こんにちは、ちゃむです。
「できるメイド様」を紹介させていただきます。
今回は203話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
203話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 暖かい感触
一方、クローヤン王国には異質な存在が一つあった。
それはキエル侯爵と、彼が率いてやってきた「シルト騎士団」であった。
王国の人々は、その鋭い目つきで剣と盾を交差させるシルト騎士団の姿に、何とも言えない視線を送っている。
「東帝国の名高いシルト騎士団ではないか?」
「そうだが・・・なぜ我がクローヤン王国に?」
クローヤン王国の民もまた、キエル侯爵が率いるシルト騎士団については知っていた。
東帝国を代表する最強の騎士団の一つだったからだ。
「東帝国の騎士団が、どうして私たちを助けてくれたんだ?」
「聞いたところによると、キエル侯爵が我らのモリナ女王陛下に忠誠を誓ったらしいぞ。」
「本当なのか?」
人々は信じられないという表情を浮かべる。
キエル侯爵はただの騎士ではない。
広大な勢力を抱える辺境伯であり、その実力はクローヤン王国の王よりもさらに強大だった。
彼が率いてきた兵力だけでもクローヤン王国軍全体よりも強力な戦力だ。
それがモリナに忠誠を誓ったというのか?
「わからない。とにかく本当だという話だ。」
その疑問を抱いているのは一般の王国民だけではなかった。
王国の貴族や、特に王室騎士団の人々も強い疑念を持っていた。
結局、モリナ女王の最も近しい側近であるバルハン伯爵がキエルに直接尋ねることにした。
「侯爵閣下!」
王城の庭園で煙を眺めていたキエルは、ゆっくりと振り返る。
「ああ、バルハン伯爵。何の用件だ?」
バルハンは毅然とした声で答えた。
「遠回しにはせずにお聞きします。一体なぜ我々クローヤン王国を助けてくださるのですか?」
「それは、私がモリナ女王陛下に忠誠を誓ったからです。」
「それはわかります!しかし、あなたは東帝国の名高い大貴族ではありませんか?」
キエルは静かに顎を引いて答えた。
「私が陛下に忠誠を誓ったのは、クローヤン王国が帝国であるからという理由ではありません。私は彼女を自分の命よりも大切に思っているから、ただそれだけの理由で忠誠を誓ったのです。」
「・・・!」
揺るぎのないその声に、バルハンは言葉を失う。
しかし同時にキエルの瞳を見た瞬間、彼の言葉が真実であることを悟った。
バルハンは毅然とした声で問いかけた。
「つまり、それは女王陛下に対して個人的な感情を抱いているという意味でしょうか?」
キエルは困惑した表情を浮かべながらも、バルハンの目を見つめ返した。
「その通りです。」
「・・・!」
「先ほども申し上げた通り、この世の何よりも強く願い、愛しています。」
バルハンは言葉を失った。
まさかここまで率直に認めるとは思わなかったのだ。
その時、キエルは穏やかでどこか寂しげな表情を浮かべる。
「どうか心配なさらないでください。私は自分の立場を十分に理解していますので。」
「・・・」
「私の想いを受け入れていただけるとは期待していません。ただお守りできるだけで十分です。ですから、そばにいて、あの方が困難な時に少しでも力になれたら、それだけで私は幸せです。」
バルハンは口をつぐんだ。
その声には確かに真実が込められていると感じた。
心が揺さぶられるほど純粋な想い。
しかし、だからと言って、キエルを素直に認めたいとは思えなかった。
むしろ、キエルの深い愛情を目の当たりにするにつれて、どこか奇妙な嫉妬心が芽生えた。
忠誠を捧げた主君を奪われたくないという執着心だったのだろうか?
バルハン自身、自分の中にあるその感情に戸惑っていた。
それでもどうにも納得がいかなかった。
しかし、バルハンは言った。
「東帝国はどうするおつもりですか?我々クローヤン王国のために戦うというのは、東帝国を裏切る行為ではありませんか?」
「そうではありません。」
キエルは冷静に説明する。
「今、東帝国にとって最も脅威となる敵は西帝国です。クローヤン王国を助け、西帝国と対峙することこそが、東帝国のためになる道なのです。」
一点の迷いもない発言だ。
再び言葉を詰まらせたバルハンは、キエルの正当性を認めざるを得ないと悟った。
「それでも、私はあなたを心から受け入れることは難しい。」
「では、どうすればよいのですか?」
バルハンは険しい表情で答えた。
「騎士の心を通じて伝える方法は一つ。私と剣を交えてください。私を剣で屈服させることができれば、あなたを真実として認めましょう。」
キエルはしばしバルハンを見つめた後、答えた。
「いいでしょう。元々、騎士は剣で語り合うものですから。ただし。」
シュルン。
キエルはゆっくりと剣を抜きながら言った。
「大丈夫ですか?」
「・・・!」
剣を構えたキエルを見たバルハンの体が一瞬硬直した。
(なんてことだ!隙が全く見えない。)
キエルが帝国最強の騎士と呼ばれているとはいえ、バルハンもまた王国で最強の騎士だった。
十分に互角に戦える自信はあった。
しかし、この瞬間、自分がどれだけ大きな過ちを犯したのかを悟る。
キエルは少なくとも自分よりも一枚、いや二枚も上手の実力者だったのだ。
それでも、ここで退くわけにはいかなかった。
バルハンは歯を食いしばり剣を抜き、構えを取った。
王城の庭園には、緊張感が張り詰めた空気が漂っていた。
バルハンは鋭い眼光でキエルを見据え、対するキエルは静かで落ち着いた表情のままだ。
「行きます。ご注意ください。」
こうしてバルハンが構えを固め、剣を振り下ろそうとした瞬間!
鋭い声が二人の間に割り込んだ。
「やめなさい!一体何をしているのですか?」
「・・・!」
驚いた二人は振り向いた。
そこには、驚きに目を見開き蒼白な顔で彼らを見つめるマリが立っていた。
「じょ、女王陛下。それは・・・。」
バルハンは慌てて言葉を詰まらせ、申し訳なさそうに剣を下ろした。
キエルもまた剣をしまい、軽く頭を下げる。
そしてこう言った。
「同じ騎士として友情を深めるために剣を交えていました。」
「友・・・情?」
マリは全くそんな雰囲気ではなかったことから、信じられないという目で二人を見つめる。
「はい。騎士にとっては酒を飲むよりも剣を交える方が親睦を深める方法なのです。そうではありませんか、伯爵?」
キエルがバルハンをじっと見つめた。
バルハンは急いで頭を下げながら答えた。
「その通りです、陛下。元来、騎士たちは言葉よりも剣で語り合う存在です。」
マリは依然として信じられないという表情を浮かべていたが、二人の口裏が一致している以上、それ以上何も言うことはできなかった。
結局、彼女はこう言った。
「侯爵。」
「はい、陛下。」
「お話したいことがあります。少しお時間をいただけますか?」
普段キエルに対して口にする言葉とは違い、どこか毅然とした口調だった。
キエルは一瞬マリを見つめ、その目の中に、傷ついていない強い意志を見いだした。
「承知しました、陛下。」
マリは人気のない庭園の隅へ彼を連れて行った。
「何のお話ですか、陛下?」
マリは言葉を切り出す前に彼に感謝の意を示す。
「まず、クローヤン王国を代表して感謝を申し上げます。侯爵がいなければ、私たちクローヤン王国は大きな危機に陥っていたことでしょう。」
キエルの表情が微かに曇った。
マリのその丁寧な言葉には、どこか越えられない壁を感じ取ったのだ。
「そのようにおっしゃらないでください。私はあなたに忠誠を捧げる騎士として、当然の務めを果たしただけです。」
「ですが・・・。」
「他のことはともかく、あなたは私にとって何よりも大切な存在です。だからこそ、あなたが危険に晒されるのをただ見ているわけにはいきませんでした。」
その言葉に、マリは深く息を吐いた。
何かが違うと思いながらも、彼の態度があまりにも真剣で、それ以上は反論できなかった。
「私におっしゃりたいこととは何でしょうか?」
彼女が口を開きかけた瞬間、キエルが彼女の言葉を遮る。
「もし私に戻るよう命じるつもりであれば、その命令は受け入れるつもりはありません。」
「・・・!」
マリは驚きを隠せなかった。
彼女が言おうとしていたことを正確に言い当てられたのだ。
「陛下がなぜそのようなことをおっしゃろうとしているのか分かります。私を心配しているからでしょう。」
キエルは彼女の目をじっと見据えながら続けた。
「ですが、陛下、いえ、マリ様。私の目を見てください。」
「・・・!」
「目を逸らさず、私をしっかりと見つめてください。」
マリの瞳が揺らいだ。
その澄んだ青い瞳は、まるで彼女への想いだけで満たされているかのようだった。
「私の心はただあなただけを見つめています。しかし、あなたが危険に晒されているのに、どうして私がそれを見過ごし、この場を去ることなどできるでしょう?それは不可能です。」
マリは言葉を失う。
彼の一言一言が、自分への揺るぎない想いを語っていることを理解せざるを得なかった。
マリは何かが胸を締め付けるような感覚を覚えた。
これまで一人で孤独に、必死に耐えてきたからだろうか。なぜか心が揺れた。
「以前にも申し上げた通り、キエル様の想いを・・・受け入れることはできません。」
「承知しています。」
キエルは即座に答えた。
「私の気持ちを受け入れていただくことは、決して望んでおりません。私が願うのは、あなたに少しでも力になれることです。あなたが辛いとき、肩を貸すことができる。それが私の唯一の願いです。」
なぜだろう。
その言葉を聞くと、マリは目頭が熱くなり、思わずうつむいて涙をこぼした。
どうしてこんなにも心が弱くなってしまったのだろう。
あまりにも長い間、クローヤン王国の重責を一人で背負ってきたからだ。
彼女は強がりながらも、本当はあまりにも孤独だった。
その時、温かい感触が彼女の身を包んだ。
キエルが慎重に彼女を抱きしめたのだ。
「・・・!」
驚いた彼女の耳元で、彼がそっと語りかける。
「辛ければ頼ってもいいのです。」
「・・・!」
「今まで一人でよく頑張られましたね。これからは私が共に支えます。」
その温かい言葉を聞いた瞬間、まるで堰が切れたように、マリの目から涙が溢れ出した。
キエルはそんな彼女をそっと抱き寄せた。
暖かく、そして少し力強く。
まるで「もう一人で苦しまないで」というメッセージを伝えるかのように、彼のしっかりとした腕が彼女を包み込んだ。
「っ・・・うっ、すみません・・・。」
マリは涙を拭いながら謝ったが、涙は止まるどころかさらに込み上げてきた。
むしろ抑えていた感情が一気に溢れ出すようだった。
それは、長い間抱えてきた苦しみがようやく解き放たれた瞬間だった。
「大丈夫です。大丈夫です。」
キエルはそっと抱きしめたまま、彼女の髪を優しく撫でた。
その穏やかな手の感触に、マリは目を閉じた。
(会いたいです、陛下。)
なぜだろう?
キエルの温もりに包まれているにもかかわらず、その温かさを感じるほど、マリの心は別の誰かを求めていた。
頭に浮かんだ人物。
ラエル。
彼に会いたかった。
この瞬間、彼女が最も心を痛めたのは、他の何でもない、ただ彼を見ることができないという事実だった。
この瞬間、彼に会いたくてたまらなかった。
彼と一緒にいたかった。
「私・・・絶対にうまくやります。必ず・・・。」
キエルは無言で彼女の肩を軽く抱いた。
まるで彼女ならきっとできると信じているかのように。
決意を固めたマリは歯を食いしばり、彼の胸に顔を埋めた。
「ごめんなさい。こんな姿を見せてしまって・・・。」
疲れ果て、ただ座り込んでいたかったが、そうするわけにはいかなかった。
彼女は皆のために動かなければならなかった。
「マリさん・・・。」
キエルは切ない表情を浮かべ、彼女を見つめた。
マリは微笑みを浮かべた。
「もう大丈夫です。キエルさんのおかげで、すっかり元気になりました。ご心配おかけしてごめんなさい。」
明らかに無理をしているその言葉に、キエルは深いため息をついた。
彼は彼女をとても愛おしく感じた。
重圧に苦しむ彼女の様子が痛ましく、心が締めつけられた。
「マリさん、そんなに無理をしないで・・・。」
しかし運命は、彼女にわずかな休息すら許さなかった。
突然の急報が舞い込んできたのだ。
「陛下!大変です!陛下!」
マリは大きく目を見開いた。
知らせを告げる声はバルハンのものだったが、何故か異常なほど切迫感があった。
彼は息を切らせながら、急ぎ到着した。
どうやら急いで駆けつけたため、顔は蒼白だった。
「どうしましたか?」
「西帝国が侵攻を開始しました!」
「・・・!」
マリとキエルの顔色が変わる。
ついにヨハネフ3世の西帝国が動き出したのだ。
「軍勢の規模はどの程度ですか?」
マリは落ち着いて尋ねた。
(少なくとも10万を超えるはず)
今回の侵攻は、ヨハネフ3世が緻密に計画したものだった。
したがって、少なくとも10万以上の大軍が動いていることを意味していた。
それは彼女の予想を遥かに超えるものであった。
しかし、バルハンの返答は予想以上の衝撃をもたらした。
「20万です!20万の大軍が国境を越え、進軍しています!」
20万!
その圧倒的な兵力の規模に、マリの顔はまるで石のように固まった。
こうして、クローヤン王国は再び危機の渦中に投げ込まれた。