悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す

悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す【48話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。 ネタバレ...

 




 

48話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • リリカの力

自分の身体に変化が生じていた。

何かが――確実に――変わっていた。

これまでの「リリカ・プリムローズ」という人間と、今の「リリカ・プリムローズ」はまるで別の存在のように思える。

長い間、自分の中に沈んでいた、鈍く重たい霧のようなものが消え、代わりに――何か強く澄んだものが流れ込んでいた。

それは鋭く、しかし心地よい。

毒のように強烈で、人を酔わせるほどの“力”。

けれどそれは香りや酒のような一時のものではない。

“これは魔力でも、神聖力でもない――”

リリカは、胸の奥に燃えるような熱を感じながらそう思った。

それは、生きているという確信そのもののような、名づけようのない“力”だった。

他の人々は普通なら少し不気味に感じるかもしれないが、少なくともリリカにはそうではなかった。

リリカは自分の体を這い上がるように満ちてきた、あの静かで深い気配を再び目を閉じて感じ取った。

――どうせ失うものはない。

もしかしたら、これは転機になるかもしれない。

『……そして、根を辿るのも悪くないかもしれない。』

少しだけ思案したあと、やるべきことははっきりしていた。

『この変化について、話を聞ける人が必要だわ。』

自分に何かが起きたと自覚した瞬間、リリカが連絡を取ったのは、本当はあまり会いたくなかった人々だった。

――それは、彼女の「一族」だった。

正確に言えば、彼らは自らを“紅海(こうかい)の一族”と名乗っていた。

太陽を包み込む「紅い輝き」という意味を持つ名。

――「根拠もなく、ただ惰性で生きている人間には、もったいないほど立派な名前だ。」

リリカから見れば、“紅の呪い”という名を持つ彼らは、その名にふさわしいほど美しくも、誇らしくもなかった。

彼女の生まれた無頼の一族では、成人した女は皆、娼館で働くのが当たり前だった。

詐欺も盗みも日常茶飯事。

警備隊に捕まることも珍しくない。

男の情けを頼りにして生きることも、恥とはされなかった。

失うものなど何もなく、体面もなく、ただ欲望のままに生きる――そんな者たち。

──「うちの一族から、公爵家の令嬢が出るなんて!」

リリカの実母が亡くなったあと、彼女を引き取った一族の者たちはそう言って笑った。

プリムローズ公爵家と彼女をつないでくれたのは、他ならぬ彼らだった。

――それを感謝すべきなのだろうか?

幼いリリカにとって、プリムローズ公爵家に接触することは簡単なことではなかった。

彼らは仲介料として多額の報酬を受け取ったにもかかわらず、それでも満足していなかった。

――「公爵家で困ったことがあれば、いつでも我々をお訪ねください。」

リリカが公爵家に入ることを“好機”とでも思っているかのように、目を輝かせる彼らを見たとき……

『作り笑いなんて、見ればわかる。まるで私が必ず苦労すると思い込んでいる顔じゃない。』

当時の幼いリリカは、心の中で彼らをせせら笑った。

――そして、自分がそんな目に遭うはずがないと固く信じていたのだった。

彼女は、地べたを這うように生きる彼らとは違っていた。

貴族――公爵家の令嬢となったリリカは、屋敷で初めて袖を通したドレスの重みと、人々の賛美に満ちた言葉を心から味わった。

望めば甘い菓子もすぐに出てきて、食べすぎを気にするほど食卓は満ちていた。

飢えの恐怖など、とうの昔に忘れていた。

人々は彼女を“下層の出”と陰で蔑みながらも、その美しさと気品に目を奪われていた。

リリカはそれを知らないふりをして、内心ほくそ笑んでいた。

――幼いころ、娼家の一族と過ごした日々。

その記憶は、彼女の中に刻まれたまま、静かに劣等感と野心を育て続けていた。

いつか、誰よりも高い場所に立ってみせる。

見下ろす側になる。

『必ず……すべてを上から見下ろしてやる。そんな場所に、私は立ってみせる。』

そう願い続けてきたのだ。

――あの頃の自分に、確かに誓ったはずだった。

二度と会うことはないと思っていた紅海の一族を、自分から訪ねることになるとは――。

結局リリカは、かつて彼らから教わった連絡方法を使って彼らに接触することになった。

みすぼらしく汚れた服を身にまとい、周囲を気にしながら進むリリカを、族長とその親族たちが待ち構えていた。

『やっぱりね。プリムローズ公爵家に紹介してくれた時にもらった仲介料、きっととっくに使い果たしてるんだわ。』

まるでリリカが来ることを最初から予期していたかのように、彼らは少しも驚く様子を見せなかった。

汚水のたまった路地裏に佇む、浮浪者のような身なりの中で、リリカの瞳だけが異様なほど澄んで輝いていた。

「公爵家のお嬢様が、いったいどんなご用件でここまで?わざわざ私たちのような者のところへ来るとは思いませんでしたが。」

「そうなのです。どこへ行っても、自分の名前で利益を得ようなどと思わないこと――そう毅然と言い放たれた方が、あなたでしたのに。」

くすくすと響く低い笑い声。

かつて共にいた彼らの前でも、“貴族”として育ったリリカの姿は、どこか近寄りがたく見えた。

胸の奥に小さな不快感が生まれたが、その一瞬の苛立ちを押し殺し、彼女は微笑を保った。

――“私はプリムローズ公爵家の令嬢。あの者たちは、今日を生き延びるだけの下賤な人々。同じ土俵に立つ必要などない。”

リリカはそう言い聞かせるように、背筋を伸ばして高く顎を上げた。

「ねえ……私、何か“力”を持ってしまった気がするの。もしかして、あなた知っている?」

「おお、プリムローズ家に神の祝福が降りたのですね?なんとおめでたい。これは栄光のしるしに違いありません。」

軽やかな言葉に、リリカはわずかに目を細めた。

その“祝福”が、果たして本当に祝福なのか――彼女自身、まだ知らなかった。

プリムローズ公爵家では、祝福の力が目覚めることを「覚醒」と呼んでいた。

だが、リリカ自身は理解していた――自分に宿ったこの力が、あの祝福と同じものではないことを。

『はぁ……もし祝福だったら、本家の人たちに相談していただろうに。』

正体も使い方もわからない力など、本当の意味での「力」ではない。

副作用がないか、どう扱えばいいか、徹底的に観察して慎重に対処する必要があるのだ。

「私が泣きつきに来たとでも思った?そんな生易しい話じゃないの。」

「いくら公爵家の庇護を受けているといっても、所詮は紅海の一族。最初から族長に対してその口の利き方とは……。」

「力を得たのなら、普通は魔法使いや神官のもとを訪ねるはずでは?それなのに、なぜわざわざ私たちのような者のところへ?」

隣で立ち上がろうとする者を手で制し、族長はゆったりとした動作で言葉を放った。

「高貴なお方。あなた様がご存じないことを、なぜ我々のような一族が知っていると思われたのか――不思議でなりませんね。」

横で誰かが止めに入ったが、族長は意に介さず、皮肉を帯びた笑みを浮かべたまま続けた。

「“もし我らの力が必要なら、いつでも連絡を”などと仰っていたが――そのすぐ後で、“二度と庶民風情に頼るな”と、お父上に言いつけて騎士団を送らせたではありませんか。忘れましたか?」

「……」

「我々が“泥まみれの下賤な一族”だと、告げ口までなさったという可愛らしい脅し文句もありましたね。はは。」

あざけるような声。

リリカはその言葉の一つひとつが、皮膚をかすめる刃のように痛いのを感じながらも、今の立場では言い返すこともできなかった。

――せめて、彼らに“知っている”と悟られぬよう、いつもの笑顔を、少しだけ強く作るしかなかった。

「ああ、そうだったわね。」

リリカは、彼らの無責任な言葉を幼い頃の出来事で軽く受け流し、話題を切り替えた。

「あなたたち、魔法的な力を持っているじゃない。紅海の一族にも、何らかの力が授かることがあるって聞いたことがあるの。」

「……お嬢様、子どものころの話をよく覚えていらっしゃる。」

声には微かな驚きが混じっていたが、リリカにはそれが肯定の反応だとわかった。

やはり予想は的中していた。

リリカは、自分がここに来るべき理由を確信した。

(幼いころに聞いた話だけど、ちゃんと覚えていたのよ。)

プリムローズ公爵家で力を持って生まれる子どもがいるように、紅海の一族にも同じような例が存在する――。

もちろん、それを“祝福”と呼ぶには、あまりに不穏だった。

何かが、自分の内側に――確かに“降りてきた”のだ。

それが良いものではないと、本能で理解していた。

『これは……人を癒すような力じゃない。』

リリカは表面上の平静を装いながらも、他の魔法師や神官たちの目を避け、ひそかに己の状態を確かめた。

人々が“禍々しい”とか“淫靡な”と噂する類の力。

静かで、絡みつくように重たく、まるで深淵から手招く声のような――そんな気配。

彼女が異様なほど神経を尖らせていたのには理由があった。

『……もしかして、母が公爵を虜にしたのも、この“力”のせいだったのかもしれない。』

思い当たる節は、いくつもあった。

それが魅了なのか、呪いなのか、祝福なのかはわからない。

だが確かに――自分の中で何かが“動き始めていた”。

その瞬間から、リリカの世界はわずかに歪み、彼女自身もまた、戻れない道を歩み始めたのだった。

そんな気がした。

理由ははっきりしなかったが、リリカは過去の記憶を思い返しながら、そう推測した。

亡き母と自分は、昔から人々に好印象を与える不思議な魅力を持っていたのだ――。

「別に、媚びを売ってるわけじゃないのよ。」

「ふむ……」

リリカは、プリムローズ公爵から贈られた品々を差し出した。

最近は少し生活が質素になったとはいえ、以前は何不自由なく暮らしていた彼女。

そのため差し出した品々はかなりの価値があった。

彼女は社交界で「花」と称されるほど名高い存在だった。

華やかで、気品にあふれ、取り巻く貴族たちの間でもひときわ目立つ存在――。

そのためか、目の前の者たちの視線には、単なる興味ではない、どこか貪欲な気配が滲んでいた。

予想通り――何ひとつ変わっていない光景に、リリカは小さくため息をこぼした。

紅派の一族が暮らす場所は、一目見ただけで“荒んでいる”と分かるほどの貧しく粗末な環境。

時おり違法な取引で大金を手にしているらしいが、その痕跡すらほとんど見えなかった。

族長は差し出された宝石を光にかざし、ゆっくりと腰を伸ばした。

「ふむ、少々物足りぬが……まあ、同じ“血族”ゆえ、受け取っておこう。」

その言葉に、リリカは思わず眉をひそめた。

“同じ一族”と呼ばれるのが、どこか支配的で、まるで鎖で繋がれているように感じられたのだ。

「お嬢様がその“力”を自在に操る方法を見つけたなら、また昔のように――我々を知らぬふりなどなさらぬことを、願っておりますよ。」

「……そうね。」

リリカはかすかに笑みを浮かべたが、その瞳の奥には、冷たい光が宿っていた。

「それに――」

族長が言葉を続ける。

「わたしの考えでは、お嬢様のその力……」

彼の声は、妙に愉悦を含んでいた。

リリカは、次に告げられる言葉を息をひそめて待った。

力の使い方を知ったとしても、結局は彼らの助けが必要になるだろう——。

情報さえ手に入れば、もう二度と関わるつもりはなかったのに。

リリカはそう心の中でつぶやきかけて、言葉を飲み込んだ。

彼らのような“底辺の人生”と長々と話すつもりはなかったからだ。

「お嬢様は、一族に伝わる“呪術の力”を覚醒されたのです。ええ、我々もプリムローズ公爵家とは違いますが、何かしら特別な力を持っていますからね……ふふ、よくぞいらっしゃいました」

「……」

「それは魔法でも祝福でもない、言うなれば“特異な力”です。この力を持つ者は代々現れてきましたが……まさか、それが一族と王家の血を継ぐリリカお嬢様とは」

——まるで、この瞬間に自分が現れることを予期していたかのように。

リリカが何も言わずにいると、族長はまるで長年温めていた秘密を語るように、淡々と説明を始めた。

「驚きましたよ。――その力は、我々の間では“呪術(じゅじゅつ)”と呼ばれております。紅派の血族が、強烈な怨念や悪意を抱いた時にのみ目覚める力なのです。」

「……悪意?」

「ええ。自らを燃やすほどの憎しみ。たとえ代償を払ってでも、“何かを為したい”と願う瞬間にだけ発現する。」

族長はリリカをじっと見据えた。

の目はどこか愉悦を帯びていた。

「――何か聞こえませんでしたか?冷たく、ざらついた声が、あなたの耳元で囁くような。」

リリカの喉がわずかに動いた。答えられない。

「その瞬間、お嬢様には――どうしても許せぬ相手がいた。心の奥で、“消えてほしい”と願った誰かが。」

沈黙。

族長の言葉は的を射ていた。

それを否定する気力すら、リリカには残っていなかった。

「……」

彼女の中で何かがゆっくりと泡立つ。

怒り、恐れ、そして――奇妙な安堵。

族長は口角をわずかに上げた。

「お嬢様が平穏に暮らしておられるものと思っておりましたが……どうやら“その力”は、すでに目を覚ましたようですね。」

「……‘呪術’……?」

その言葉を聞いた瞬間、リリカは全身に走る衝撃に頭が真っ白になった。

「お嬢様は本当によくぞここへお越しくださいました。一族でなければ、この力を制御する方法など誰にもわからないでしょう……。異端審問に連れ去られなかったのは、まさに幸運と言えます」

「……」

「お嬢様は、どのような力を覚醒なさったのですか?」

「そ、そんなの……知らないわよ……」

「きっと、お嬢様の母君とよく似た力をお持ちなのでしょう」

族長の口元に、艶めいた笑みが浮かぶ。柔らかな声色で、ゆっくりと語り始めた。

「例えば――人を魅了する力、などですね」

魅了――。

その言葉を聞いた瞬間、リリカの中で何かが“繋がった”。

まるで霧が晴れるように、力の正体とその使い方が一気に理解できたのだ。

これまで頭の奥で疼いていた違和感が、ぴたりと形を成す。

まるで鳥が初めて翼を得た瞬間のように――「飛び方」を本能で知った気がした。

いくつもの謎が、一枚の絵としてはまっていく。

なぜ、平凡に見えた母が公爵を虜にできたのか。

なぜ、幼い自分に向けられた人々の眼差しが、妙に柔らかかったのか。

――母は、同じ力を持っていたのだ。

幼い頃から、人が自分たち親子にだけ妙に優しかった理由。

それが「愛想の良さ」でも「同情」でもなかったことを、今になってようやく理解する。

だがリリカの力は、それとは異質だった。

母のそれが“魅了”に近いものであったのに対し、リリカの内に宿るものは、もっと深く――
相手の心の奥底に潜り込み、支配するような力。

“惹きつける”のではなく、“絡め取る”もの。

それを、彼女は理屈ではなく本能で悟っていた。

『……一人の人間を……まるで自分の眷属のように従わせることができるかもしれない。』

たとえそれが妖艶だろうと冷酷だろうと、他人がどう思おうが関係なかった。

誰かを魅了し、まるで奴隷のように服従させる――そんなことが本当にできるのか?

『……これは明らかに、強大な力……』

頭のてっぺんから足の先まで、熱い衝動が駆け巡る。

紅海の一族であることを、ただの名ばかりだとしか思っていなかった彼女にとって、それは初めて“血筋”が現実的な意味を持った瞬間だった。

『……なら、誰かを魅了するとしたら……本当に必要な相手に使わなきゃ。』

凡庸な人間を操ったところで、ただの奴隷を増やすのと変わらない。

『私の魅了の呪術が他と違うところは……そう、拘束具も契約もいらないのに、奴隷以上に心から従わせることができるってこと……』

『――人を、自分に仕えるよう“呼び寄せる”ことができる。』

リリカはその感覚を思い出していた。

それはただ人を惹きつけるものではなく、心の奥の熱を掴み、静かにねじ曲げてしまうような力だった。

族長はゆっくりと頷き、淡々と説明を続けた。

「以前、あなたのお母上がフリムローズ公爵を虜にしたとき、我々も不思議に思ったものです。もしかすると、同じ“系統”の力なのかもしれませんな。」

「……同じ系統?」

「ええ。道端の女が、いかに気高い貴族の婚約者よりも容易く公爵の心を奪えるのか。我々の一族では、それを“呪術(じゅじゅつ)”と呼んでおります。」

くつくつと笑う一族の声が、部屋の空気を重くする。

その笑いの奥に、嘲りと羨望が混ざっているのをリリカは感じ取った。

「だが、ただの魅了ではありません。軽い好意を抱かせる程度ではなく――完全にあなたに従わせるには、必ず“反応”を引き出さねばならない。」

族長の目が妖しく光る。

「見ただけで、息を奪われるような甘さ。触れれば、熱に溺れるような――そんな気配を纏う必要があるのです。」

リリカは静かに息を呑んだ。

彼の言葉の一つ一つが、まるで自分の中の“何か”を呼び起こす呪文のように響いていた。

父を魅了できれば、公爵家を掌握するのも容易になるはずだ——。

だが、父がどれほど彼女を愛していようと、それは「娘」としての愛であり、彼女が望む形ではなかった。

兄ジキセンもまた、同様だった。

『……そこが、かなり厄介なのよね。』

そして何より、彼女は彼らが自分と対等の立場で話しかけてくるような態度が我慢ならなかった。

「さて……お嬢様は、一体どのような方にその“呪術”をお使いになるおつもりですか?ふふ。」

かつては共に過ごした顔ぶれでも、今の彼女にとって彼らはただの利用対象でしかない。

懐かしさなど感じる余地はなかった。

『……それでも、ここまで来た甲斐はあった。得られた情報は多い。』

そして、得た情報をもとに、誰にどのようにこの力を使えばいいか、心の中で明確な絵が描かれ始めていた。

——この世で、たった一人だけを魅了するのなら。

「――あの子のことを言っているのか?」

リリカの声にはわずかな震えが混ざっていた。

族長はにやりと笑い、わざとらしく肩をすくめる。

「そう、あの“子”ですよ。あなた方が以前“主(ぬし)”として受け入れた存在。今どこにいるのか、私も気になっておりましてね。」

紅派の一族に伝わる“力”――それは代々、特定の血筋の者だけが扱える禁術のようなものだった。

力の差こそあれ、皆どこかしら似た性質を持っていたが、リリカが口にした“あの子”のような存在は、かつて例を見ないほど異質だった。

「……あの子も、力を持っていたのね。」

「ええ。ただ少し、扱いが難しいだけで。」

族長の言葉には含みがあった。

あの子の力は強すぎて、紅派の者たちですら恐れ、決して使おうとしなかった。

他の者たちがせいぜい軽い魅惑や小さな呪を操る程度だったのに対し、あの子の力は“呪詛”と呼ぶにふさわしいほどの影響力を持っていた。

――そして、あの男だけはその子を恐れた。

普段は何事にも動じない紅派の男が、ただ一度、青ざめた顔で呟いた。

そのとき幼かったリリカも、はっきりとその言葉を覚えている。

……おまえ、本気で俺たちの一族を喰い尽くすつもりか。

その声が、今も耳の奥に残っていた。

壊れたのか?

——でも!これは私たち〈紅河(ホンハ)〉の一族にだけ受け継がれる、特別な力……人々が恐れるのは“力”ではなく、“呪い”だってば!

つい先ほどまで元気だった人が、突然地面に崩れ落ち、指一本動かせなかったのに、次の瞬間には何事もなかったかのように立ち上がる。

常識では説明できない、奇異な力。

それは人々の胸の奥をざわりと揺さぶるような、不気味な共鳴を孕んでいた。

——私の力がどうしたっていうのよ!

前例のない規模の、圧倒的な力。

決して「善」とは言い難い紅河の一族の中でさえ、彼女が授かった呪術は異質だった。

彼らでさえ「恐ろしい」と怯えたのだ。

「……そんな選択をなさるということは、一体この先、何をするおつもりですか。」

リリカはゆっくりと唇の端を上げ、微笑んだ。

その笑みは優雅で、どこか人を惹きつける甘さを帯びていたが――その瞳に宿る光は、紅派の一族すら息を呑むほど冷ややかで妖しかった。

「私が“うまくやる”ことを望むんでしょう? なら、あなたたちも協力してくれなきゃね。」

声は穏やかで、それでいて抗いがたい圧を帯びていた。

その場にいた者たちは、言葉を失ったように黙りこみ、リリカの一挙一動に釘付けになった。

リリカは公爵家から持ち出してきた幾つかの宝玉を机の上に並べた。

それらはまだ完全に“目覚めていない”――彼女の力に反応しきっていない、静かな輝きを放っていた。

「これまで見せたのはほんの一部よ。もし私が成功すれば、あなたたちにも利益があるわ。」

その声音は甘く、だがどこか底知れない。

リリカはまるで試すように、掌で宝玉の一つを転がしながら微笑んだ。

「私が上に行けば、あなたたちも一緒に引き上げてあげる。――そうでしょ?」

族長は苦笑を浮かべながら、わずかに頭を下げた。

その瞬間、リリカの瞳にかすかな満足の色が宿る。

胸の奥では、静かな炎が燃えていた。

彼女は思った。

――どうせ這い上がるなら、徹底的に。

“もしこの力が呪いなら、その呪いごと味方につけてやる。”

リリカ・プリムローズは、ようやく自分の“戦い方”を知ったのだった。

 



 

 

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