こんにちは、ちゃむです。
「できるメイド様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

229話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 共同作業
大地が白く覆われるにつれ、冬が近づいてきた。
今年もまた大雪が降り、行く先を阻むほどの猛烈な吹雪だった。
自然と両軍の戦闘も小康状態となっていた。
「雪がたくさん降るわね。」
舞い落ちる雪を見つめながら、マリは感慨にふけっていた。
戦争という現実さえ忘れられれば、本当に美しい雪だ。
彼と一緒にこの雪を眺めたい、そう思わずにはいられなかった。
『次の冬には、必ず彼と一緒に雪を見るわ。』
彼女は心の中でそう強く決意すると、再びコートを羽織って外に出る。
貴族たちとの会議が予定されており、出席しなければならなかった。
「陛下がお見えになられました!」
会議室に入ると、バルハン伯爵をはじめとする王国軍の幹部たちが彼女を迎えた。
今では貴族たちが礼を尽くすのも慣れたものだ。
マリは席に着くと口を開いた。
「会議を始めましょう。弓兵隊の訓練は順調に進んでいますか?」
「はい、まだ不足している点もありますが、熟練度は目に見えて向上している状態です。」
「それはよかった。」
マリは静かに頷いた。
弓は中距離の戦闘において騎士たちにも脅威となる武器だ。
これまでクローアン王国は投石機を主力としてきたが、マリは国力を強化するために弓兵隊の育成を進めているのだった。
『騎士や歩兵の戦力を短期間で強化するのは難しい。でも、可能性があるのは弓兵の訓練よ。弓兵が大規模に揃えば、敵国軍も無視できなくなるはず。』
問題はやはり時間だ。
兵士たちに弓の扱いを熟達させるには、どうしても時間が必要だった。
「どうか最善を尽くしてください。吹雪で気温が下がっているので、兵士たちの健康にも十分気を配ってください。」
「はい、陛下。」
「物資の補給について問題はありませんか?」
「はい、吹雪で運搬が難しい状況ではありますが、事前に備蓄しておいた量があるため、大きな問題はありません。」
マリは貴族たちと共に一般的な事項について議論していた。
会議が進行している間、突然荒々しい足音と共に伝令が会議場に駆け込んできた。
「緊急事態です、陛下!」
伝令の言葉が続くと同時に、会議室の空気は一気に緊張感に包まれた。
「敵国軍の一部が北部国境、アルピエン山へ接近しています!」
「……!」
貴族たちは伝令の報告に驚愕し、一斉にざわめき始めた。
「敵国軍? この吹雪の中で?」
「アルピエン山を越えるつもりなのか?」
「しかし敵国軍がアルピエン山を目指す理由が見当たらない。一体何が狙いなのだ?」
アルピエン山は北部国境に位置する険しい山で、戦略的にはそれほど重要とは言えない場所だ。
無理に敵国軍が攻撃する理由がない地域だと人々が疑問を抱いている中、伝令が理由を説明した。
「攻撃のために接近しているわけではないようです。」
「では?」
「数日前の吹雪でアルピエン山に大規模な雪崩が発生しました。敵国軍は雪に埋もれた自国の住民を救出するために移動しているようです。」
マリの表情が険しくなった。
大規模な雪崩?
「では王国の住民たちは?アルピエン山には敵国の住民だけでなく、王国の住民もいるのではないですか?」
アルピエン山は国境線で区切られた地域だ。
しかし、山の形態が東西に広がっており、その位置が王国の領内に少し近づいているため、実質的な区別が曖昧で、王国出身の山岳民と敵国出身の山岳民が混じって生活していた。
「王国の住民たちも一緒に雪崩に巻き込まれたようです。」
「雪崩に巻き込まれた住民たちは何人ほどになりますか?」
「王国民だけでも少なくとも1,000人以上になると思われます。ハピル山岳民が集まって住んでいる地域で雪崩が発生したため……。」
その報告を聞き、マリは考え込んだ後、席を立ち上がった。
「山岳民たちを救うため、アルピエン山へ向かわなければなりません。準備をお願いします。」
一部の貴族たちは困惑した表情を浮かべた。
「しかし、殿下、敵国軍が目前に迫っている状況です。今、動き出すのは……。」
異論が出るのも当然だったが、マリはその場を見据え、意志を固めた。
「いずれにせよ、敵国軍も吹雪の中で戦闘を仕掛けるのは難しい状況です。そして、何よりも私たちが敵国軍に向き合う理由は王国民を守るためです。目の前で命を落としかけている人々を見捨てることはできません。1,000人――書類上の数字としては大した数ではないかもしれません。しかし、指導者として大義を貫くのが私たちの責務です。」
小さな犠牲を無視するのが正しいことかもしれない。
しかし、マリにはどうしてもそれができなかった。
一人ひとりの命は計り知れないほど貴重であり、千人もの命を無視することなどできるはずもなかった。
そして、敵国軍もすぐには動かないだろうという見込みがあった。
「できる限り多くの人々を救おう。」
マリは決意を新たにした。
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マリは王室騎士団と共に被災地へ向かった。
アルピエン山に最も近い要塞であるネリンス城では、ハワード侯爵が指揮する3,000人の兵力が待機していた。
「国王陛下にお目通りいたします。」
事前に連絡を受けていたハワード侯爵が急ぎ駆け寄り、彼女に深々と頭を下げた。
以前、彼が就任直後に危機を迎えた際、命を救ってもらった経験があり、その恩を忘れることなく彼女への忠誠心を抱いていた。
「被害状況はいかがでしょうか?」
「広範囲にわたる雪崩が発生し、正確な状況はまだ把握されていません。ただ、住民が多く住む地域を中心に被害が大きいと見られます。」
マリは暗い表情を浮かべた。
思った以上に状況は悪化していた。
「そしてもう一つ問題があります。」
「どんな問題ですか?」
「この付近に帝国軍が進軍し、現在駐屯しています。」
マリは状況を理解した。
『雪崩で被害を受けたのは王国民だけではない。むしろ、帝国民の被害のほうが甚大だ。』
ラエルは誰よりも平民を思いやる君主だ。
その彼だからこそ、危機に直面した平民たちを救うために兵士たちを派遣したのだ。
『問題は、雪崩の発生した地域へ行くにはこの要塞を通過しなければならないということだ。』
アルピエン山の地形的特性が原因だった。
山の立地は帝国側にあるが、住民の多くが暮らす村落へ向かうには王国の国境を越える必要がある。
「一度は絶対に不可能だと伝えましたが、帝国軍も退こうとしません。」
マリは困惑した心境だった。
別の時期であれば問題はなかっただろうが、今は戦争中だ。
帝国軍を王国領内に受け入れることなど到底許されるものではなかった。
「帝国軍は現在、一切の妥協を拒否しているようです。本日中にこの要塞を越える意図があるようです。」
マリは考え込んだ。
帝国軍を受け入れるのも困難だが、それに反発して戦いに発展させることもまた避けるべきだった。
時間がかかるうちに、雪崩に巻き込まれた人々は命を落とすかもしれない。
「一度、帝国軍と話をする必要があります。」
「帝国軍と話し合うのですか?」
ハワード侯爵は目を細め、帝国軍への強い敵意を示した。
「はい、帝国軍も今の状況では私たちと無意味に争おうとはしないはずです。」
ハワード侯爵は驚きつつも、慎重に耳を傾けた。
彼女がそう言うと、顧問たちは視線を交わした。
「ここに進軍してきた帝国軍を率いるのは誰ですか?」
ハワード侯爵は一瞬言葉を詰まらせたが、やがて答えた。
「帝国の皇帝です。彼自らが来ました。」
突然の返答にマリの瞳孔が開かれた。
『ランがここに来ているだって?』
その名前を聞いただけで、彼女の心臓は跳ね上がった。
思いもよらず彼と再会することになるとは。
会談は迅速に進められた。
双方の身分が各国の軍主である以上、公式な手続きに従えば非常に時間がかかるだけであったため、会談は非公式に処理された。
間もなく、会談の場所に到着したラエルの姿を見て、マリの目には涙が浮かんだ。
「クローアンの王モリナです。このようにお会いできて感謝いたします。」
マリは震える心を抑え、礼を尽くして言葉を紡いだ。
その顔を見つめるだけで、胸がいっぱいになった。
その腕に飛び込みたい衝動に駆られたが、周囲に見られる目が多すぎた。
「……お会いできて光栄です。」
短い言葉だったが、マリは彼もまた同じ気持ちでいることを察した。
彼の声が微かに震えているのが聞き取れた。
『会いたかった、ラン。』
マリは心の中でつぶやいた。
そうだ、本当に会いたかった。
早く全てが終わり、彼と永遠に一緒にいられるようになればいいのに。
「今回の雪崩事件に関して、我が帝国は王国が道を開いていただければ、避難活動のために協力したい所存です。この災害が解決するまで、王国を攻撃しないことをお約束します。」
マリはラエルの言葉を信じた。
しかし、王国の他の貴族たちはそうではなかった。
すぐさま北部国境の防衛を担うハワード侯爵が反対の意を表明した。
「それはできません、陛下。帝国が王国の領土内に入って、もし剣を抜いて攻撃してきたら、状況がさらに混乱する恐れがあります。」
「その通りです。」
同行していた騎士たちも全く同じ意見を述べた。
彼らの立場からすれば十分納得できる主張だったため、マリはしばらく悩んだ後にこう述べた。
「状況は切迫していますが、我が王国も帝国に条件なく国境を開くわけにはいきません。」
「それでは?」
「いずれにせよ救助活動のためなのですから、必要な武器以外は置いて来てください。」
彼女が話した不要な武器とは、中級以上の装備であるハルバード、メイス、大型の盾といった戦場用の殺傷能力の高い武器だ。
救助活動をする上でそれらの武器が必要なわけではないが、帝国側は彼女の提案に敏感に反応した。
「そんな無茶な要求をするとは。武装を解除して入国するなど、こちらが攻撃しないという保証はどこにあるのですか?」
ラエルに同行していた将軍の一人がそう述べた。
当然ながらマリもその反論に対する答えを用意していたわけではなかった。
「その救助活動に私を含む王国軍も同行します。もちろん同じように武装を解除して。」
「……!」
「それなら、お互いを信じられるのではありませんか?」
突如の提案に帝国の貴族たちは互いに顔を見合わせた。
確かにクローアン王国軍も同様に武装を解除して救助活動を行えば、裏切る可能性は低い。
特にモリナ女王が直接参加するのであればなおさらだった。
「それでも……。」
何か煮え切らない思いで帝国側が言葉を濁しているとき、ラエルが口を開いた。
「いいだろう。そうすることにしよう。」
「陛下?」
「ただし、こうして曖昧な形で話を進めるのではなく、救助活動を行う際に双方が不可侵の協定を結ぶという事実をそれぞれの署名によって明文化するのが良いだろう。」
こうして歴史的にも類を見ない厳密な協定が結ばれた。
人々を救うために戦争中の両軍が不可侵を誓い、協力し合うという特異な協定である。
両国の軍主がこの協定に署名した。
どんなことよりも民衆を大切にするマリとラエルだったからこそ可能な協定だ。
そして文書に署名した後、マリは幕舎から王国の拠点へ戻るために出発しようとしていた。
随行員たちが先に幕舎を出て戻ろうとしている間、ちょうど二人だけが幕舎に残っていたとき、ラエルが彼女を背後から強く抱きしめた。
「マリ。」
突然の抱擁に驚きつつも、マリの胸はどきどきと高鳴った。
背後から彼の温かい体温が伝わる。これほどまでに恋しかった感覚だった。
マリは熱くなる目元をぐっとこらえながら口を開こうとしたが、また涙が溢れそうだった。
「必ず気を付けてくれ。戦争が進行中とはいえ、状況がどう転ぶか分からない。君に少しでも危害が及ぶようなことは絶対にさせない。」
マリは言葉もなく、彼の腕の中で震えた。
「そして、今回の提案には感謝している。」
「どういう意味でしょう?」
「実は、前回君が我々の軍の患者を助けてくれた後、軍内部で少しずつ異なる話題が持ち上がり始めたんだ。」
マリは彼の言葉に耳を傾けた。
「つまり、クローアン王国と戦争をする必要があるのか、それとも別の道を探るべきかという議論だ。正確に言えば、君を帝国の皇后として迎え、両国の和解を図る方法もあるのではないかという意見だ。」
「え……。」
マリは驚きの表情を浮かべた。
前回の伝染病事件だけでなく、これまで彼女が成し遂げてきたことが積み重なった結果だ。
「もちろん、まだ少数意見に過ぎない。しかし今回の件も上手く解決できれば、その声はますます大きくなるだろう。」
ラエルは力強い声で言葉を続けた。
「和解を求める声がさらに強まれば、皇帝の権限で正式に君との国婚を論じることになるだろう。だから慎重に行動し、もう少し状況を見守っていてほしい。」
その言葉を聞いたマリの胸は大きく揺れた。
ただ不可能だと切り捨てるには、事態が具体的に進み始めているように思えたからだ。
もしかしたら本当に一緒にやっていけるかもしれない。
「必ずそうなるはず。神よ、私たちをお守りください。」







