こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

118話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 切実な願い
それから一か月。
季節はまだ冬のままだったが、やがて新しい年が近づいていた。
その間、ブリエルにはいくつかの変化が起きた。
中でも最も大きな出来事は、母親が二人になったことだ。
ウッズ夫人とクノー夫人は、誰よりもブリエルを愛する気持ちで心を通わせ、朝から晩まで娘について語り合っていたが、今では二人とも城壁内に購入した住宅で一緒に暮らすことにした。
ブリエルが二人の母に会うために別々に時間を割かなければならないのが気の毒で、そう決めた面もあったが、それ以上に二人はとても親しい友人になり、お互いを頼るようになったようだ。
もう一つの変化は、やはり身分だった。
魔法使い団の迅速な再確認を経て、彼女がクノー公爵家の娘であることが公式に確認された。
そのため、クノー家の後継者になるには時間がかかるとはいえ、彼女がクノー家の後継者となることはなかった。
しかし、彼女は「先代の後継者」だった。
自分が後継者だとは知らなかったとしても、先代の王が彼女を後継者に指名した事実があり、それを否定する者はいなかった。
ブリエルは「先代侯爵」としての最初で最後の務めを果たしたが、それは王宮と協力して新しい侯爵を選出するというものだった。
その重要な業務にはマクシミリアンも彼女の夫として参加し、助けてくれた。
もちろん、侯爵夫人も自分の娘が「クノー」として最後の務めを果たすのを助けた。
こうして二人の母と一緒に穏やかに雪が降るのを見ていた午後。
ブリエルはクノー夫人にこう尋ねた。
「私が爵位を失って寂しくないですか?」
「そうじゃないと言ったら嘘になるわね。でも、あなたは子どもの頃から望んでいたその座を自分で成し遂げたでしょう。」
夫人はブリエルがほとんど覚えていない幼い頃の話をしながら、くすくすと微笑んだ。
話を聞くと、幼いブリエルは二人の婚約について「じゃあ私はマクスと毎日遊べるんですか?」ととても喜んでいたそうだ。
今のブリエルなら、なぜかそれを思い描ける気がした。
普通の人なら顔を一度見ることすら許されない王子様を相手に、そんなことを言ったなんて。
「公爵様もだからあなたを可愛がっていたのかもしれないわね。片方の手にはライサンダーの手紙を、もう片方にはあなたを連れて歩いていたんだから。」
ブリエルは、自分が王の兄弟たちと肩を並べるほど立派なお嬢様だったという事実が、まだ信じられなかった。
「三人ともどこであっても悪さをしていたのよ。年齢層は違うけど……」
クノー夫人は目尻をくしゃっとさせて、柔らかな笑みを浮かべた。
「クラリスと素敵な紳士たちのようにね。最近も三人で素晴らしい悪ふざけに励んでいるの?」
「まぁ、なんてことをおっしゃるんですか。」
ブリエルは慌てたような表情で声を上げた。
「少なくとも、うちのクラリスは悪さはしません。」
「ええ、本当に……。彼女は本当に素晴らしい子ですよ。」
彼女は待っていたかのように、クラリスの成績表を差し出した。
少し前に出された月末評価の結果だった。
小さなグラフを指でなぞりながら、ブリエルは目を見開いた。
「見えますか?前回の試験より平均点が上がっているんですよ。順位も急激に上がったのが見えますか?公爵様と私は毎日クラリスの成績グラフをもっと大きくしなきゃって悩んでいるくらいです。」
「……作らない方がいいかもしれないわ。」
少し離れたところで、赤ちゃん用の編み物をしていたウッズ夫人が静かに口を挟んだ。
「でも、お母様!」
ブリエルは涙ぐみながらウッズ夫人を振り返った。
「私はクラリスを誇りに思いたいんです!公爵様、こんなに一生懸命努力している子だって、皆に見せたいんです!ああ、本当に……これはクラリスがあまりにも可愛いからです。私一人で愛でるにはあまりにももったいなくて!」
「可愛い子ほど隠しておきたくなるものですよ。」
「それはウッズ夫人のおっしゃることがごもっともですね、ブリエル。」
二人の母の冗談に、ブリエルはクラリスの成績表を手にしながら両足をぴょんぴょんと跳ねた。
「……クラリスは本当に世界で一番特別な子です。この子を知らずに生きている人たちが気の毒に思えるんです。」
「ブリエル、心配しなくてもどの家にもそういう子が一人はいるものよ。」
ウッズ夫人の言葉に、クノー夫人も頷いて答えた。
「そうね、私たちの家にも一人いるわ。」
「私たちも県庁にこの子の活動記録を提出していないかしら?こんなに一生懸命に生きている子なのだから、自慢したくなっちゃうわ。」
「本当にいい考えですね、ウッズ夫人!」
「あっ、くっつかないで!」
ブリエルがもじもじしながらも笑顔で凍った肩をそっとすくめた。
最近はクノー侯爵夫人を祝うために訪れるお客様が多いのに、その前でブリエルの行動が目立ったら……。
『恥ずかしくて、もう外を歩けなくなるわ!』
ブリエルが青ざめた表情をしたのが面白かったのか、二人の夫人はしばらく顔を見合わせて笑った。
王妃を見送ったライセンダーの机の上には、いつも大陸の立派な令嬢たちの肖像画がきちんと置かれていた。
彼はいくつかの肖像画をマクシミリアンに見せながら、冷静に彼女たちの容姿を評価していた。
マクシミリアンは、そんな言動は慎むようにと忠告しようとしたが、やめた。
「……なに?」
そんな反応がなぜかつまらなく感じたのかもしれない。
ライセンダーは、トロフィーを机の上からざっと払い落として席を立った。
「もう兄さんは、俺に小言を言う価値すら感じていないってこと?」
「……そうではありません。」
「じゃあなんで何も言わないんだよ!文句言ってみろよ!」
「すでにご存じではありませんか?」
マクシミリアンは、落ちたトロフィーを一つ一つ拾い集めて彼の机の上に整然と並べた。
「そんなふうにおっしゃってはいけません。」
「……つまんない。帰る。」
ライセンダーは整えたばかりのトロフィーをまたしても机の上にぐしゃぐしゃにばらまいた。
マクシミリアンは、どんどん扱いづらくなる弟を見て心配だった。
しかし彼がしてあげられることは何もなかった。
こうして訪ねてきても、実際のところ変わることはなかった。
大王妃がきっとライセンダーを訪ねて何の話をしたのか問い詰めるに違いない。
そしてライセンダーは……とても幼いころから母を誰よりも愛しており、また怖れてもいた。
「今日はお願いしたいことがあって来ました。」
しかしマクシミリアンが彼を訪ねたのは、逃れることのできない事実を話すためだった。
「私にお願い?」
ライセンダーが反射的に尋ねた。
「はい。」
マクシミリアンはいつもより少し深く頭を下げた。
かつて彼がこの国の後継者だったことを考えると、これは膝をつくのと変わらない行為だ。
礼儀正しくも切実な態度だった。
「クラリス・レノ・グレジェカイアの命を……お願いいたします、殿下。」
ライセンダーは何も答えなかった。
マクシミリアンは、彼がまたきつい言葉で場の雰囲気を壊さないよう、穏やかな口調で再び話を始めた。
「殿下はお優しい方です。幼い頃には虫一匹にも哀れみを抱かれていた姿を、私ははっきりと覚えています。」
「……言っただろう。」
「殿下。」
マクシミリアンは彼の荒い言葉をもう一度遮った。
「私にできることなら、何でもいたします。」
「……。」
「膝をついてでもそうしますし、ご希望があるなら命を賭けてでもお助けいたします。」
実際には少ししつこく思える哀願だったが、マクシミリアンはそれを恥ずかしいとは思わなかった。
「……なぜ。」
ようやく戻ってきたライセンダーの声は、深い痛みを押し殺すようにかすれていた。
マクシミリアンはようやく視線をそらし、弟を見つめた。
視線が合うと、ライセンダーが再び尋ねた。
「その子のために、そこまでするのか?」
「それは……」
マクシミリアンがクラリスを誰よりも愛するようになったからだ。
そうではないと否定する時間は長かったが、ブリエルの妊娠の知らせを聞いたとき、ひとつ気づいたことがあった。
子どもができたと知ったときの喜びは、クラリスが自分に微笑みかけてくれたときに感じた感情と少しも違わなかった。
だから今では……認めざるを得なかった。
マクシミリアンはクラリスを深く愛していたのだ。
「殿下、私は――」
彼が説明しようとしたが、今度はライセンダーが彼の言葉を遮った。
「僕をここに一人で捨てていったときは、そんなにためらいもなかったくせに!」
「………」
「兄さんは、僕が一人で残されたらどうなるか全部分かってたでしょ!母さんが僕を――!」
ライセンダーはマクシミリアンの襟をつかんだ。
巨大な体が一瞬ふらつくほどの強い力だった。
「許せない、僕は絶対に許せない!」
いつの間にか真っ赤になった王の目には涙が溢れていた。
「……ライセンダー。」
マクシミリアンが彼の目元を拭おうと手を伸ばしたが、ライセンダーはパッと声を上げて兄の手を激しくはねのけた。
「子どもを助けたいなら何でもするって言ったよな?いいよ!ただ一つ、できる方法がある!剣の使い方を教えてやる。」
そう言うと、部屋の片隅に掛けてあった装飾用の剣を取り出し、マクシミリアンに放り投げた。
本能的に柄を掴んだ彼の前に、ライセンダーが近づいてきた。
鋭い刃先が向けられるように。
ぎりぎりの距離で立ち止まった彼は、マクシミリアンに向かって薄く笑った。
「俺を殺せ。」
「……!」
「分かるだろ?俺が死ねば、次の王は兄さんだ。」
ライセンダーはそっと目を閉じた。
最後まで目に溜め込んでいた涙が頬を伝って首筋まで速く流れ落ちた。
「そうすれば、兄さんは誰に遠慮することなく好きにできる。」
そして、もう一歩、剣先に近づいた。
カシャン!
マクシミリアンは手にしていた剣を床に落とした。
「………」
ライセンダーは彼を一瞥しただけで、冷たく笑みを浮かべるとそのまま執務室を出ていった。







