こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

110話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 慈善活動②
アイリーンの部屋でしばらく時間を過ごしたエステルとジュディ、デニスは庭園で再び合流することにした。
今日は再び孤児院に訪れる約束をしていた日。
前回とは違い、今日は人々に分け与えることができる食料と食材を荷馬車に積み込んだ。
「これは余ったジャガイモなので、気兼ねなく配っていただいて大丈夫です。」
「うん!」
ジュディはジャガイモでいっぱいの袋をしっかりと見つめて元気よく返事をし、真っ先に荷馬車に乗り込んだ。
その後を追って荷馬車に乗ったエステルは、持っていく予定だった本を取ろうとしたが、デニスが来ないことに気づいて再び降りた。
デニスを迎えに行こうとしていたその時、不意に現れた男が正門を横切りながらエステルに知り合いのようなふりをして声をかけた。
「あっ、お嬢様。」
邸宅で毎日見る使用人ではなかった。
その男は、荷物を抱えたエステルに最初に挨拶をした。
「どちらへ行かれるんですか?」
「うん、村にちょっと出かけるの。ところで……あなた、誰だっけ?」
無意識に失礼かなと思いつつ尋ねると、意外にもその男性は微笑んだ。
「エビアンです。以前、倒れられたときに診療したことがありましたが、覚えていらっしゃいませんか?」
「あっ、思い出した気がする。」
一度に複数の医師に診てもらった、とても慌ただしい日だった。
そのとき自分を診た医師の一人として、うっすら記憶が蘇った。
「ところで、あなたもどこかへ行くの?」
エビアンは両手に荷物を抱えていた。遠くへ旅立つ人のように見えた。
彼は片方の唇の端をわずかに上げ、少し寂しげな声で答えた。
「はい。医師を辞め、今日から旅に出ることにしました。」
ちょうど旅立つ途中で偶然出会えたことが不思議で、エステルは目を大きく見開いた。
「そうなんだ。」
「これまで本当にありがとうございました。」
「私?そんなことはないと思いますけど。」
診療を一度受けたのが全てなのに、何を感謝されているのか理解できず、エステルは首をかしげた。
「ああ、それとお嬢様にはこれからもっと感謝することが増えそうです……また会いましょう。」
エビアンは何かを含んだような目つきでエステルをじっと見つめ、最後の挨拶をして邸宅を後にした。
「……なんだかとても不愉快な人だわ。」
親切そうに見える一方で、どこか神経を逆なでするような不思議な人物だった。
その目つきが特に気になった。
「何を話してたの?」
「特に何もないよ。」
迎えに行こうとしていたデニスも本を持って戻ってきて、皆と一緒に馬車に乗り込み、外出へと出発した。
「それ、何の本?」
「全部で三冊、歴史書だよ。他のものよりも歴史を知っておくほうが役に立つからね。」
「それ持って行っても、無駄になるだけなんじゃない?結局役に立たないかもよ。」
ジュディがすぐに茶化しながら、自分が持ってきたおもちゃの剣のほうがよっぽど役に立つと得意げに言った。
「それなら僕が教えてあげればいい。生きていくのに知識ほど役に立たないものはないよ。武器になるだけさ。」
しかし、デニスは無表情で対応し、彼女の言葉には特に気に留めない様子だった。
そのおかげで外出する間、ジュディは一人で熱心に盛り上がり、エステルはそれを眺めながら微笑んだ。
領地の南側にある外郭近くで馬車を止めて降りた。
今日は荷物が多く、皆で手分けしなければならなかった。
ジュディとデニスはそれぞれ二つずつ食材の袋を運び、エステルも控えめにジャガイモの袋を抱えた。
ゆっくりと孤児院へ入っていくと、前回訪問したときに警戒するばかりだった子供たちが少し興味を示した。
食べ物を夢中で頬張っていたせいか、みんな静かにこちらを見ていた。
「今日は反応があるみたいね?こうなるなら、前回も食べ物を持ってきたらよかったかもね。」
「そうですね。これを受け取ったら、みんなすごく喜びそうです。」
3人は孤児院の中でも特に子供たちが集まることの多い中庭付近に行き、荷物を広げた。
そして近くで固まって様子をうかがっている人々に向かって、エステルは手を振って呼びかけた。
「こちらに来てくだされば、食べ物をお配りします!」
こういったことを経験したことがなかったため、少し恥ずかしそうだったが、エステルは精一杯の声で呼びかけた。
集まっていた人々は依然として疑いの目を向けつつ、近づくことなく遠巻きに見つめていた。
しかし、最初に来た順番で食材や余ったジャガイモを配り始めると、だんだんと迷いなく群がるようになった。
「本当に無料なんですか?あとでお金を請求されたり、何か利用されるんじゃ……。」
「そんなことはありませんので、持って行って召し上がってください。」
「信用できないなら受け取らなければいいでしょ。」
ジュディの冷静ながらもきっぱりとした言葉がその場の空気を引き締めた。
いつの間にか中庭は、食料品を受け取る人々でいっぱいになった。
職を持たない人々がほとんどだったため、普段孤児院にいる人々がすべて集まったようだった。
「ちょっと待って。ダメだ、ちょっとストップ!」
押し寄せる人々が互いに押し合い、混乱が起こりかけたとき、デニスが近くの岩の上に立ち、大きな声で注意を促した。
「列を作らないと食料の配布はしません。十分な量を持ってきたので、受け取りたい人はきちんと並んでください。」
言うことを聞かないように見えた人々も、配られない可能性があると悟ると、しぶしぶ列を作り始めた。
「おお、デニスが仕切ってる!」
「すごい、かっこいい。」
エステルは感心してデニスを見つめた。
いつも本ばかり読んで口数が少ないデニスに、こんなカリスマ性があるとは思いもしなかった。
おかげで、ジャガイモや食料品を配る作業はずいぶんとスムーズになった。
兄たちと一緒に、熱心に蒸したジャガイモを配っていたエステルも、今回もジャガイモを手渡そうと手を伸ばした。
「美味しく召し上がってください。」
しかし、みんなが喜んで受け取っていたジャガイモが、今回はなぜか空中で止まったままだった。
エステルは不審に思い、渡そうとした相手を見つめた。
帽子を深くかぶり、袖を長く垂らしたその男性は、一目で怪しく見える人物だった。
何を見てそんなに驚いているのかは分からなかったが、呆然とした様子でエステルをじっと見つめていた。
「ジャガイモを受け取らないんですか?」
エステルがもう一度尋ねると、
「お前、その名前が……。」
「はい?」
ジャガイモを受け取る気配もなく、エステルの顔を見つめながら、その名前を口に出していた。
しかし、男性の後ろには長い列が続いていた。
後ろで順番を待っていた人々が次第に苛立ちを見せ始めた。
「ちょっと!受け取らないならどいてくれよ。一人で独占するつもり?」
「そうだよ。待ってる人がどれだけいると思ってるの?」
人々の怒りの声に押されて、その男性は慌ててジャガイモを受け取り、逃げるようにエステルの前から去っていった。
それでも何か未練があったのか、男性はしきりに振り返りながらエステルをじっと見つめていた。
エステルの心も少し引っかかったが、次々とやってくる人々に対応するため、それをすぐに忘れてしまった。
今回も袋からジャガイモを取り出して渡そうとした瞬間、不意にデニスが横からエステルの手を止めた。
「ちょっと待って。」
「どうして?」
エステルは何事かと目を丸くした。
「あのさっき受け取っていった人だ。」
目を鋭くしたデニスが一息ついて、列に二度並んでいたその人物を冷静に指摘した。
「え、私がいつ?」
「嘘は通じないよ。一度見た人を忘れることはないんだ。こんなやり方なら、もう配れない。他の人が受け取れなくなるから。」
デニスは後ろの列に並ぶ人々にも聞こえるように、はっきりと大きな声で言った。
「おい、こいつ……!」
後ろの人々が罵声を浴びせると、その男性は顔を赤らめながらしどろもどろになり、逃げるようにその場を去った。
「まだ排除しなきゃいけない人がいるみたいだ。」
デニスは自分の指摘が正しいことを証明するように、列から一度食料を受け取った人々を素早く見分けて外した。
彼の言葉が嘘ではないと分かると、それ以降、こうしたトラブルは起こらなかった。
「わぁ……もうなくなっちゃった。」
十分に持ってきたはずの食料は、1時間も経たないうちにすっかりなくなってしまった。
受け取れずに帰った人もいた。
「次はもっとたくさん持ってこないといけませんね。」
「そうだね。でも、大変だな。」
ジュディが肩を拳で軽く叩きながら、ため息をついた。
なんとなく申し訳なく思ったエステルは、小さな拳で豆のように小さなジュディの肩を一生懸命叩いてあげた。
しかし、力を入れることに集中していたエステルは、ジュディの唇がそっと上がったのに気づかなかった。
一方、少しの休憩を利用してセトは持ってきたジャガイモをおやつとして一口ずつ食べていた。
口いっぱいにジャガイモをほおばっていたジュディが急に思い出したかのようにセバスチャンの話を始めた。
「そういえば、セバスチャンが次は自分も一緒に奉仕活動をしたいって言ってた。」
「セバスチャンお兄さんがどうして?」
「私も知らない。」
デニスが肩を突つくジュディの手を軽く叩いた。
「バカなの?エステルのせいだよ。来るなって言ったのに。」
エステルは、それがなぜ自分のせいなのか分からずに、もくもくとジャガイモだけを一生懸命食べ続けた。
その時――
三人が話しているところから少し離れたところで、誰かが大きな声を上げた。
「お姉さん!」
頭に体ほどもある水桶を乗せていたため、その人物が誰なのか確認するためにしばらく見上げなければならなかった。
「ジェロム?」
久しぶりに見る彼の顔は、だいぶ痩せて見えた。
十分に食べられなかったのか、顔にはほとんど肉がついていないように見えた。
ジェロムは苦笑しながら三人の前に来て、水桶を地面に下ろした。
「本当ですか? 誰が食べ物を分けてくれるなんて言ったんですか?」
「やっぱり姉さんと兄さんだったんですね。」
エステルは笑いながら、汗で濡れたジェロムの髪を整えてあげた。
「お母さんはどう?」
「その日以降、すっかり元気になって、今では仕事にも行っていますよ。」
詳しく聞いてみると、中心街のある診療所で働き始めたとのことだった。
「わあ、本当に良かったね。」
ジェロムとエステルが話をしている間、ジュディはジェロムが持ってきた水桶をいじるように眺めていた。
どう見ても、ジェロムには重すぎて持てないほどの巨大な水桶だ。
一体なぜここまで無理をしているのかと思いながらも、不安な表情を見せた。
「この水、どこから持ってきたの?」
「低地の村です。」
ジェロムは目を合わせず、そっと手で方向を指し示しながら答えた。
「ここにも井戸があるのに、なんでそこまで行くの?」
記憶力の良いデニスは、近くで見かけた枯れた井戸について尋ねた。
「そこは水が枯れています。もう3か月くらい前から……。大人たちが神殿に行って直してほしいと何度もお願いしたらしいんですが、全く手つかずのままです。」
「神殿は本当に何をしているんだろう。」
以前、貧民街の面倒を見ると主張していたのは神殿だ。
それにもかかわらず、毎年多額の寄付金を要求しておきながら、何も改善されることはなかった。
毎年貯まるお金は相当な額のはずだが、それがどこに使われているのか、そして貧民街をこの窮状に放置しているのかが疑問だった。
「ふうん。」
静かに話を聞いていたエステルは、最後のじゃがいもを口に運び、席を立った。
「ジェロム、枯れた井戸はどこにあるの?」
「この建物の後ろにあります。」
それが広場からさほど遠くないと聞いたエステルは、目を輝かせた。
「ジュディ兄さん、私と一緒に井戸を見に行きましょう。」
「え? そうか。」
ジュディは何の用事か分からなくても、エステルが行こうと言うので嬉しそうについて行こうとした。
「私も一緒に行くよ。」
「お兄さんはジェロムと一緒にいてください。」
エステルが少しだけ目を細めた。
彼女は能力を使おうとしているので、ジェロムを連れて行くことはできなかった。





