じることなく静かだった。
「彼は昔から私の魔力の色を知っていました。それでも態度を変えない人です。」
リリーは迷いなく席を立つ。
自分が交渉人であることを忘れたわけではない。
しかし、このような形で取引が進むことは受け入れられなかった。
彼女だけでなく、他の人々も同じ気持ちであることは間違いない。
この様子を見たらセイブリアンも、ブランシュも、ベリテも。
ナディアやカリンもきっと激怒するだろう。
これは自分に対する、そしてセイブリアンに対する侮辱だ。
彼女は最後の忍耐を振り絞り、礼儀正しく別れの挨拶を述べた。
「私は帰ります。お茶は美味しくいただきました。」
彼女は扉を乱暴に開けて出て行った。
眠っている護衛兵たちをどうにかして起こし、戻るつもりだった。
そんな中、ゆっくりと歩いていた彼女の背後から、低く冷たい声が聞こえてきた。
「仕方がないな。」
諦めたのだろうか?
しかしリリーは、それが誤った認識であることにすぐ気づいた。
足は動かず、まるで何かに縛られたようだった。
後ろからユンの歩いてくる音が聞こえた。
彼はリリーの方へと軽やかな足取りで近づき、彼女と向き合う。
「これは一体どういうことですか?すぐに解放してください!」
「私は君を守ろうとしているだけだ。」
「あなた……!」
リリーは魔法を解こうと試みたが、この魔法は通常のものではなかった。
ユンの目元の微笑みが紅い瞳の奥で妖しく光った。
「快適に過ごせるようにするだけだ。君が何を望むにしても、少し考えを変える時間を与えてみたらどうだろう……。」
その瞬間、リリーはユンの顔が遠ざかっていく感覚を覚えた。
それは彼女が後ろに下がったわけではなく、誰かに抱き上げられたためだった。
彼女を包み込むこの温もり、この馴染み深い感触……。
「一体誰を脅そうというのだ!」
セイブリアンの低い声が洞窟に響いた。
その声は中央に光を照らし出し、まるで明確な意志を持った光のようだった。
龍を前にしても恐れることを知らないようなその姿勢に、リリーは安堵と同時に戸惑いを覚える。
「セイブリアン?あなたがどうしてここに……!」
「申し訳ありません、あなたが心配でどうしてもついて来てしまいました。」
ユンはまるで不本意だと言いたげに彼を見つめた。
つい先ほどリリーに対して見せた表情とはまるで違う、冷淡さと静かな怒りを織り交ぜた顔だった。
「魔力を持たない人間なのか。それで奇跡を感じられないのか。」
彼は動じることなく、焦ることもなくセイブリアンを冷静に見据える。
まるで、自分の最後がどのように訪れるかを考えているような人間のように。
そしてユンは決心した。
どこからか風が吹いてくるかのように、彼の服の裾がひらひらと揺れ、次第にその姿が変わり始めた。
気づけば二人の前に巨大な龍が現れていた。
人間が対峙するにはあまりにも巨大な存在だ。
「魔力もない人間ごときが私を相手にしようとは無知だな。」
重々しい声が洞窟内に響いた。
龍の顔には表情が読み取れなかったが、そこには深い無関心が漂っていた。
セイブリアンに対抗しようという考えは全く浮かばなかった。
赤い目は大きな宝石のようにセイブリアンとリリーをじっと見つめていた。
「その女をここに置いていけ。そうすればお前たちが望むものを全て与えよう。」
龍の縄張りに入って命をかけてまで話し合いに来たユンに対し、それ以上の提案をする必要はないと言わんばかりだった。
多くの人々が魅了されるような提案だ。
しかし、セイブリアンは後退する代わりに、静かに剣を抜き取った。
「笑わせる提案だな。」
冷徹で張り詰めた視線。
彼はリリーを守るように前に出て、剣を構えたまま言葉を続けた。
「この人は私が望む世界そのものだ。」
これ以上の譲歩はあり得なかった。
龍は巨大な尾を振り上げてセイブリアンを押しつぶそうとした。
セイブリアンは素早く攻撃をかわし、剣で尾を防ごうとした。
その視線は龍をにらみ返しているようだった。
その瞬間、龍は再び尾を振り下ろした。
セイブリアンは剣を頭上に掲げ防御に専念した。
しかし、尾の攻撃は彼を狙ったものではなかった。
洞窟の壁を強烈に叩きつけると、天井から岩や瓦礫が崩れ落ちてきた。
「セイブリアン!」
リリーの悲鳴をかき消すほどの轟音が響き渡る。
瓦礫が山のように崩れ落ち、その中から微かに赤い布切れが見えていた。
セイブリアンの姿は見えなかった。
しかし、瓦礫の下からはみ出しているその布は、誰かがまだそこにいることを示していた。
あれほど巨大な瓦礫の下敷きになれば、無事では済まないだろう。
ユンは冷徹な眼差しでその場所をじっと見つめていた。
「死んではいないな。すぐに治療してやるから安心しろ。」
瓦礫の下からは生命の気配が確かに感じられた。
ユンは身体をひねり、リリーの方を向いた。
彼女は驚きのあまり後ずさりした。
しかし、まだ足がすくんで動けず、その場に座り込んでしまった。
リリーの表情には恐怖が色濃く浮かんでいた。
ユンはそれを見て、どう反応すべきか一瞬迷ったようだった。
「恐れで君を縛り付けたくはなかった。」
龍の影がゆっくりと傾き、ユンがリリーに近づいていくようだった。
何かが背後で瞬きするのを彼女は感じた。
その瞬間、龍の顔に痛みが走り、鋭い刃先が月光を反射して輝いた。
セイブリアンの剣が龍の顔を切り裂き、ユンの表情に再び決意が宿った。
血が滴り落ち、龍の目元に流れた。
ユンは理解できないかのように驚愕しながら叫んだ。
「ど、どうやって抜け出したんだ?」
「すべて妻のおかげさ。」
リリーの方を見ると、彼女の手から紫の力が漏れ出しているのが見えた。
その力が溢れるとともに、瓦礫はどんどん粉々に崩れ落ちていった。
ユンの牙が獲物の首筋を噛み砕くように深く食い込み、鈍い音を立てながら力を加えた。
咆哮と共に尾を振り回すと、岩の崩落が再び始まった。
「愚か者め!あのような行いを繰り返すつもりか!」
つい先ほどよりもさらに多くの瓦礫が落ち始めた。
しかしながら、セイブリアンはそれらを軽やかに飛び越え、落石の間を駆け抜ける。
まるで崩れゆく山を上る黒豹のようだった。
その目が向けられた先はただ一つ。
ユンの胸部を注視していた。
そこには一本の筋が走っており、それが裂け目となっていた。
まさにグンヒルドが語っていた「龍の逆鱗」だ。
逆鱗を見つけるため、最初の瓦礫を避けることはできなかったが、もうこれ以上障害物に惑わされることはなかった。







