あなたの主治医はもう辞めます！【１０５話】ネタバレ

ジェイドはケインズからの手紙を見て眉をひそめた。

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皇太子殿下、皇居でお元気でしょうか。

私は殿下の命を受け、予定通りセルイヤーズ公爵領に無事到着しました。

ところが、皇室の禄を食む帝国軍人として緊急かつ重大に調査することができたので、もう少し長く滞在することを許可してください。

疑いだけでは書信に触れるには重すぎるので、詳しく述べられないことをご理解ください。

しかし、このことが皇太子殿下の安危とも関係がありそうだという意見を慎重に述べます。

ですから、この書信の内容自体は当分の間秘密にした方が賢明なようです。

公爵様とリチェ様のお力添えをいただき、このすべての事の顛末を衷心より調査することを誓って、これで失礼いたします。

どうかまたお会いするまで、ご清栄の日々をお過ごしください。

—ケインズ・オリン

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「いや、リチェの返事を聞きに行ったはずが、何をまた調査するというんだ？」

しかし、軍医のケインズは皇室騎士団の所属でもある。

彼が深刻に調査をしなければならないと判断した事案ならば、その上に衷心まで云々するほど軽い事件のようではなかった。

「しかし、セルイヤーズ公爵が相当な忠臣で、リチェさんは私を心から愛しているのだから・・・私の安危のために最善を尽くすだろう。私は人に恵まれている」

皇室の騎士団の軍人が調査を要請する時に返信を送るマニュアルに従って、彼は「十分な時間を与えるから皇太子の命で該当使件を明々明々と調査せよ」という答えを簡単に書いて送った。

「じゃ、お兄さんにお見舞いでも行ってみようか」

いつの間にか日が暮れていることを確認したジェイドは、飛び起きて快活に歩き始めた。

彼は時間があれば時々観覧塔でかなり大きな負傷をしたハエルドン皇子に見舞いに行ったりした。

もちろんジェイドがいた方の床が崩れて本当に死にそうになった人は彼だったが、リチェがタイムリーに押し出したせいで優れた運動神経で軽い擦り傷をいくつかだけ着て元気だった。

反対側にいたハエルドンは命に別状はなかったが、足の片方が折れて数日間ベッドの世話をしなければならなかった。

このすべてのこと責任を負うことになったフリット侯爵も腕の片方を大きく怪我したため、ジェイドは内心残念だと思っていたところだ。

「ああ・・・怪我したのに悪口は悪口どおりにして、賠償は賠償どおりにして、懲戒は懲戒どおりに受けて・・・しかし皇室はそれだけ残忍なものだ。しょうがない」

その他にも観覧塔で大けがをした人はかなり多かった。

エルアンも大けがをして、リチェが慌てて彼を連れて公爵領に戻るしかなかったのではないか。

もし彼女がセルイヤーズ所属の主治医でなかったら、自分と今頃甘い時間を過ごしていたはずを・・・。

「しかし、そんなプロフェッショナルな姿がリチェさんの魅力だよ」

彼は彼の命を救ったリチェの最後の姿を浮かべながら微笑ましい表情で歩いていた。

「あれ？」

そのようにハエルドン皇子のところへ行く途中、彼は皇子妃のイスエラに出くわした。

イスエラはかすかにため息をつき、彼に敬意を表した。

「お兄さんのところへ行く途中ですか？」

「はい」

「いかがですか？」

「医療研究陣の数人がくっついていて、回復速度が速い方だそうです」

「よかったですね」

ジェイドは無邪気な青い目を輝かせながら笑った。

「そういえば、奥さんはその場にいなかったのですね？」

「ええ・・・ちょっと疲れていましたから」

イスエラは観覧塔に行かなかったので怪我はなかった。

「はい、もうすぐ待ちわびていたお子さんがやってくるかもしれないので、気をつけた方がいいですね。先日、リチェさんの処方を受けていませんでしたか？」

「・・・もう一度お願いしますが、皇子様には言わないでください」

「もちろんですよ。私はこう見えても少しは勘がいい方ですから」

ジェイドは、イスエラの納得できない表情に少しも気づかずに理解しているかのように答えた。

「リチェさんはものすごい名医です。多分お兄さん夫婦にすぐ良いことが起きるでしょう。私が保障します。リチェちゃんは治せない病気がないから」

いくら天才だとしてもすべての病気を治すことはできないので、リチェが聞けば驚くべき言葉だ。

しかし、確信に満ちたジェイドの言葉に、イスエラの顔にも少し期待感が漂う。

ハエルドンとイスエラの両方が子供を切実に望んでいることを皇居に知らない人はいない。

特に、ハエルドンが最初に皇室医療研究チームを率いるようになった理由も、自分たちの不妊を直接研究してみるということだった。

狩猟大会以後、リチェの実力が皇室医療研究陣より良いようだと思うようになったイスエラにはとにかく朗報だ。

帝国は法律で私生児を認めない。

ハエルドンに隠された情婦が数人いることは知っていたが、真に後継になる子供を産むことができる人はイスエラだけだという意味だ。

それに、ハエルドンは自分の後継者を最初から今まで切望していた。

子供を産んでくれれば、その多くの政府も整理するのではないかと思い、イスエラは結局、平民であるリチェのブースまで密かに訪れるようになったのだ。

「もちろん」

イスエラはジェイドと長く話したくなかったので、すぐに姿を消した。

ジェイドは明るく彼女に挨拶し、ハエルドンの部屋に向かう。

ハエルドンは無愛想な表情で何の怪我もないジェイドを迎えた。

ジェイドがあちこちでリチェのおかげで助かったと騒いだのか、彼がこれほど元気でいられる理由を知らない人はいなかった。

「お兄さん、大丈夫ですか？」

「お心遣いいただいたおかげで、だいぶよくなりました」

「よかったです」

ジェイドは明るく言ったが、ハエルドンの顔は暗かった。

そういえば、親しくしていたフリート侯爵がこのすべてのことの責任を負うため、相当な打撃が大きいと聞いている。

こんな不意の事故が起きて友逹も困るし本人も大怪我するなんて・・・。

「私はリチェさんと一緒にいたので元気だったのに、お兄さんは本当に運もなかったんですね」

「その話は今、お見舞いに来るたびにされています」

「どう考えても、リチェさんが私の人生の貴人のようです。お兄さんにもリチェさんを少しでも良く見てほしいという気持ちで」

ジェイドは、もしリチェが皇居に入ってくることになれば、もしかしてハエルドンとぎこちないのではないかと思って、よくリチェの話をしていた。

「特に興味がありません、そんなつまらない平民の女の子には」

「つまらないものではありません。狩り大会の時に直接ご覧になったじゃないですか」

「その女の子について論じるには私がちょっと疲れますね。」

リチェの話はしてもしてもまたしたいが、ハエルドンはジェイドとの対話をあまりにも序盤に遮断してしまった。

（確かに、体調が悪いから弟が興味のある女にそれについて聞きたくないかもしれない）

ベッドの世話をしているハエルドンにあまりにも思いやりがなかったのか、自分を振り返っていたジェイドは少しでも彼の気分を良くしたいという気がした。

「早く治らないと。良い知らせが来るかも知れないのにですね」

「・・・いい知らせだなんて」

「まあ、もうすぐ綺麗な甥っ子が誕生するかもしれないじゃないですか？」

「皇太子様」

ハエルドンは額に触れながらつぶやいた。

「いくら皇太子さまだとしても、今のような状況で人の一番痛いところを突くのはマナーではありません」

「痛いところを刺すなんて！」

ジェイドは驚いて両手を振りながら慌てて言った。

「私はただ、兄嫁がリチェさんに不妊関連の処方を受けたから・・・あ、しまった」

ジェイドはまるで酷い目にあったかのように唇をかんだ。

「兄嫁さんが言うなとおっしゃったんですが・・・」

もちろん、ハエルドンの表情はゆがんだ状態だった。

「でもリチェさんの実力はすごいじゃないですか？自尊心のためあまりそんなことしないで・・・」

結局、ジェイドは不快な気持ちで見舞いを早く終えるしかなかった。