こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

94話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 予想外の困難②
午後9時を過ぎた頃。
すでに就寝しているべきラビエンヌは、任命式が予定されているホールで準備を進めていた。
自身の任命式をこれまでのどの任命式よりも完璧で美しく飾りたいと考えていたのだ。
「ところで、聖女様、椅子の配置を変えていただけますか?どうしても中央を空けて、私が歩いて登場するほうが良い絵になると思います。」
「このようにおっしゃるのですか?」
「ええ。それから、草の装飾よりも赤いバラの装飾のほうが良いと思います。全体的に色味が映えるようにお願いしたいのですが。」
ラビエンヌは基本的な席の配置から小さな装飾に至るまで、すべてを念入りに調整しながら確認していった。
この時、今回の任命式でラビエンヌの衣装を仕立てていた二人の女性が服を持って現れ、それを広げて見せた。
「聖女様。作業過程をお見せしようと思いまして。おっしゃった通りに刺繍を入れてみましたが、いかがでしょうか?」
まだ正式な聖女になったわけではなかったが、すでに周囲の人々はラビエンヌを聖女と呼んでいた。
その呼び名を嫌がっている様子はなく、ラビエンヌは微笑んだ。
「非常に繊細ですね。ただ、この肩の部分がもう少し華やかで大きいと良いかと思います。遠くからも目立つようにできますか?」
「もちろんです。他に追加したい部分はございますか? 少し派手に揺れる布を数枚足しても良いかと。」
候補生の時には他の聖女たちが決して同調しなかったラビエンヌだったが、予備の聖女になってからはより特別な待遇を受けるようになっていた。
彼女に少しでも良い印象を与えようと周囲は懸命になっている。
「まあ!それはぜひお願いしたいです! 聖女様に衣装をお任せできて本当に良かったです。」
ラビエンヌは感謝の気持ちを込めて、聖女の手をそっと握りしめた。
驚いて手を握られた聖女は、ラビエンヌと目が合うと顔を赤らめる。
「ええ、私が明日の朝までに修正して再びお持ちします!」
「え?でも、そうなると眠れなくなるんじゃない……?」
「いえ、大丈夫です。これがもっと大事ですから。」
夜通し作業してでも完成させるという決意を見せ、拳をぎゅっと握りしめた。
しばらくしてホールを出ると、二人の聖女は口々にラビエンヌを称賛した。
「見た?もっと綺麗になった気がするわ。目が合った瞬間、びっくりしちゃったもの。」
「綺麗だって言わなきゃ損よ。あの落ち着いた言葉づかいを見てよ。候補生の時から上品だと思ってたけど、ますます洗練されたわ。聖女らしいお姿そのものね。」
「そうよ。ラビエンヌ様以外の聖女なんて想像もつかないわ。」
ラビエンヌは彼女たちの背中を見送りながら、ふと時間を確認し、ホールにいる全ての聖女たちを集めた。
「今日はここまでにしましょう。遅くまで付き合ってくれてありがとう。」
ラビエンヌは遅くまで仕事を手伝ってくれた聖女たちに、一人ひとり目を合わせながらミルガルを分け与えた。
皆、十分な給料を受け取っているが、それに加えて気遣いを見せるラビエンヌに感謝の言葉を述べながら退出していった。
『あと1時間だけやれたらよかったのに。』
とはいえ、通常の勤務時間が午後6時までと決められていることを考えると、午後9時を過ぎた今はすでに遅い時間だった。
これ以上遅くまで仕事をさせたという評価が下されるのを防ぐためにも、ここで終了するのが限界だった。
ラビエンヌは名残惜しそうにホールを振り返りつつ、寮へ戻るべく足を進めた。
しかし、ほぼ自室に着こうとしたその時、廊下の先で自分を待っているルーカスを見つけて驚いた。
「ルーカス大臣様?こんな時間にどうされたのですか?」
「緊急に伝えるべきことがあり、待っていました。」
ルーカスの表情は読み取れず、複雑そうに見えた。
怪訝に思ったラビエンヌは急いでその衣装を整えた。
祈りの際に着用する司祭服。
そして今日は2週間に一度の祈りの日。
その二つを結びつけて何かを悟ったラビエンヌが、明るく笑顔で尋ねた。
「まさか、今日の祈りで?」
「はい。啓示が下りました。」
ラビエンヌは手に持っていた紙をしっかりと握り、ルーカスに近づく
周囲に誰もいないことを確認しようと、もう一度周りを見渡してから、静かな声で尋ねた。
「どなたですか?」
「それが……啓示は下りましたが、条件に完全に合致する候補者がいません。」
啓示は確かに降りたが、それに該当する候補者が見つからないのだ。
ラビエンヌはどうしても理解できないという表情で後退した。
「どうしてそんなことがあり得るんですか?」
「私も困惑しています。一応、二つの条件に合う候補者が二人いるようですが……おそらく該当者ではないと思われます。」
啓示が下れば簡単に聖女を見つけられるだろうと考えていたラビエンヌは、言葉を呑み込んで黙り込んだ。
「その啓示の内容を教えてください。」
ルカスは司祭たちと共有した啓示を余すところなく伝えた。
「灰色がかった髪に分厚い赤色の瞳を持つ七月生まれ……。」
灰色がかった髪といえば、以前セスピア聖女が演説中に語った特徴とも一致する。
ゆっくりと啓示の内容を反芻していたラビエンヌの頭に、突然ある人物が浮かび上がった。
『ダイナ?』
過去に候補者であったこともそうだが、その容姿が啓示と一致しているため疑念が湧いた。
しかし、共に授業を受けた時の無礼な態度を思い出すと、その可能性は極めて低いと感じられた。
「彼女の実力は私がよく知っています。」
ルーカスに話すほどのことではなかったが、万が一に備え密かに調査する必要があるかもしれないと考えた。
「え?」
「いいえ。とりあえずその候補者二人を連れてきて、資格があるか確認してもらえますか?」
「わかりました。」
確認してどちらも該当しなければ、再び別の手立てを講じなければならない状況だった。
「はあ……。」
ルーカスを送り出し、部屋に戻ったラビエンヌは紙を取り出し、父親に送る手紙を書き始めた。
啓示の内容と共に、自分が啓示の主人公ではないと知った瞬間、ラビエンヌはしばし立ち止まった。
「私ではないと知ったら、がっかりするかしら?」
ラビエンヌが覚えている最も古い記憶の中でも、父親は彼女に「聖女になれ」とだけ言い続けてきた。
その期待から逃れたことに安堵する反面、受け入れられないことへの不安から、ラビエンヌの表情に微かな緊張が浮かんだ。
しかし、たとえ自分が本物ではなくても問題ないと考え直し、不安を抑えて残りの文章を書き上げた。
ラビエンヌは手紙を丁寧に巻いた後、書棚の横に置いていた小箱を開けて伝書鳩を取り出した。
この伝書鳩は、神殿に入る時に家から持ってきたもので、家庭と神殿を行き来する大切な役割を果たしていた。
「父に伝えなきゃ。」
ラビエンヌは伝書鳩の羽を何度かなでながら呟いた。
ラビエンヌは窓を開け、外に向けて鳩を飛ばした。
鳩は何度かぐるぐる回ろうとしたが、力強く空に飛び立ち、すぐに闇の中へと消えた。






