こんにちは、ちゃむです。
「乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

175話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 記憶喪失②
そしてアドリシャは、笑顔のまま一言も汚い言葉を発せずに、どこまで人を怒らせられるかを実践してみせた。
「なるほど。皇太子殿下は、そうやって人を愚か者にするのがお好きなんですね……。」
「アドリシャ、やめて!」
驚いたダリアが彼女を制止した。
皇帝と皇后も、その発言に少し居心地が悪そうに見えたが、同時に言い返せないことも自覚しているようだった。
おかげで、一瞬の沈黙が流れた。
ダリアはしばらくして、静かに尋ねた。
「……それで、どうすればいいんでしょう?」
まるで作戦会議が開かれているかのような場面だった。
いつの間にか、しれっとこの場に紛れ込んでいるメルドンもいた。
彼はいつものように、特に真剣さが伝わらない顔で腕を組み、何かを考えているようだった。
やがて、手をパチンと叩きながら言った。
「とりあえず、勝戦記念の祈祷会でも開いて、二人を一度顔を合わせる場にしてみましょうか。我らが令嬢の顔を見れば、皇太子殿下も何か思い出すかもしれませんよ?」
この中で最も冷静さを保っている人物らしい発想だ。
皇帝が頷きながら考え込む。
「それで、一旦試してみよう。」
「でも、ダリア嬢が彼を見て、あまりにも傷つかないか心配です……。」
皇后が不安そうに言った。
『……そもそも、どういう状況でみんなこんなこと言ってるわけ?』
まだ現実味が湧かないダリアは、ただ呆然としながら手の中のハンカチをぎゅっと握りしめた。
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こうして、一週間後、急遽決まった「勝戦祈祷会」 の日が訪れた。
ダリアはこの間ずっと、皇太子暗殺計画を立てようとするアドリシャを止めるのに忙しかった。
今回の祈祷会で、ダリアのパートナーはヒーカンだった。
セドリックと一緒に入場する気は、向こうにもないだろう。
ダリアは少し胸が詰まる気がした。
『なかったことにするって、言ったのに。』
皇帝と皇后は、何とも言えない顔で言葉を選びながら説明してくれたが、ダリアはその言葉に込められた真意をはっきりと感じ取っていた。
それでも、不思議なことに、怒りも湧かず、悲しみさえも感じなかった。
ただ、震えが止まらないだけ。
『……でも、もしかして、もっと明確な証拠を見せれば記憶が戻るかもしれない?』
ダリアは自分の手をじっと見つめた。
もう、彼女は指輪をはめていない。
そんなもの、必要なくなったのだから。
ただ軽く触れるだけでも、記憶を呼び戻せるかもしれない。
『早く記憶が戻ればいいのに。』
「今日のことはとりあえず置いておいて、ゆっくり考えたら、飲み込めるはず……」
ダリアはそう思いながら、静かに拳を握った。
セドリックは本当に彼女に関する記憶を失っていた。
それが分かった瞬間、どこか奇妙な違和感が生まれた。
つい最近までは、皇帝に「レナードのような無能が皇太子の地位にあるのは不自然だから、自分がやる」とはっきり申し出ていたのに。
普通なら、皇帝は喜んでその提案を受け入れたはずだった。
だって、どう見てもセドリックが皇太子に相応しいし、レナード自身も地位に執着していなかったからだ。
だが、皇后が慎重にその話を持ち出すと、彼は思いがけずとても喜んでしまった。
あの「皇宮襲撃事件」 以降、超越者たちの争いと聞いただけで頭痛がするらしい。
「お願いだから、セドリックに早く皇太子の座を譲ってくれ。もう俺は疲れた……。」
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こうして、誰もが望んでいなかった「事態の収束」 に向かっていた。
しかし皇帝は「まず聖国との交渉を優先する」とし、皇太子問題の決定を後回しにすることを選んだ。
とにかく、セドリックが記憶を取り戻した後に、正式に進めるのが筋だろう。
ダリアは皇帝の配慮がありがたかった。
「セドリック様が皇太子だなんて。」
それなら将来的に皇帝になるのだろうか?
実際、ダリアは彼がずっと皇太子でいることを望んでいた。
気が引けるが、彼女は当然のように自分が将来セドリックと結婚すると信じていた。
しかし、セドリックが皇帝になれば、彼女は皇后になる。
皇后という立場はあまりにも重く負担に感じられ、結婚後も彼女はペステローズの名前のままでいたかった。
貴族同士の結婚である以上、全くありえないことではなかった。
しかし、セドリックが皇帝になれば、それも難しくなる。
「今が一番いいのに。」
とはいえ、記憶を失ってしまったセドリックにそれを期待するのは無理な話だ。
ヒーカンが冷静な表情で彼女に手を差し出した。
久しぶりに彼のパートナーになったせいか、彼は少し緊張した様子だった。
彼女はなんとなく気分が和らぎ、微笑んだ。
こうした状況でも安心できるのは、他の人々が今でも彼女を大切に思っていることが分かるからだ。
彼女は彼の手をしっかりと握りしめ、舞踏会場へと向かった。
皇宮の舞踏会ホールはいつにも増して賑わっていた。
眩いシャンデリアの光、美しい音楽、豪華な食事がホールを満たしていた。
フレデリック帝国の皇宮が聖国の襲撃を受け、危機に陥るという大事件があったが、両者の戦いはわずか一日も経たずにフレデリック帝国の勝利で幕を閉じた。
聖国に関連するすべての被害は補償され、少ない損失もすぐに回復された。
そのおかげで帝国はまるで祝祭のような雰囲気に包まれていた。
ダリアはヒーカンの手を握りながら、舞踏会のあちこちに飾られた精巧な装飾品を見て回り、ホール内に席を取った。
「セドリック様に会いに行くべきかしら?」
セドリックは皇帝の手に引かれ、強制的に舞踏会へと連れて来られていた。
彼女は彼がどこにいるか分かっていた。
しかし、その場を見つめる勇気が出なかった。
メルドンの言う通り、セドリックはダリアを見れば記憶を取り戻すのだろうか?
今になって疑念が湧いてきた。
さらに、何となく不安も感じ始めていた。
なんとなく恐ろしくも感じた。
もしセドリックが自分を見ても、何も思い出さなかったら?
言葉すら通じなかったら?
ただ時間が過ぎるのを待つしかなく、自然に記憶が戻るのを期待するしかないのだろうか?
そう考えると、ダリアは少し切ない気持ちになった。
「お嬢様。」
遅れて入場したメルドンが、ヒーカンと一緒にいるダリアを見つけ、こちらへ歩いてきた。
彼はダリアの意図も知らず、平然とある場所を指さした。
「セドリック様はあちらにいらっしゃいますよ。」
「そ、そうなの?」
ダリアは戸惑いながらメルドンを見つめた。
その意味を察したのか、彼は妙に優しく微笑みながらダリアに身を寄せた。
「ご安心ください。私に考えがあります。必ずやセドリック様がお嬢様を思い出すようにいたしますので。」
「……あなたがそう言うと、なんだか余計に不安になるのだけれど。」
ヒーカンがぶっきらぼうに言った。
ダリアも特に反論はしなかったが、内心では共感していた。
「見てください。今もセドリック様はダリア嬢を見ているではありませんか?」
ダリアは後悔すると分かっていながらも、メルドンが指し示す方向を見た。
セドリックは本当に彼女を見ていた。目が合った。
『ああ、見なければよかった。』
ダリアは予想通り、少し後悔した。
頭で理解するのと、実際に目で確認するのとでは違う。
セドリックは本当に、見知らぬ目で彼女を見ていた。
まるで、ずっと昔に初めて会ったときのように。
静かな海のように、何の感情も浮かばない冷淡な目つきだった。
『セドリック様は、本当にすべてを忘れてしまったんだ……。』
どうして、わざわざ確かめようとしたのだろう?
『ただ、じっと待てばよかったのに。』
記憶が自然と戻ってくるまで。
彼女は深く傷ついた。
セドリックは視線をそらさず、ずっと彼女を見つめていた。
先に諦めたのはダリアだった。
彼女の表情がどうしようもなく崩れていくのを見たメルドンは、急いで彼女をバルコニーへと連れ出した。








