こんにちは、ちゃむです。
「できるメイド様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

220話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 一つになるために
カーカー。
東帝国南東部の広大な平原。
カラスたちの不気味で陰気な鳴き声が響き渡っていた。
カラスたちの嫌悪感が漂う鳴き声の下、多くの遺体が地面に転がっていた。
それはすべて異教徒の兵士たちの遺体だった。
「すべて終わりました。勝利です。」
男は丘の上から平原を見下ろしながらそう言った。
皇帝ラエルは槍を地面に突き刺した。
その槍の鉄製の刃は敵の血で赤く染まっていた。
「残りの敵は?」
「教国へ退却中です。」
「アルモンドに伝えて追撃隊を送るように。帝国を侵略したことを骨の髄まで後悔させるのだ。」
もともと東帝国軍は教国軍に比べて劣勢だった。
しかし、ラエルは熟知している地形をうまく活用し、戦況を有利に進めた結果、ついに勝利を収めた。
敵を巧みに罠にかけ、この平原で孤立した東方教国軍は三方から帝国軍の攻撃を受け、大敗を喫した。
教国軍はもはや戦争を続けることができないほどの大損害を受け、本国へ退却する途中だった。
「追撃はアルモンド伯爵に任せて、首都に戻られますか?」
「そうだ。西帝国軍を迎え撃たなければならない。」
そう言うラエルの目を見たオルンは息を飲んだ。
その冷たい瞳には鋭い光が宿っていた。
(彼女の死を聞いてから……。)
オルンは心の中で深い息をついた。
モリナ女王が西帝国のストーン伯爵と共に命を落としたという知らせを聞いて以来、ラエルはずっとこんな状態だった。
まるで触れると切り裂かれるかのような、刃のような鋭い雰囲気が全身に漂っていた。
その冷たさは震えるほど深い怒りを宿し、その怒りの奥底には抑えきれないほどの悲しみが隠れていた。
「……陛下。」
オルンは、モリナの死を知った後のラエルの痛々しい姿を思い浮かべた。
彼はまるで地獄に落ちたように苦しんでいた。
これは耐えられないほどの苦しみだった。
まるで自分の心臓を手で引き裂きたくなるほどの痛みだった。
それでもラエルは希望を完全には捨てなかった。
もしかしたら、彼女がまだ生きているかもしれないという一縷の望みを抱いていた。
そのため、その希望が彼にさらなる苦しみをもたらした。
西方からの情報が届くたび、それが彼女に関するものではないか、奇跡的な生存を告げるものではないかと、期待を胸に眠れない夜を過ごしていた。
「はあ。」
オルンは悲しげな表情を浮かべた。
苦しむラエルを見るのは耐えがたかった。
時間が経つにつれ、ラエルは次第に痩せ衰えていくように見えた。
オルンは、このままではラエルの心が本当に壊れてしまうのではないかと恐れ始めた。
そのとき、ラエルは歩みを止め、オルンに振り返って言った。
「陛下?」
ラエルは鉄の槍を握りしめながら、何かを言おうと口を開きかけたが、結局口を閉じた。
「……いや、何でもない。」
オルンは彼が何を言おうとしていたのかを察しようとしたが、ラエルの目からは沈黙が伝わるばかりだった。
西方から彼女に関する何の知らせも届かないという事実が、重くのしかかっているように見えた。
ラエルが何かを言おうとした瞬間だった。
「陛下! 緊急報告です!」
オルンとラエルは振り向いて伝令を見つめた。
伝令は息を切らせながら大声で叫んだ。
「西帝国がクローアン王国に降伏したとの報告です!」
「……なにっ!」
オルンは伝令の言葉を聞き間違いだと思った。
「西帝国が降伏? そんなはずはない。」
「本当です! 西帝国は敗北を宣言しました!」
「何? そんな馬鹿な……。」
「クローアン王国の別動隊が、西帝国の首都エルフェロン城を占領し、ヨハネフ3世に降伏を誓わせたとのことです!」
その瞬間、オルンの顔に驚愕の色が広がった。
伝令の言葉が真実であることを悟ったのだ。
「別動隊がエルフェロン城を? 一体、誰がそんな作戦を……?」
隣で話を聞いていたラエルの手が震えた。
本能的な直感が胸を貫いた。
「まさか?」
伝令が叫んだ。
「モリナ女王です! モリナ女王が自ら別動隊を率いてエルフェロン城を占領したとのことです!」
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ラエルは東方教国軍との戦いを終え、首都へと凱旋した。
不利な戦力にもかかわらず、圧倒的な勝利を収めて戻ってきた皇帝に、臣民たちは熱狂的な歓声を送った。
「皇帝陛下万歳!」
「帝国万歳!」
群衆の歓声を聞きながら、ラエルは静かに目を閉じた。
城壁が崩れ落ちるような大歓声が耳を打つ中、その音は彼の心には届かなかった。
この瞬間、彼の思考を支配していたのはただ一つのこと――彼女への想いだった。
「マリ。」
ラエルは彼女の名前を呼んだ。
今では彼女がマリではなくモリナという名前であることを知っているが、それでも「マリ」という名前に固執していた。
彼は再び彼女と一緒になる日まで、心の中でマリという名前を呼び続けるつもりだった。
「マリ。」
ラエルは目を閉じた。
彼は愛の誓いを交わし、別れる前に彼女から受け取ったペンダントのことを思い出した。
古びた銀のペンダント。
ラエルはそのペンダントを手に握りながら考えた。
「幸運だ。本当に幸運だ。生きていてくれて……ありがとう。」
彼の目から一筋の涙がポタリと流れ落ちた。
他のことはどうでもよかった。
ただ、この瞬間、彼女が生きているという事実が嬉しかった。
「マリ。もう君なしでは生きていけない。」
ラエルはペンダントを見つめながら顔を上げた。
彼女の死を聞いたときに気付いたのだ――彼は彼女なしでは生きられないと。
それだけに、彼女が生きているという知らせを聞いて心から安堵していた。
もしそうでなければ、彼は長く持たずに死んでしまったかもしれない。
いや、彼の魂はすでに擦り切れてしまった状態だった。
「マリ、マリ、マリ。」
ラエルは彼女の名前を呼び続けた。
切実に。
胸をえぐるような痛みとともに。
彼は震える息をしっかりと飲み込んだ。
「僕は……絶対に君を手放さない。どんな困難が待ち受けていようとも。」
クローアン王国と東帝国は敵対していた。
敵国の君主である彼と彼女がひとつになるためには、数々の試練を乗り越えなければならなかった。
しかし、彼はどんな困難があろうとも決して挫けないと誓った。
彼女と再びひとつになるその日まで。
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宮殿に戻ったラエルは、貴族や大臣を招集して会議を開いた。
東方教国を撃退したものの、戦争はまだ終わっていなかった。
独立したクローアン王国と西帝国への対応を決めなければならなかった。
「対策は簡単です。遠征軍を派遣すべきです。」
第一軍団長ハムル伯爵が断固たる口調で言った。
「クローアン地方は絶対に放棄できない重要な要地です。もしクローアン王国が西帝国と手を組めば、帝国の首都がすぐに西帝国軍の支配下に入ってしまいます。」
他の大臣たちもそれに同調し、こぶしを握りしめた。
「西帝国は撤退しましたが、いずれ再び東帝国を狙ってくるのは明らかです。」
「今のうちにクローアン地方を制圧し、準備を整えるべきです。」
全員が一斉にクローアン地方の制圧を主張した。
ラエルは厳しい表情を浮かべながら大臣たちの意見に耳を傾けていた。
彼らの主張は決して間違ってはいなかった。
東帝国の立場からすれば、将来再び西帝国軍との戦いが起きた際に有利に立つためには、クローアン王国を制圧しておく必要があった。
それを怠れば、東帝国は西帝国に対して不利な状況で厳しい戦いを強いられることになるだろう。
しかし、ラエルは重々しい沈黙を保ったままだった。
クローアン地方を巡る議論は続いていたが、彼は何も答えなかった。
クローアン王国を征服するということは、彼が命よりも愛している彼女に刃を向けることを意味していた。
それは決して容認できないことだった。
「他に方法はないのか?」
「陛下?」
「本当にクローアン王国を征服しなければならないのかということだ。」
思いもよらない皇帝の言葉に、大臣たちは驚いた表情を浮かべた。
「……。」
大臣たちは互いに目配せをし、ラエルの意図を察した。
ラエルはクローアン王国を征服するよりも同盟を結ぶことを望んでいる。
しかし、同盟よりも征服のほうが東帝国にとって遥かに有利な選択肢だった。
どんなに偉大な皇帝であろうとも、一国の中枢において個人的な感情を挟む余地はない。
「他の方法を考える必要はありません。」
結局、オルンが悪役を買って出た。
「現在のクローアン王国は、まともな国家とは言えないほど混乱した状態にあります。幼子の腕をひねるように、簡単に征服することができます。ですので、軍を迅速に確実な道を選び、他の方法を探す必要はありません。」
「……!」
「むしろ時間を与えれば、クローアン王国は以前の勢力を回復するでしょう。そうなれば対処がさらに困難になります。その前に遠征軍を派遣して制圧する方が得策です。クローアン王国を占領することは、単なる私たちの世代の問題ではありません。東帝国と西帝国の争いが終わらない限り、この紛争は永遠に続くでしょう。将来のためにも、クローアン王国を制圧しておくことは非常に重要です。」
オルンは戦争を避けるべき理由についてさらに説明を続けた。
「もちろん、陛下とモリナ国王の関係が特別であることは承知しています。しかし、同盟を結ぶには両国の溝はあまりにも深いのです。クローアン王国の民も、我々帝国の民も、誰も同盟を望んではいないでしょう。」
大臣たちは息をひそめ、目配せをしながら反応を見守った。
このように反対意見を述べて皇帝に直言するのは勇気のいることだったが、オルンの言葉は正論だった。
現状では両国の同盟は現実的でなく、軍事的な観点からも非効率的だった。
私的な理由であっても、両国間の溝はあまりにも深かった。
ラエルは拳を握りしめた。
「オルン。」
彼はオルンをじっと見つめた。
自分の心情を知っているはずの彼が、こうして堂々と反対意見を述べるとは。
だが、再三のオルンの言葉は、皇帝の顔色をうかがうためのものではなく、帝国のために発言していることは明らかだった。
「オルン……。」
皇帝ラエルが重苦しい声で口を開こうとしたその瞬間、オルンがラエルに鋭い目線を向けた。
それは「少し待ってほしい」という意図を伝える目だった。
その瞬間、オルンは大臣たちを見回して口を開いた。
「しかし、両国の問題を解決する方法は、必ずしも戦争だけではないかもしれません。」
「それはどういう意味ですか、大臣?」
「クローアン王国に条件付き降伏の書簡を送るという案です。」
その言葉に、大臣たちは驚いた表情を浮かべた。
「受け入れてくれるのならいいのですが、果たしてクローアン王国が従うでしょうか?」
「もし受け入れないのであれば、そのときに改めて対策を考えればよいでしょう。」
大臣たちは悩みながらも、こぶしを握りしめた。
東帝国もようやく戦争を終えたばかりの状況であり、もし軍事行動を起こさずにクローアン王国が降伏するのなら、それに越したことはなかった。
「では、すぐに王国へ使者を派遣するよう手配します。」
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会議が終わった後、ラエルはオルンを呼び止めた。
「どういうつもりだ、オルン? 条件付き降伏の提案だなんて。クローアン王国が受け入れるはずがないだろう?」
オルンは首を握りながら、ため息をついた。
「その通りです。王国が受け入れる可能性はほとんどありません。」
「なのに、なぜ?」
「とにかく、今すぐ戦争が起きるのを防ぎたいのです。」
ラエルは深く息を吐き、オルンの意図を考え込んだ。
理解するのは難しかった。
その時、オルンはラエルをじっと見つめて言った。
「一つだけお伺いします、陛下。モリナ女王、いや、マリを諦めることができますか?」
「……!」
ラエルは険しい表情で首を横に振った。
「いや、絶対に無理だ。むしろ自分の命を捨てる方を選ぶ。」
オルンは深くうなずいた。
「だからです。しかし、現在の状況では陛下とモリナ国王が結ばれるのは困難です。いくつかの政治的な理由を差し引いても、モリナ国王以外のクローアン王国の誰もがそれを簡単に受け入れるとは思えません。」
オルンは少し苦笑いを浮かべた。
「歴史的に見ても、もともとクローアン王国と東帝国の関係は良好ではありませんでした。今や完全に敵対している状態ではなおさらです。ですから、お二人が一つになるためには、時間が必要です。」
「時間?」
「はい、両国が和解するための時間です。」
ラエルの瞳が揺れ動いた。
オルンの言葉の意味を理解したのだ。
「オルン、それはどういう意図だ?」
「はい。もし今、戦争が起これば、マリは間違いなく命を落とします。だからこそ、戦争を何としても回避しなければなりません。」
オルンは断固とした口調で続けた。
「時間を稼ぎ、お二人が何とか努力して両国の和解の機運を作り出す必要があります。それが、現在の状況でお二人が共にいられる唯一の方法です。」








