こんにちは、ちゃむです。
「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

34話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 社交界の華
夏の夜が深まるころ、王宮のピジェベホールは久々に荘厳な姿を見せていた。
ピャスト帝国の建国を祝う祭典。
上位貴族だけでなく、下位貴族まで多くの人員が集まるまたとない機会であった。
彼らは誰もが、何かしらの目的を達成するために動いていた。
途切れることなく続く楽器の演奏、その調べに合わせてシャンパンのグラス、傷ひとつない大理石の床を歩く靴のヒール音さえも、人々のざわめきにかき消されてしまった。
もともと社交界というのは他人の噂話が好きな場所だが、最近は特に噂のネタが尽きない。
「数か月前までは、社交界はプリムローズ嬢が完全に掌握していたのに、手紙ひとつで雰囲気がこんなに変わるなんて不思議ですね?」
「小さなプリムローズ嬢のことを言ってるんですか?つまり、あの……」
「ええ。最近話題の“あの”プリムローズ嬢ですよ。」
「なるほど。」
建国祭の規模が大きいだけあって、地方から上がってきた貴族たちや、久々に祭りに出席する人々まで、みんなが集まっていた。
彼らは久しぶりの再会に、少しぎこちない空気をまとっていた。
誰もが知っている共通の話題が持ち上がった。
「それじゃあ、新しい社交界の華になるのは誰かしら?」
「うーん、地位で見るとビビアン皇女殿下か、ユリア・プリムローズ令嬢でしょうけど……」
「お二人とも、あまり社交界にお顔を出しませんよね。」
実際、この二人を一緒に語るには少し無理があった。
ユリアは社交的な性格ではないものの、顔立ちは目を引く一方で、ビビアン皇女は、長らく社交界から距離を置いていた。
社交の場によく参加していた貴族たちでさえ、彼女の顔をはっきり覚えていないほどだ。
そして彼女の話題が出るたびに、「いつになったらご出席されるのかしら」で話が終わるのが常だった。
しかし、今日は少し違っていた。
「エノック皇太子殿下は今日も本当に素敵ですね。」
建国祭ということで、次期皇帝となるエノック皇太子が代表して儀式を執り行っていた。
「…先代の皇帝たちの意志を受け継ぎ、これからもピアスト帝国の栄光のために尽力してまいります。」
この多くの人々の中で、エノック皇太子は見事にすべての視線を引きつけることに成功した。
高いシャンデリアの下、照明を受けて輝くその金髪は、まばゆいほどに光っていた。
過度に謙虚であるわけでもなく、未熟さもない、成熟した姿だった。
あまりに壮麗なフィジェベ・ホール。
そこに比べれば小さな壇上の一角に登壇していたにもかかわらず、まったく引けを取らなかった。
はっきりとした声、少しの緊張も見せないその態度が際立っていた。
彼は皆に、自分の存在感を改めて印象づけたのだった。
「この年齢であのような姿を見るのはなかなか難しいですよ……。実際に父親である先代皇太子殿下は、建国祭で演説なんて……」
「まあ、口を閉じてなさい。」
若くして突然皇太子の座についたにもかかわらず、エノック皇太子は一度たりとも隙を見せることなく光り輝いている人物だった。
しかしこの日ばかりは、彼のその姿に磨きがかかり、彼を見る人々に新たな感動を与えた。
「お兄様はあんなに公務に熱心だったのね……」
そのために——
「社交界の花」という話題と重なって、ビビアン皇女はいつもよりも長く人々の話題に上ることになった。
「ビビアン皇女殿下に比べると、皇太子殿下はあまり似ていない気がしますね。」
「外見のことですか? それとも性格?」
「はは、それでもやっぱり似てはいますよ。兄妹ですし。でも、似ているからといって必ずしも良いわけではないですからね……」
「そうですね。似ていても微妙に似ているということもありますし。」
社交界の花は時代の象徴であり、常に社交界の話題の中心だった。
直接的に家名を口にするのは難しくても、「社交界の花」という言葉でそれとなく貴族同士が階級を分けるのにも都合がよかった。
そのため、軽々しく皇族の名前を口にするのははばかられ、人々はビビアン皇女のこともほとんど話題にすることがなかった。
「エノック皇太子殿下は人望も厚くて、悪い噂もまったく出ないですしね。」
「皇女殿下は体調が優れないようでしたし、たとえ健康になっても社交界の花として君臨するのは難しいかと……」
「そうですね。社交界での地位というのは、単に家柄や権勢だけで成り立つものではありませんから。」
自分が社交界の花にはなれないだろうと。
自分はその“社交界の花”と交わることすらできないだろうと。
自分とは距離があると思えば思うほど、その考えに惑わされやすくなった。
「社交界で脚光を浴びていたリリカ・プリムローズ令嬢も、お姉様の婚約者を奪ったって話よ。公爵夫人が葬儀に供えた花にまで言及されたくらいだし……」
「美しい容姿に、名家の出身?はは、完璧に見えても、どんな欠点があるかわかりませんね。」
冷めることなく白熱していた会話の矛先は、プリムローズ家へと向けられていた。
公爵夫人が現れると、一時的にざわついた空気が静まった。
強大な権勢を持ちながらも、常に静かに自分の位置を守ってきた彼女が、人々に紹介したい人がいると宣言したのだ。
「まあ、どなたでしょう? あの方がそんなふうに誰かを推薦するなんて、まさに公爵家の後ろ盾を与えるということでは?」
「公爵夫人がそこまで言うなら、ますます期待しちゃいますね?」
プリムローズ公爵夫人は、自分に十分に注目が集まるまで口を開かずに待った。
ついに、騒がしかった人々が静まり、彼女の言葉を待つ気配が満ちたそのとき、公爵夫人が再び口を開いた。
「ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、私はかつて肌のことで多くの苦しみを経験しました。」
最近、化粧品店〈ユネット〉が人気とはいえ、突然肌の話を始めるとは一体…?と、戸惑いの空気が流れた。
しかし人々の疑念とは関係なく、プリムローズ公爵夫人は話を続けた。
「辛い経験をされたのに、私とは違ってその困難な時間を堂々と乗り越えられたのがとても素敵でした。だから少しでもお力になれればと思いまして。」
「まあ?」
内容もそうだったが、公爵夫人が敬意を込めて言葉を選んだその口調に、皆がどよめいた。
そして、その意味はすぐに明らかになった。
「ビビアン皇女殿下のご到着です!」
皆が驚いて入り口を振り返った。
「えっ、ビビアン皇女殿下が?」
「まさか……あのビビアン皇女殿下?」
幼い頃以来、初めてビビアン皇女が社交界に姿を現した。
ついに、本格的に社交界の勢力図が変わり始めた瞬間だった。
特別な日だった。
小さな社交の集まりに姿を見せたのが5年前、大きな建国祭のような行事に参加したのはなんと8年前。
幼い子が大人になるほどの時間が経っていた。
皇室特有の金髪、エノック皇太子よりも猫のようにくるんと上がったまつげが印象的な瞳。
あまりに長い間姿を見せなかったため、「本物の皇女は亡くなり、偽物の皇女が宮殿にいる」という陰謀論までささやかれていたが、幼い頃の彼女を見た人であればすぐに思い出せるほど、そのまま成長した姿だった。
「まあっ、ビビアン皇女殿下!」
かつてビビアン皇女を皮肉っていた人々までもが、先に彼女のもとへ駆け寄っていった。
人々が急に集まり緊張感が走る中でも、ビビアン皇女は自分を取り囲む多くの人前でも一切動揺する様子はなかった。
「これまでお元気でしたか、殿下。」
「ギレオン伯爵。お久しぶりですね。陶器の輸入業を始められたと聞きました。」
人々の挨拶に、彼女は上品な態度で応じた。
さらに相手の近況を先に口にすることまで忘れなかった。
その立ち振る舞いには隙がなかった。
これまで「何か問題があったのでは」と囁かれていた噂とはまったく異なる姿だった。
そこへ、演説を終えたエノック皇太子がすぐにビビアンに歩み寄ってきた。
「うちのビビアンが久しぶりに建国祭に出席したのです。少し至らぬ点があったとしても……どうか寛大に見守ってあげてください。」
言葉は謙虚で低姿勢だったが、その口調は堂々としていて、誰にもビビアン皇女を軽んじることなど許さないという宣言のように感じられた。
一部の人々がビビアン皇女に力を貸しているのは明らかだ。
そしてそれだけではなかった。
彼女を紹介した後も、プリムローズ公爵夫人はシャペロン(付き添い)として助けていた。
兄の皇太子がいるとはいえ、性別が違えば微妙な問題は解決できずにいた。
「その質問は、まだ未婚の皇女殿下が答えるにはふさわしい内容かどうか、もう一度お考えください。」
「し、失礼いたしました!」
困った質問や難しい状況が起こると、すかさず間に入って助け舟を出す公爵夫人に、ビビアン皇女は感謝の気持ちを込めた視線を送った。
『いや、私たちが割り込む余地なんてないじゃない?』
社交界とは、単に上品であるとか礼儀作法に優れているだけでは、良い評価を得られる場所ではなかった。
しかし今のところ、ビビアンの粗を突く隙はなかった。
数年ぶりに社交の場に現れたにもかかわらず、身にまとったドレスや装飾品は流行を意識しつつも控えめで、浮ついた印象は与えなかった。
目線の配り方や手の動き一つ取っても、どこにも隙がなかった。
『社交の場に顔を出さなくても、皇女宮でしっかり準備はされていたようね。』
『社交界の流れが変わりそうだ。この機会にしっかりポジションを取っておかなくては……』
『我が家の事業の話をしてみようか。どんなに育ちが良くても、皇女宮でぬくぬく育ったなら、意外と話に乗ってくるかもしれない。』
どうやらエノック皇太子と親しいようだ。
となれば、皇室の重要人物である彼女を通じて動かせることもあるかもしれない。
『エノック皇太子に提案すれば断られるかもしれないが、少し世間知らずな妹が乗り気なら、あの人も参加せざるを得なくなるのでは?』
様子をうかがっていた数人が、引き続き機会を狙っていた。
いくらプリムローズ公爵夫人がついているとはいえ、無礼な質問でなければ限度がある。
公の場で、ビビアン皇女が興味を示した話題を乱暴に遮ってしまえば、「公爵夫人が無理に庇って出てくるほど未熟だ」という評判が立ちかねないのだ。
『ああ、ユリア・プリムローズ嬢が来たんだ。』
休憩室にいたのか、少し遅れて姿を見せたユリアが人々と合流すると、プリムローズ公爵夫人はすぐに娘の方に視線を移した。
──ちょうど視線が外れたそのとき。
好機だった。
「ビビアン皇女殿下、お肌の調子が悪いと聞いていましたが、今日はとてもお元気そうに見えます。心よりお祝い申し上げます。」
感謝の言葉が返ってきて、場の雰囲気は少し和らいだ。
だが、それだけだった。
それによってビビアン皇女に好印象を与えたり、特別な親しみが芽生えたりすることはなかった。
『今は笑ってるけど、ビビアン皇女はあとであっさり忘れてしまうだろう。大したことのない祝辞を言っただけだから。』
一度、唾を飲み込み、彼らは目線を交わした。
『それでも……あれだけのことを言えたなら、他の話題を切り出せばもっと効果的だったかも?』
「皇女殿下は、昔も今も実に聡明でいらっしゃいますね。」
ビビアンは特に目立った行動を取ったわけではなかったが、彼らはなんとなくビビアン皇女を持ち上げ続けていた。
「お兄様であるエノック皇太子殿下のように、特別な話題があればすぐに気づかれることでしょう。」
「もちろん、金鉱山で金を見つけるのは誰にでもできることではありませんが。現代のジェネラルスやオライナペンが描いたようにですね。」
そして今の状況とはまったく関係のない有名人の名前を持ち出し、無理やり話をつなげるような言いぶりだった。
「ふむ。」
その瞬間、ビビアンが杯を持ち上げた。
彼女の顔に、わずかな興味の色が浮かんだようだった。
「古代の学者ジェネラルスとオライナペンのことかしら?」
「はい。最近の若い貴族たちは知らない方も多いですが、やはりビビアン皇女殿下といえば、どなたでもご存じのはずです!」
彼はビビアンの関心を引こうと最大限の笑顔で肩をすくめた。
「ところで、彼らが晩年に関心を持っていたイヌスネ島についてもご存じでしょうか? 亡くなる前に“ここで暮らしたい”とおっしゃっていたのに、実現できなかったのです。」
「もしも皇室でイヌスネ島のサンゴを採用していただけるのなら、これ以上の名誉はありません。」
「どうか、エノック皇太子殿下からビビアン皇女殿下へお取り次ぎいただけませんか? 他の貴族が知らなくても、皇女殿下ならきっとその価値をわかっていただけるはずです……」
「それは難しいですね。」
「えっ?」
「あなたが他の貴族とは違うと期待していたのですが。」
ビビアン皇女は穏やかな微笑を浮かべながら答えた。
「私は事業のことはよくわかりません。」
「でも。」
「ユネットほどでなければ、兄上に話すのは難しいでしょうね。」
軽く皮肉を込めて言った貴族たちの顔色がすぐにこわばった。
化粧品に関心がないとはいえ、都で一番の化粧品店〈ユネット〉を知らないはずがない。
今、ビビアン皇女は彼らに「その程度でなければ話す価値もない」とはっきりと線を引いたのだった!
「がっかりしないでください。もちろんあなた方の事業が本当に素晴らしいものであれば、
いつかは日の目を見るでしょう。」
もちろん、それを見極めるのは自分ではないが――。
つまり、ビビアン皇女は遠回しにではあったが、はっきりと拒絶したのだった。
ここまで丁寧にやんわりと断られるとは思っていなかったが、明確な拒否であることはすぐに察せた。
これは明らかな拒絶だった。
「あ……」
このままでは事業の話が流れてしまいそうだった。
だがこのまま引き下がるのは、あまりにも惜しい。
ビビアン皇女のような大物が社交界に現れたというのに、誰とも深い縁ができていないだなんて?
『こんな好機がまた訪れるだろうか?』
皇室と繋がりを持つという目標は達成できなかったが、だからといって手ぶらで引き下がるわけにはいかなかった。
しばし様子をうかがっていた彼らは、やがて大げさな笑い声を上げた。
「ははっ、さすが!聡明でいらっしゃいます。国の皇女様ですから、その慎重さも当然でございますとも!」
まるで、ただの軽い一言だったかのように、先ほどの話題をさっと流してしまった。
『そんなこと言ってちゃダメだ。ビビアン皇女と親しくなるための何かが必要なんだ。我々が他の貴族たちとは違うという印象を与えなければ!』
そしてちょうどその時、ついさっきまでビビアンのそばにいたユリアが侍女と会話していた。
彼女が一瞬、視線を外した今がチャンスだった!
貴族はユリアが今の発言を聞いていないことを確認すると、先ほどまでとは違って真剣な声で話した。
「ところで……もしかしてプリムローズ公爵夫人だけでなく、ユリア・プリムローズ嬢とも親しい関係なのですか?」
「うん?」
「他の方々は、こういうことを言ってはくださらないでしょうね。」
まるでビビアン皇女を思いやるふりをした、あからさまなお世辞。
「先ほどから近くにいらっしゃるようなので……もしかして、と思いまして。ふふ。」
「“もしかして”ですって?」
その瞬間、ビビアン皇女の表情が冷ややかになった。
「え?そ、その……。ユリア・プリムローズ令嬢はとても賢い方ですが。」
「その後に続く言葉が気になるわね。さあ、言ってごらんなさい。」
最後まで言わせる気なのか、これまでの皇女の柔和な態度とは一変し、強い威圧感が押し寄せた。
「い、いえ、何でもありません。」
ようやく察した彼らは、急いで空気を読み、話題から身を引いた。
しかし。
「お名前は何とおっしゃいましたか?」
「はい?」
「ベニアート男爵、トリン子爵でしたね。あなた方のお名前、覚えておきます。」
それは決して… 良い意味ではなかった。
『いっそ似たような祝福の挨拶でもして、さらっと流した方がよかった!』
余裕を見せていた笑顔が一瞬で崩れた。
表情を取り繕うことに失敗した彼らは、混乱したままその場を逃げ出した。
「そ、それでは失礼します!」
ビビアンは彼らが慌てて去っていく様子を、満足そうに見つめた。
「楽しくお話しされていましたか?」
「とても興味深かったです。」


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