できるメイド様【２２１話】ネタバレ

こうして決定された後、東帝国はクローアン王国に使節団を派遣した。

表向きの名目は条件付き降伏の提案。当然、現在の状況でクローアン王国がその提案を受け入れる可能性は低かった。

ラエルもオルンも、王国がその提案を受け入れるとは考えていなかった。

彼らの本当の意図は、何とかして戦争を回避し、両国の和解のきっかけを作ることであった。

そこで、使節団の責任者であるラングト伯爵に、マリに向けた密書を秘密裏に届けるよう指示が下された。

「この手紙をモリナ国王に必ず渡さなければならない。」

ラングト伯爵は心の中で考えた。

彼は以前からラエルの信任を受け、マリにラエルの意思を伝える役目を担っていた。

「伯爵様、もうすぐ村に到着します。本日はその村で一晩を過ごすのがよさそうです。」

従者である騎士が報告した。

彼らは国境を越えてクローアン地方の山間の村に到着し、その村で一夜を過ごすことにした。

国境付近で連絡を受けた村人たちが、彼らを出迎えた。

「こちらへどうぞ。」

中年の村長が丁重に案内した。

その目には、帝国に対する強い敵意が宿っていた。

村長だけではなかった。

村の人々全体が険しい視線を使節団に向けていた。

両国間の緊張を考えれば当然のことだ。

（予想以上に敵意が強いな。）

ラングト伯爵はその雰囲気を感じ取り、心の中でそう思った。

当然、歓迎されるとは思っていなかったが、敵意の度合いは予想以上に強烈だった。

「不必要な衝突が起こらないよう、十分に注意しなければならない。」

このような状況では、些細な口論が大きな争いへと発展する可能性がある。

ラングト伯爵は使節団に、慎重に行動するよう警戒を促さなければならないと考えた。

そこに彼らを案内する人物が現れた。

「私がご案内します。こちらへお越しください。」

「あなたは？」

フードを深くかぶった人物が現れた。

その首には深い傷跡があり、何か鋭いもので切られたようだった。

さらに、顔には火傷か鋭利なものによる傷跡が無数に残っていた。

「私はこの村に住む者です。たまに外からいらっしゃるお客様がいると、私が対応するようにしています。」

「そうか。」

フードをかぶった男は、彼らをどこかへ案内し始めた。

一行が男の後をついていくと、彼らは村を抜けた先で止まり、男を見つめた。

「ところで、どこへ案内するつもりだ？ここは村の外じゃないか？」

「はい、村の外に宿泊できる場所があります。」

そう言って彼は一行をさらに進め、しばらく歩いた後、ようやく彼らは宿に到着した。

それは村の外れにあり、かなりの距離を歩いた場所にあった。

「では、どうぞごゆっくりお休みください。簡単ですが飲み物と軽食をご用意しております。」

フードを被った男は微笑みながら、丁寧にお辞儀をした。

しばらくして宿の明かりが消えた。

何が起きたのか、使節団の者たちはすぐに眠りに落ちた。

そして深い闇が村を包み込む中、フードを被った男は外へ出て、薄暗い夜の中で宿をじっと見つめていた。

「どうぞごゆっくりお休みください。これが最後の安息の時間になるでしょう。」

冷たい口調で呟く彼の影。

その背後には複数の人影が現れた。

彼らは、使節団に敵意を露わにしていた村長や村人たちだった。

驚くべきことに、彼らは剣や槍といった武器を手にしていた。

「準備は整いましたか？」

「その前に、はっきりと聞きたい。東帝国が再び我々クローアン王国を侵略しようとしているのですか？」

「この書簡を見ればわかるだろう。」

男は懐から何かを取り出して見せた。

それは降伏を促す書簡。

使節団が眠っている隙を突いて、その書簡を盗み出してきたのだ。

使節団が書簡を細心の注意を払って保管していたわけではなかったが、フードを被った男が水に睡眠薬を混ぜ、全員を眠らせていたのだった。

「なんという……本当に……」

書簡を見た村人たちは、怒りに満ちた表情を浮かべた。

フードを被った男は、深い笑みを浮かべていた。

「どうしますか？彼らは数年前、あなた方の家族を殺した張本人たちです。そしてまた侵略の野望を抱いています。」

「……」

村人たちは揺らぐように光を見つめていた。

そんな村人たちに、フードを被った男は蛇のような甘言で誘惑するかのように語りかけていた。

「いずれにせよ、あの使節団のままでは帝国は再びこの地を侵略してくるでしょう。あなたたちはまた家族を失うことになるのです。それを避けるためにも、先に彼らの首を討つべきではありませんか？」

「……」

「彼らは全員、睡眠薬で眠っています。ポケットにある物を取り出すように、簡単に首を討つことができますよ。」

村長は揺らめく光を見つめていた。

帝国の者たちへの憎しみが確かに存在するものの、実際に彼らの首を討つという提案に心が動揺していた。

それは村長だけでなく、他の村人たちも同じであり、皆が同様に迷いと苦悩の色を浮かべていた。

村長はしばらく思案した後、重々しく首を振った。

「……それでも、こうするのは間違っていると思います。たとえ帝国の奴らが憎くても、あなたの提案に従うことはできません。」

そう言いながら、村長は疑わしげにフードを被った男を見つめた。

「しかし、あなたは何者ですか？どうして我々にこんな提案を持ちかけるのです？」

村長の言葉に村人たちは驚きの表情を浮かべ、フードを被った男に槍や剣を向けた。

しかし、フードを被った男は村長の言葉に答えることなく、ただ肩をすくめただけだった。

「そうですか。まあ、構いませんよ。あなた方が同意しなくても、すべては既に決まっていることですから。」

村長が困惑した表情を浮かべたその瞬間だった。

突如、矢が飛んできて村長と村人たちの胸を射抜いた。

「な、何だと？！」

村長は信じられないという表情を浮かべた。

フードを被った男は再び肩をすくめると、村長に向かってこう言った。

「結局必要なのは、クローアン王国の村で使節団が死んだという事実だけです。それだけで十分でしたが、あなた方が協力してくれたらよかったのに、残念です。」

「お、お前……」

男は冷笑を浮かべながら言った。

「それでは、さようなら。すぐに帝国の奴らと一緒に送ってあげますので、安心してください。外れ者にはさせないので。」

フードを被った男が暗闇に向かって話しかけた。

「全員殺せ。そして、使節団は村人たちに殺されたように見せかけろ。村人たちは帝国の騎士に殺されたという風に仕立てるんだ。」

「かしこまりました。」

冷淡な返事が返ってきた。

暗闇の中から血が跳ねる音が聞こえ、それもすぐに止んだ。

フードを被った男は使節団の死体を見ながら不敵に笑みを浮かべた。

「いいぞ。」

まもなく両国に使節団の惨劇の報が伝えられた。

クローアン王国の村で東帝国の使節団が虐殺されたというものだ。

この事件は帝国を瞬く間に激怒させ、戦争の引き金となった。

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ガシャーン！

マリが手にしていた茶碗が床に落ちた。

甲高い音とともに茶碗が砕け散ったが、それを気にする者はいなかった。

それほど衝撃的な知らせが届いたからだ。

「東帝国の使節団が……王国民の襲撃を受けて虐殺されたというのですか？」

「はい、陛下。」

バルハンは重い表情でうなずいた。

「いや、どうしてそんなことが……」

マリは顔を真っ青にして震えていた。

「以前の戦争で甚大な被害を受けた村で、もともと帝国に対する敵意が強かった場所だそうです。それで……」

「でも、それでも突然こんなことが……。本当に我が王国民がやったことなのですか？ 調査団を送ってください。すぐにです。」

マリは震える声で命じた。

しかし、バルハンはため息をついて答えた。

「調査団をすでに送りましたが、使節団が滞在していた場所は完全に焼け落ちており、他の痕跡を見つけるのは難しいかと思われます。」

マリは死人のように蒼白な顔で息をのみ、ひそかに呟いた。

『陛下……』

彼女は最初に使節団が来るという知らせを聞いたとき、ラエルが戦争を避けたいという意図を汲み取り、その方針を支持していた。

しかし、こんな惨事が起こるなんて？

『もしかして何か別の理由があったのではないだろうか？』

マリは理解に苦しむような表情を浮かべた。

どうしてこんな重要な時期にこんな事件が起きたというのか？

しかし、今この場で真相を解き明かすことは不可能だった。

調査は進めなければならないが、同時にこの事件によって引き起こされる事態にも備える必要があった。

マリは震える声で尋ねた。

「では……帝国の反応はどうでしょうか？」

「まだ帝国側から公式な声明は出ていませんが……一部では騒然とした雰囲気が漂っています。命令さえ下されれば、即座に進軍する構えです。」

バルハンは重々しい声で続けた。

「我々も戦争に備えるべきかと存じます、陛下。」

マリは目を強く閉じた。

どうして自分が剣を取らなければならないのか？

それならいっそ……自分が死ねば、それで終わりだ。

『陛下。』

マリは切実な眼差しでじっと空を見上げた。

彼と戦争をするなど望んでいなかった。

どうにかしてもう一度彼の腕の中に抱かれたい。

その方法を考え出さなければならなかった。