捨てたゴミは二度と拾いません【５話】ネタバレ

ミサは落ち着きなく、降りしきる雨の外を見ようと窓を見つめた。

雷鳴が響くたびに、その顔には怯えたような、まるで助けを求めるような表情が浮かんでいた。

雷のように窓の外が明るくなった。

レイラのことが心配になり、ミサは足をもじもじさせながらどうしていいかわからない様子だった。

彼女はとうとうシスリーと楽しそうに話しているフィレンに近づいていった。

「主人様。」

楽しい時間を邪魔されたフィレンは少し不機嫌そうに顔を上げ、ミサを見つめた。

「どうしたのだ？」

ミサはシスリーを気にしながら、慎重にフィレンに告げた。

「雷が鳴っています。」

ミサの言葉を聞いて、フィレンは窓の外に目を向けた。

時折雷鳴が「ゴロゴロ」と響き、空気が重く張り詰めていた。

「きゃっ！」

シスリーが可愛らしく悲鳴を上げながらフィレンの胸に飛び込むと、フィレンは思わず笑みをこぼした。

彼はシスリーを見つめながら、髪をそっと撫でた。

「雷鳴が怖いのか？」

「少しだけ……」

「ふむ、臆病者だな。」

フィレンはシスリーをしっかりと抱きしめ、彼女の髪に優しく口づけをした。

「仕方がない。今夜は俺が君のそばにいてやるしかないな。」

「本当ですか？」

「もちろんだ。」

目の前に立っているミサの存在を忘れたかのように、二人は互いの唇を貪るように夢中になっていた。

ミサの頬が赤く染まったのは、恥ずかしさやその他の理由ではなく、自分の意識と反する心の動きによるものだった。

彼女は一瞬、声をかけるべきかと考えたが、二人の間に割り込む気にはなれなかった。

「ご主人様。」

待っている間、疲れ果てたミサが再び声を上げると、シスリーの唇を味わっていたフィレンは、はっとして視線を彼女に向けた。

「まだそこにいたのか？」

「下がってもよろしいですか？」

「ああ、下がれ。」

フィレンの返事に、ミサはほっとした表情を浮かべながらその場を後にした。

腰をかがめて静かに退室した。

シスリーはそんなミサをちらりと見ただけで、泣きそうな顔をしているレイラを慰めなければという考えに戻った。

一方、冷静さを取り戻したミサはシスリーに気を配ることなく背を向けた。

「ちょっと待って。」

部屋を出ようとしたミサを、シスリーが突然呼び止めた。

ミサが振り返ると、彼女は目を合わせることなくフィレンに視線を移した。

「フィル、私、足と腰が少し痛いの。長時間走り回ったのが原因みたい。」

「薬を持ってこようか？」

「ううん。それよりも、誰かがマッサージしてくれたら良くなると思う。」

シスリーはそう言いながら、ミサを促した。

シスリーが何を望んでいるのかを察したフィレンがミサに手を振りながら指示を出した。

「ミサ、彼女の足と腰を揉んであげてくれ。」

ミサは腰を屈めて、控えめに返事をした。

「それなら、私よりもっと上手な人がいます。」

「私はあなたにやってもらいたいんだけど。」

ミサの表情は一瞬で曇り、前にいる苦しんでいるレイラの姿が彼女の目に映った。

「何をしているの？早くやりなさい。」

ミサは、フィレンにレイラが雷鳴を非常に怖がっていることを知らせようとしたが、隣にいるシスリーの存在が邪魔をして、口にするのをためらった。

シスリーにレイラの弱点を知られたくなかったし、レイラ自身もそれを望まないように見えた。

「……わかりました。」

どうすればいいのか悩んだミサは、結局フィレンの指示に従うことにした。

急いでシスリーが望むことを片付けて、レイラのもとに向かおうとしたが、シスリーはあれこれ言い訳をしながら、なかなか彼女を手放そうとはしなかった。

その間、ミサは雨がやむのを待ちながら、やっとのことでレイラのもとに行くことができた。

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雨が止み、雷鳴も収まった頃、ミサが私を見つけて泣きながら謝りながら抱きついてきた。

私はそんなミサを抱きしめ返し、二人で声を上げて泣き疲れて眠りについた。

目を覚ましたとき、ミサの姿は見えなかったが、代わりに机の上には睡眠薬の入った箱が置いてあった。

それはミサが置いていったもののようだ。

私は睡眠薬をスープに入れて寝室の外に出た。

ベルを鳴らすと、サラが洗濯物を持って入ってきた。

簡単に身体を拭いて服を着替える間、ずっと私の様子を見ていたサラが心配そうに尋ねた。

「顔色が良くないですね。どこか具合でも悪いのですか？」

「いや、大丈夫だから、私は自分でやるよ。」

「はい、必要なことがあればいつでもお呼びください。」

気が利く彼女はそれ以上手間をかけさせず、すぐに退出した。

今日は特に会うべき人もおらず、静かに部屋で書類を見ようと思っていたところだった。

「お嬢様、公爵閣下があなたをお探しです。」

そう言われ、急な知らせに少し驚いた。

「何の用ですか？」

「それは分かりません。ただ、早くお越しくださいとのことでした。」

その言葉は非常に緊急の用事があるということだ。

最近、領地や邸宅で起こったことの中で、自分を急いで呼び出すような事態を思い浮かべてみたが、何も思い当たるものはなかった。

書類もろくに確認していない彼が、そんな理由で自分を呼び出すとは考えにくかった。

それならあの女性のことなのか？

そう思うだけで自然とため息が漏れた。

行きたくなかったが、彼が呼んでいる以上、無視するわけにはいかない。

仕方なく使用人について行った。

フィレンは相変わらず事務室におり、それも似つかわしくない様子で机に向かい何かを熱心に見ていた。

「呼んだ？」

「これをちょっと見て。」

フィレンが見ていたものを差し出した。

手紙だった。

幸いなことに、その女性に関する話ではないようだ。

私は慎重に手紙を確認する。

高級感のある便箋の上には、皇室の印章が押されていた。

それは皇室から送られた手紙であることを意味しており、私はその場で一言一句見逃さないように手紙を丁寧に読み込んだ。

手紙には多くのことが書かれていたが、要求されているのはただ一つ、一ヶ月後に行われる新皇帝の即位式に出席することであった。

即位式であれば、パーティーが欠かせないはずで、衣装やアクセサリーの準備から始めなければならない。

さらに首都への移動時間も考慮しなければならなかった。

ウィルリオ領地から首都までの移動には約4日かかるため、残された時間は実質的に3週間しかなかった。

「すぐに衣装デザイナーを呼ばなければ。」

アクセサリー職人と靴職人も一緒に呼び寄せること。

首都に一度行けば、少なくとも1ヶ月は戻ってこられないだろうから、その間にやるべきことを前もって片付けておく必要があった。

他のことはともかく、梅雨の季節に備える準備だけは整えておかなければならない。

準備が間に合わないものについては、書状で指示を送るか、魔法通信具で相談すればよいだろう。

「レイラ。」

やるべきことを頭の中で計算していると、フィレンが私を呼んだ。

「なに？」

「これからは私に敬語を使うように。」

「……え？突然何を言い出すの？」

「これから社交界で一緒に出ることが多くなるだろうから、砕けた言葉遣いだとまずい。敬語を使うのは他の人の目に良い印象を与えるからだろ？」

もっともな意見だった。

私も社交界では今までのようにフィレンにため口を使うつもりはなかったが、フィレンが突然それを指摘するので戸惑った。

「嫌なのか？」

私は無言で彼をじっと見つめた。

するとフィレンが少し小さく息を吐きながら尋ねた。

「まさか、俺が他の人の前で恥をかくのを望んでるわけじゃないよな？」

「そんなわけないじゃない。」

「じゃあ、他の人の前では敬語を使うようにしよう。それが普通だろ？」

そうだ、それは正しい。

しかし問題は、今まで何も言わなかったフィレンが突然そのような要求をした理由だった。

皇室からの手紙を見て、そうするべきだと思ったのだろうか？

それとも……まさかあの女性が何か言ったのか？

前者よりも後者の可能性が高かった。

過去にも似たようなことがあったが、その時フィレンは私に敬語を求めることはなかった。

むしろ彼は「他人の目を気にする必要はない」と笑いながら言っていたのだ。

それが急に態度を変えたのは、やはりあの女性が関係しているに違いない。

「わかった。」

そう答えながらも、私がただ黙って従うつもりはなかった。

「これから他の人の前では、あなたを公爵として扱うわ。あなたを“公爵様”とお呼びして敬語を使うようにします。」

「では、これから……」

「その代わりに。」

私は疑わしげな目でこちらを見るフィレンの顔をじっと見返しながら言葉を続けた。

「あなたも他の人々の前では私を“レイラ”ではなく、“テベサ令嬢”と呼び、言葉を丁寧にするようにして。」