こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
今回は45話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
45話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- side ビクター
正門を抜け出したエスターは、道が曲がるまで一度も後ろを振り返らなかった。
「ふう」
しつこく追いついたカリードの視線からようやく抜け出した後、壁をつかんで倒れるようにもたれた。
緊張が解けると足の力も一緒に解けてしまう。
もう歩く力もなかった。
「お嬢様!」
ビクターはびっくりしてエスターのそばにびったりと寄り添う。
「医者を呼びましょうか?」
「いや、びっくりしたからかも」
エスターは首を横に振り、ビクターを安心させた。
「それでは、おぶってさしあげます」
ビクターは背を向けて振り向く。
ジュディの背中とは次元が違って、大きくて広い背中だった。
「でも・・・!」
「とても疲れて見えます」
ビクターは笑いながら背中を軽くたたいた。
彼の半分しかないエスターをおんぶすることは仕事でもなかった。
(どうしよう?)
悩みに陥ったエスターの頬がパンパンに膨らんだ。
背負うつもりは全くなかったが、まともに歩けず、時間を稼ぐよりはましなようだった。
「ありがとう」
決定を終えたエスターがちょこちょこ動いてビクターの背中に体をもたせる。
背中があまりにも広くて一気にすっぽりおんぶされた。
「許可されればテルシアに戻るまでずっとおぶってあげることもできますが」
ビクターはずうずうしく冗談を言いながら飛び起きた。
エスターを背負っても軽く、揺れさえなかった。
「でもビクター、元々お兄さんたちは妹がいるとよくおんぶしてくれるの?」
快くおんぶしてくれと言って背中を貸してくれるビクターの姿の上に、初めておんぶしてくれたジュディが重なって見えた。
「普通はね。年の差があるほど、そのような傾向があることはあります」
エスターは「やっばりそうなんだ」とうなずいた。
「ですが、お嬢さんの場合が少し違います」
「私が大公の娘だから?」
「いいえ、そうじゃなくて・・・」
しばらく言葉を止めたビクターが首を整えて悲壮に尋ねた。
「もし迷子になった子猫を見つけたらどうしますか?」
本当に子猫を発見したように深刻になったエスターが悲壮に叫んだ。
「助けてあげないと!」
「まさにそれです」
「・・・?」
「お嬢さんは綺麗な上に可愛いですし、苦しんでいるのを見ると、誰でもおんぶしたがるでしょう」
何の話かと思って耳をぴんと立てたエスターの顔が赤く変わった。
「私が可愛いって?嘘よ」
「本当です。私がお嬢さんをお迎えすると言ったら、同僚たちがどれだけ羨ましがっていたか」
エスターは恥ずかしくなり、ビクターの肩に顔をうずめる。
そして手のひらで耳をぎゅっと塞いだ。
ビクターは、背後で身震いするエスターが可愛くて、わざともっと声を高めて褒めた。
そうするうちに突然足を止める。
「急な用事は済みましたら、少し休んでから出発しましょうか?」
「それがいいね」
エスターもゆっくりうなずいた。
このような状態で馬車に乗ってテルシアまで行くのは無理だった。
急いで帰ろうとして、無駄に倒れたりしたら困るから。
半日ぐらい休んで行くことにした。
「近くに私が知っているホテルがあります。最高級ではありませんが、すっきりしていて数時間寝るには十分ですよ」
「どこでも構わないわ」
「それでは、そちらにご案内いたします。10分ぐらいかかりますので、お休みになっていてください」
「うん」
休息が切実に必要だったエスターは、うまくいったと思って目を閉じる。
つらい記憶があまりにも多く浮び上がった。
会いたくない人たちに会わなければならなかった大変な一日だった。
その時、ビクターの口ずさみが間こえてきた。
意外と甘美な声にそっとまた目が覚める。
「それは何の歌?」
「母が歌ってくれた子守唄です」
「いいね。私は子守唄なんて聞いたことないんだけど」
しかしふと、誰かの背中におんぶされてこんな口ずさみを聞いたことがあるような既視感がした。
「うん?」
瞬間、ある女性の澄んだ歌声とともに肩越しに見渡せる光景が頭の中に浮かんだ。
その記憶を詳しく思い出そうと集中していたが、突然周辺が騒がしくなり始める。
中心街を通る途中、中央部の市場に進入したからだ。
「少しだけ我慢してください」
ビクターは商人と見物人でごった返す市場を横切り、眉をひそめた。
一人ならすぐに突き抜けたはずだが、エスターを背負っていて容易ではなかった。
弱り目にたたり目で、向こうからある子供たちが速いスピードで走ってきた。
「あいつらを捕まえろ!泥棒です!みんな、あいつらを止めてください!」
「おい、みんな怪我したくなけれはどけ!」
靴屋を荒らしたのか、片手には靴がずらりと、もう一方の手には鈍いナイフが持っていた。
店主がやっとの思いで追いついているが、距離がかなり広がっていて捕まえるのは難しそうだ。
(足でも引っ掛けようか?)
かっとなったビクターの足が先に反応して前に出る。
しかし、背負ったエスターのことを考えてぐっとこらえた。
その間、子供たちが思ったよりもっと近づいてくる。
ビクターは急いでエスターを庇い、体を内側に向けた。
何事もなく通り過ぎると思ったが、よりによって子供たちのナイフに触れたのか、エスターの服の裾がばっと破れる。
「おい・・・!」
ビクターは当惑した表情をした。
慌ててエスターを見てみると、幸い服だけ破れたのか怪我はない。
ビクターは子供たちに向かって青筋を上げて叫んだ。
「おい!お前たち、お嬢さんが怪我するところだったじゃないか!」
いくら鈍い刀だとしても、もしエスターに触れて怪我でもしたら・・・。
想像するだけでもゾッとした。
「お嬢さん!大丈夫ですか?すいません、私が遅く反応したので・・・。とても驚きましたよね?」
「怪我してないよ。大丈夫」
しかし、ビクターの考えとは違って、エスターは全く動じず落ち着いていた。
むしろ驚いてどうしていいか分からないビクターを動揺させたくらいだ。
「服が破れました。あれが体に触れたら・・・」
「だったらビクターが止めてくれたでしょう?」
そのおかげで、再び元のペースに戻ったビクターは、心の中で舌を巻いた。
この年頃の女の子なら、驚いて泣いたり、叫んだりしてもおかしくないことだった。
ところが、驚くところか動揺すらなかった。
とうしてあんなに落ち着いているのか不思議だった。
「ふああ」
何事もなかったようにあくびをしたエスターが再び楽におんぶされてぐったりする。
しばらくして耳元に聞こえてくるエスターの均等な息づかいを間きながら、ビクターが目を丸くした。
「お嬢さん、お休みになりましたか?」
「・・・」
返事がなかった。
あっという間に眠っているのを知ったビクターが呆れながら首を横に振る。
(本当に分からない方だよ)
彼は少し前まではエスターを優しく見ていた。
特別なことはない、まさにその年代の少女というか。
どこかボーツとして表情が索漠としていたが、ずっとよく笑っていた。
護衛の自分に命令ではなくお願いをする、その後は必ずお礼を言う優しい子だった。
それで冷静で残酷なことで有名なテルシア家には似合わないと思った。
ところが、今見るとそうではなかった。
何気なく落ち着いた表情の裏には全く違う姿が隠れていた。
ビクターは予測不可能なエスターに興味を持つ。
(「ダイナー」って呼んだよね?)
その名前にはどんな事情があるのか、どのように神殿で大公家として養子縁組されたのか気になった。
(帰っても護衛を引き続き任せてくれと言ってみようか)
重大な決定を1秒で終えたビクターは、にっこりと笑いながらエスターを支えた手にさらに力を入れる。
ビクターには引き続き護衛騎士になってほしいですね!